code5 国のモルモット達

9時から授業が始まり、3時に学校が終わる。その日常を繰り返していた。特に課題も無く、平凡に時が流れていた。クラスの雰囲気も少し明るくなり、グループというものができつつあった。


俺は、どこのグループにも属することなく、1人で過ごしていた。別にグループというものには別に興味がない。集団を形成したとしても、そのグループ内で軋轢、地位というものが必ず生まれてくる。


だから、そこまでグループに属する必要性も無い。そうあの女桜ノ宮も1人で本を読んでいる。最初の方は桜ノ宮のお陰で委員長が決まったということで、周りの女子たちに話しかけられていたが、あいつの冷たい態度に嫌気がさし、ハブられている。


あいつ自身はハブられたとしても何もダメージがなさそうであるが。

でも、俺はぼっちが解消されつつある。同室の早乙女が話しかけてくるようになった。

まだ、おどおどした態度は変わらないが…。

まあ、俺も一歩前進であろう。


だが、まだ柳瀬千代は俺の近くにいる。ここまで来ると気にしなくなったが、流石に君が悪いのは確かである。


そんな中、授業開始のチャイムが鳴り研究員が大きな段ボールを抱え入ってきた。そして、それを教卓の上に無造作に置き神妙な面持ちで喋り始めた。


「今から、この電子端末を名前順に渡していく。これを無くす、即ち命を捨てると同義だと思え。それはあとで説明するが。」


そう言って、電子端末を各人に渡していった。この電子端末が命と同義と言うのが考えた見たが全く分からなかった。あとで説明があるとは言っているが気になってしまうのも確かである。


そして、全員に行き渡ったところで研究員は一呼吸置き喋り始めた。


「これから言うことをしっかりと聞いておくように。とても重要だ…。まず、君たちは自らの欠落を探すそれが目的だ。だが、君たちも分かった通り普段の生活では全く分からない。それが率直な意見であろう。


そして、君たちは初日に課題というものをやった。しかし、ペナルティの実態もよく分からない。それが今からする話につながって来る。

我々は君たちの目的を成し遂げる為の効率化を図り、

『LIFE POINT 制』 というのを施行する。


君たちの端末の電源を入れると100ptと表示されているはずだ。それが君たちの命に変わるものだ。

君たちは課題を通してそのポイントを0にした場合ままた、1期の間での目標ポイントというものに満たなかった場合は君たちの脳を制御しているチップを操作し、脳の機能を停止させ、君たちが学習したチップを次世代の子供達に引き継がせる。


0ポイントになったものは負け犬と同等である。そして、各学期の指定日に自らの欠落を報告できる日が設けられている。そして、その日に送った回答があっていた場合は書類でその人に送られて来る。


間違っていた場合はバツと表示されるだけだ。また、

自分が回答して合っていたことを他言した場合は聞いたもの言ったもののポイントをゼロにする。


まずここまで質問あるか?」


質問も何も話が追いつかなかった。ポイント0=死である。それは、分かる。しかし、研究員は言ったはずだ。全員が欠落点が見つかるまで終わらないと。


その時、俺の前の武田が手を挙げた。流石に副委員長に選ばれただけはある。難しい内容を理解し、質問する。桜ノ宮の目は正しい…。


「LIFE POINT 0=死でありますよね?それは法律上許されることなのでしょうか?」


「武田、お前は自分の立場を考えたことがあるのか?

お前は国のモルモットだ。完璧な人間を作り出す為の道具でしかない。」


その言葉でクラスに動揺が走った。あまりそのことについて考えたことがなかったが、実際そうである。

ここにいるものは実験台だ…。


「では、全員が欠落点を探すまで終わらないという言葉がありましたけど、誰かが欠けてしまえば、成り立たなくなります。」


「それは心配するな。我々は40人全員でとは言ってないだろ?だから生き残っている全員が欠落点を探せた時点で終わりだ。」


つまり、欠けたものはいない存在として数える為、いなくなった時点でそいつは全員の枠組みから外れる。

天才であっても、能力が使えなければ蹴落とされる。

なんと最悪な仕組みだ。


「では、一つ聞いてもよろしいでしょうか?このポイント制が私達の欠落点を見つけるのに有効的なものなのでしょうか?」


桜ノ宮は凛とした態度でそう言った。

周りの人も頷き桜ノ宮の意見に賛同していた。流石だな桜ノ宮…。



「人間は追い込まれた時に自分という人間を見つめる事ができる。君たちを本当に追い込む事で能力の飛躍的なアップ。欠落点を見つけ出す為の効率化が図れます。」


「ええ、分かりました。ありがとうございます。」


そう言って桜ノ宮はゆっくりと席に座った。桜ノ宮は質問の回答が分かったのではなく、何を質問しても無駄だと言うことを悟ったみたいであった。しかし、桜ノ宮が言っていた事が現実になったか…。安心は人間の身近にある最大の敵だと。


お金を使わないで商業施設、普通の暮らしをしていたが、その影にはこのような思いがけない穴がある。


俺は今日改めて自覚した。自分達被験者は国のモルモットであるということを…。


「質問は無いな?随時、実験の効率化を図る為制度を導入する場合がある。その時は柔軟に対応するように…。」


そう言って、一限が終わった。そして、クラスの中には悲壮感が漂う空気が蔓延した。

居苦しい…。そう俺は感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る