code4 安心に潜む危険性

俺はおもむろにベッドに倒れ込み、目をつぶった。

見慣れないものが多すぎて、かなり疲れた。知識としては知っていても、実物で見るとやはり違う。

それがある種の楽しみでもあるのだが…。


しかし、自室の早乙女はまだおどおどしていた。話し合いも桜ノ宮が抜けるとすぐさま教室から出て行った。

人と接するのは苦手だなとは察せるが、ここまで来ると気味が悪く感じる。

別に自分から話しかけはしないのだが…。


他人がいる部屋で沈黙が続くと辛いというのを今日思い知った。このもどかしさとやり切れなさが俺を襲う。でも、俺は自分からは喋りかけたくない、もっと言うと俺も喋るのは苦手だ。


そして、立ち上がりテレビをつけた。画面からは映像が浮き出し鮮明にその風景を映し出している。

テレビもあまり見たことがないので、興味が唆られるのも事実だ。だが、テレビがあると無いとではこの沈黙が続く続いていた空気を打破できるのでとても画期的だ。


俺は寝っ転がりながらテレビを見ていた。


「つまらない…。」


その一言に尽きる。世の中の人がなぜこんな稚拙でつまらないものを見るのかが理解出来ない。そして、俺はテレビを消そうとした時、早乙女は急に暗い顔になった。

そして、俺が離れると急に顔が笑顔になった。

表情の変化はとても面白かったが、さっぱり理解できない。


俺は、堪らなくなって口を開いた。


「お前はテレビを見たいのか?」


「えっ、ぼく?べ、別に大丈夫だよ。と、特に見たい訳でも無いし。」


「ああ、分かった。じゃあ消すわ。」


そう言って俺はテレビを消すとやけに暗い顔になった。何なんだこいつはと思いながら定位置に戻った。

でも、俺がおかしいと思っていても、その俺の価値観が正常とは言えないから、実際何とも言えないのが実状だ。


時計を見ると6時半を過ぎていたところなので俺は外へ出る支度をした。支度と言っても、部屋に備え付けの服に着替えるだけなのだが。


「神宮寺くん…。ご飯食べに行くの?」


「ああ。時間も時間だしな。」


「じゃあ僕と一緒に食べない?」


「嫌だ…。別にお前が嫌いって訳ではないが、食事は1人で食いたい。他を当たってくれ。」


「そ、そうだよね。僕とは嫌だよね…。」


「そこまでは言ってないが、夕飯くらい1人で食いたい。」


そう言って俺は部屋を足早に出た。同じ目的であるのか外にはクラスの奴が何人かいた。案外ルームメイトと仲良くなっているようで、俺みたいに1人で食うものは居ないように見えた。


食事処は商業施設にあり、好きなものをただで食える。何とも元が取れない商売だ。外は暗くなり始め、

街灯があまりないせいか、空の星はくっきりと見えた。


孤島ならではの景色か…。そんなことを思いながら空を見上げだ。まだ、6時半なので夕飯を食う前に、散歩をすることにした。


夏の夜というのもあり、涼しかったのでちょうど良かった。しかし、やけに俺の体にまとわりついて来る黒い虫が気になる。俺が立ち止まると、その虫は俺の腕に飛びつき針を刺した。


「この虫は人の血を飲んで成長するのか。そして、この針は血を吸うための管。」


俺は読んだ本のことを思い出した。こいつが蚊か…。

腕に力を入れると蚊が差している管が抜けなくなり、もがいて居た。


そして、俺は思いっきり蚊を手で潰した。


人間の血を生きる糧にするなんて面白いな。リスクを伴うのにそこましでして、人間の血を吸わなくて良いだろ。他の大型動物にすれば良いものを…。それが俺の率直な感想であった。


そんなことをして、商業区を、歩いているとそこには噴水があった。そして、そこにのベンチに腰かけ、本を読んでいる桜ノ宮の姿を見つけた。話しかけるつもりは無いのだが…。


俺が気づかれずに立ち去ろうとすると、急に桜ノ宮が口を開いた。


「安心、それが人間の最も近くにある敵である。これは、シェイクスピアの言葉よ。今の私たちの境遇に近いと思うのだけれど。」


「別にそんなことを俺に聞かなくても良いだろ。」


「私と同等かそれ以上に頭の良い神宮寺くんに聞いて見たいと思っただけよ。」


「そういうのはやめてくれ。俺はお前に比較対象にされるほど優秀な人間ではない。」


「じゃあ、言い方を変えるわ。通りすがった君に意見を聞きたい。これならどうかしら?」


「まあ、答えるならこの環境は異質だ。俺たちに普通の暮らしをさせているだけ。不自由なく、不便なく、しかも金も払わずに商業施設を使わせている。」


「そうよね。あなたもそう考えるのね。私は絶対何か裏があると思うわ。私の戯れに付き合ってくれてどうもありがとう。では、お休みなさい。」


そう言って闇夜の商店街に消えていった。流石にこいつだけは違うなと改めて思った。そして、俺はラーメン屋というものを見つけ、1人で入っていった。


これから、こんな課題が現れるとも知らずに子供達は各々が気ままに日常生活を謳歌していた。

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