code2 協調性の無いクラス

俺たちは孤島に降り立った訳だが、全く異なる環境であったため、慣れるのに時間を要するなと感じた。

島にはヤシの木や林が点在していた。初めて見るものばかりだ。


ここには俺たちと教師、研究員しかいない。つまり、研究施設の自由度が少し高くなっただけに過ぎない。

しかし、一向に周りの奴は口を開こうともしなかった。


さっきの女もまだ、俺の近くにいる。本当に行動が不可解であった。少し歩いていくと、そこには街並みが広がっていた。

街並みと言っても、商業施設と学校くらいしか無いのだが…。学校はお世辞にも大きいとは言えない平凡な学校であった。

学校生活は初めてだ。社会の縮図であり、お互いの利害や気持ちも生活に大きな影響を与える。その中で、俺たち被験者は暮らさなければならない。


「終わりの見えない目標に向かって」


街は東京と比べると比較対象にはならないほど田舎であった。本当にここで人が住めるのかというレベルだ。住めるから、ここに連れてこられた訳だが。


学校近くの寮に来た所で研究員は立ち止まった。

そして、俺らも歩みをやめた。


「寮は一部屋に2人だ。ルームメイトはこの先変わることはないだろう。なので、言うまでも無いがお互いに親交を深まるように。


今からペアと鍵を一人一人に渡す。呼ばれた者はこちらへ来い。」


研究員は次々と名前を読み上げていった。聞く限り呼ばれた順番は特に法則性も無く、バラバラであった。

また、男子と女子の部屋は分けられ、必然的に同性と暮らすことになる。


この寮は三階建てで、比較的新しい。普通に住む分には苦労は無いだろう。


「303号室 神宮寺海斗、早乙女 俊介」


俺の名前が呼ばれた。同室の早乙女俊介は髪がかなりの茶髪で、染めたような髪だった。そして、髪質が硬いのかツンツンと髪の毛は立っていた。

無害な存在であってほしいのを願う。


俺と早乙女は軽くお辞儀をし、303号室に向かった。

その間、俺と早乙女の間で言葉はかわされなかった。


鍵はカードになっていて、カードをスライドしスキャンすると開く仕組みになっている。

ここだけ田舎を感じさせない仕組みであった。


部屋の中は実にシンプルだった。シングルのベッドが二つ。勉強机が二つ。高画質のテレビが一台置いてあった。また、小さなキッチンとお風呂、もちろんトイレが兼ね備えられ、暮らすには十分の設備であった。


初めての共同生活だ。勝手が分からないのも事実である。俺は荷物を置き、片方のベッドにもたれかかった。何も変哲のないただのベッドだ。


俺が早乙女に目をやると彼はおどおどしていた。

慣れない環境に適応できていないのであろう。俺も平然としているが、無機質な施設に入れられていたお陰で、自分が今こうして寝てるのでさえ気持ち悪い。


「荷物を置いた者は直ちに校舎に集まるように!」


突然それだけが放送から流れた。取り敢えず、カードだけを持ち、俺と早乙女は外へ出て校舎に向かった。

外には研究員の人が立っていた。


「これから教室に向かう。付いて来い。」


そう言って校舎の方に歩き始めた。しかし、こう歩いている中でさえ、会話は起きない。皆自分の世界に生きている。


校舎は特に何も特徴も無かった。教室は土足なので靴を履き替える必要もない。そして、廊下を渡りある部屋へ入っていった。


「お前ら、名前順に席に座れ。ア行の奴から左から座っていけ。」


俺はか行であるので前から5番目で一番後ろの席であった。左端というのは落ち着くものがあった。


「これから、課題を提示する。今日中にこのクラス1人1人の性格、人柄を分析し、このクラスの委員長、副委員長を決めろ。決め方は何でも良い。

もしも今日中に決まらない場合ペナルティを課す場合がある。以上だ!あとは好きにやれ。」


そう言って、研究員は外へ出ていった。やはり、沈黙が流れるのは必然である。誰かが責任を負わなければならない。この中誰もが1人で生きていたのは間違えない。


しかし、得意分野は違うはずだ。実際この中にも会話に長けている人やリーダーになりうる存在はいるだろう。しかし、知識としてまとめる方法や会話の方法を知っていたとしても、実践はあまり行ってきていないのだ。


いわば宝の持ち腐れという奴だ。俺も俺であまり目立ちたくないと言うのが本心だ。

誰も一言も発さず、時間だけか流れていく。

俺は教室を見渡すと小さいが隠しカメラが設置されて居た。研究員がいなくなったことに少なからず疑問を感じていたが、だいたい意図は読めた。


15分くらい経過した頃、1人の女子が立ち上がった。周りは少しざわめいたが、彼女に目線を向けた。


「黙っていても何も始まらないし、近くの人同士で自己紹介をしない?それで、その人がどういう人間か見極めようよ。まずそこからだよ。」


それはまぎれもない正論だ。でも、この異質な人間か揃うこの教室でそれに従うだろうか。

何人かの女子はそれに賛同し自己紹介を始めたが、大半の生徒が違うことをしている。


絵を描いている者、数式を書き並べている者、本をひたすらに読んでいる者。

協調性と言うものが一切見られない。このクラスをまとめあげるこれはかなりの至難の技だ。


俺はただ誰かが終わらせてくれることを願うだけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る