この作品を読んだ人はみな、底知れない気味の悪さや後味の悪さを覚えたに違いない
その「恐怖」は「ホラー」や「サスペンス」というジャンルよりも、私たちが時おりみる「夢」に近いものだ
夢とは理解し難いもの、その世界は現実に似ていてあるいは似ていないものである。この作品の世界観はそれに近しいと感じている
作品世界の中で男を突き動かし耳もとで囁いた存在も、まさに彼の夢の中にいたものだ。この小説はおそらく、その夢の中の存在が私たちを恐怖させるべく執筆したのだろう
さて私はまた別の意味で「恐怖」している。それは才能溢れる若き新人ミステリー作家を、こんな場所で発掘してしまった"私自身"にだ(正確に言えば先を越されているが)
Kisaragi先生の本作品の誕生を祝し、次作品への期待を込めて
醜い姿が作ったのは、妄執的な歪んだ心。
美しい姿が美しいものであると盲信することって、自らの醜さをさらに貶めているようにも思えます。
ああ可哀想な男だとまともそうな感想を抱きます。
いや、本当に可哀想なのは奪われた命だ。滅裂となった思考と、解離的な意識による犠牲者たちだ。
一体誰が悪いのだろうと犯人探しをしてみても、結局根底的な原因は見つからない。
社会関係におけるとある理不尽を、ぜひとも感じ取ってみてください。
何もかも受け入れてくれて優しく微笑んでくれて何かを強要されなくてただ肯定さえしてくれる。そんな存在を天使なんて呼んで、心に安らぎを求めるのかもしれません。
まあ
そんなものいませんけど。
1話完結で、これほどまで読み応えのある物語に、久しぶりに出会った。
主人公は醜い男。その生活態度もけして美しいとは言えない。そんな男は美少女と出会う。そして、美少女に執着した男は、夢と現の間をさまよい始める。それがすべての始まりだった。
夢の中で殺されていたのは老人。現実の朝刊で死んでいた老人は、夢で殺されていた老人だった。さらに夢と現が曖昧になっていく。
美少女と醜い男の対比。この二人の語りの入れ替わり方。それに伴う視点の切り替え。それらのどれをとっても作者の才能がうかがい知れる。
この不思議な感覚に酔いしれたい方は、是非ご一読下さい。