code3 桜ノ宮という女
異なることをしている人が多数のこのクラスで、律儀に自己紹介をしていた女子が苛立っていた。自己紹介、それは他人を知るための1番の手段だ。
だが、自己紹介はあくまで他人の氷山の一角しか知ることが出来ない。
そのため、委員長選出にはあまり好ましくないと俺は思うが、他者も実際そう感じているだろう。
そこで1人の女子が席を立った。
「自己紹介とか言う生産性のないものをしても時間の無駄だわ。帰って本でも読んでるわ。」
時期にこの退屈な時間に嫌気が指しこう言う人物が出るのは予見していたが、こうなってくると収集がつかなくなる。
「じゃあ、あなたが案を出してよ。これじゃダメなんでしょ。」
先程まで自己紹介をしていた女子の1人が強くそう言い放った。意見としてはどちらも間違っていないが…。俺がどうこう言う立場ではない。
「私が案を出す必要性がどこにあるのかしら。ただ無駄な時間を過ごしているあなた達に助言してあげただけだわ。ペナルティなんてどうでも良いわ。
強いて言うなら、くじで決めれば良いんじゃないかしら。」
「あ、あんたそんなんで良いの?だってあなたになるかもしれないのよ。」
「ええ。それがどうかしたの?立った2パーセントの確率よ。当たらない確率の方がよっぽど多いもの。」
「研究員の人の話聞いてた?その人の人柄、性格を分析して選出する。それが課題よ。そんな決め方で良い訳?」
「ええ。最後に、決め方はなんでも良いと仰っていましたよね。リーダーになる人は誰であってもまともに仕事に勤めるでしょう。もう、話は終わりですよね。では、さようなら…。」
そう言って、桜ノ宮 佳代はクラスから出て言った。
そして、群集心理が働き、どんどん人がクラスから流れ出て行った。残ったのはさっきからずっと寝ている者、最初に発言をした女子とそれに賛同するもの。
ぼーっと虚空を見つめている者、俺が残った。
もう、このままでは話し合いどころではない。人が居なくなってしまったから。
でも俺が動かなくとも無事終わると思うが…。
「神宮寺くん、優秀なあなたはどう考える?」
さっきまで桜ノ宮と言い争っていた、白石 寧々が俺に話しかけてきた。何をもって優秀というのかは分からないがら研究員の余計な言葉で、俺にそういうレッテルが貼られたのは確かだ。
「俺を褒めて、なにかを聞き出そうとしても無駄だ。
俺は別にこんな事にはなから興味がない。言うならば、周りを見れば良いんじゃないか?」
「周り?」
そして、白石が辺りを見回すと一枚の紙切れが落ちていた。そこにはクラスの人の名前とその人の性格がぎっしりと書かれ、委員長には◎、副委員長には◯が書かれていた。
「何これ…。」
それを書いたのは紛れもなく桜ノ宮佳代だ。なぜそんな遠回しいことをしたのかは分からないが、彼女はかなりの洞察眼があるらしい。人を見極めるという。
なぜ、俺がそれを知っているかと言えば、彼女はここにくるまで周りを見て、ここの教室入ってもなお、それを続け紙に記していた。
会話だけ見れば無責任に見えたが、やることはやっている。本当にわからない奴だ。
そこに記されていた名前は、おそらく白石寧々と俺の目の前にいる武田 浩司であろう。
「私が委員長で、武田君が副委員長?武田君はそれで良いの?」
「もちろん構わない。僕が書かれていることは大体分かってたしね。じゃあ、よろしく白石さん。」
「じゃあ、何であなたは喋ろうしなかったの?武田君。」
「僕が喋る理由も無かった。ただそれだけだよ。全部桜ノ宮さんがやってしまったからね。」
「分かったわ。でも、なんか桜ノ宮は気に食わないわ。書いたなら書いたって言ってくれれば良いのに!」
そう言って、彼女は仲良くなった周りの女子達と桜ノ宮の陰口を言っていた。あの言い方なら敵を作ってもおかしくはない。
しかし、彼女の一切の行動原理が理解できない。
「後、お前はいつまで俺を見ている。柳瀬 千代…。」
彼女は教室に来てもなお、俺を見ていた。ここまで来ると気味が悪い。彼女の意図が一切見えない。俺を見極めようとしているならそう理由を付けてもおかしくは無いが、彼女はどこかが違う。
「だから、君のことを見ているとなぜか胸がキュッと締め付けられるの?でも、その原因を突き止めようとしても分からないから、ただ君を見てるだけだよ。でも、気にしないで、君に何か危害を与えるつもりは無いの。」
「理解できない。」
そう吐き捨て、俺は教室を去った。武田と白石は集まって研究員に報告をする準備をしていた。
今日という日は終わりに近づきつつあった。
太陽は紅色に染まり、空を赤く染め上げた。
水も赤く光り輝き、幻想的な風景を作り出していく。
でも、今日は面白いものが見れた。桜ノ宮佳代、彼女の飛び抜けた才能を垣間見て、俺は薄っすらと笑みを浮かべた。
ーー監視室にてーー
「桜ノ宮佳代、実に面白い子ですね〜。でも、あの様子だと自分の欠落した点を見つけるのに時間はかかりますね、所長。」
「ああ、でも彼女より面白い子を見つけたよ。これからが楽しみだ…。」
2人は密かに笑みを浮かべ今日の出来事を楽しんでいた
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