code7 柳瀬千代の告白

俺は白石が出ていくのを確認し、後ろに控えていた桜ノ宮に会った。桜ノ宮はやれやれとした顔をしながら、俺の方を見た。


「あなたは、裏切るのね…。白石さんを」


「勿論だ。あいつはただのコマにしか過ぎない。

俺の作戦で白石を蹴落とす。」


その時、後ろの方で気配がしたが、気にしないことにした。そして、俺は話を続けた。


「白石に俺が送る番号はお前の番号だ。それでどうだ。これで2人で1位、2位を独占できるだろ。」


「ええ、そうね。まあ、あなたが私に本当の言葉を教えるか分からないけれど。」


「信用してくれ、お前を一位にしても良い。」


「まあ、八百長は好きじゃないのだけれど、乗ってあげても良いわよ。」


「じゃあ頼む。」


そう言って、桜ノ宮は図書館を出て行った。俺もそのまま図書館を出て、外にある人物がいるか確認した。

案の定、俺の予想通りに動いてくれたのでうまくいきそうであった。


図書館の帰りは珍しく商業施設に立ち入って見ることにした。商業施設は、俺たちしか居ないので、ほぼ貸切といっても良かった。俺は、ゲームセンターと書いてある看板を見つけ入ってみることにした。

そこには榊が立って居た。

無視してそのままスルーしようかと思ったが、榊という人間が少し気になったので、接触してみることにした。


「よう、榊…。」


俺がこう呼びかけると彼は無視をした。無視をしたのではなく集中して居た。彼は格闘ゲームを見事な手さばきでこなし、体力満タンでクリアをして居た。


「お前誰だ?」


「神宮寺だ…。お互いボッチだな。」


「そうだな。話が無いなら終わりで良いだろ」


「お前はもう、このゲームで勝つ算段ついたんだろ」


「知らん。さっさと俺の前から失せろ。忙しいんだ。」


「まあ、ハッキングして自分の表示がすり代る小細工をするんだよな。」


「面白いな、お前。でも、お前に協力はしないぞ。」


「こっちも頼む理由もない。せいぜい、アクセス記録が残らないようにしろよ。」


「俺を誰だと思ってる。」


「ゴーストと言われている、天才ハッカーだっけか?」


そういって俺は店内奥へと入っていった。店内はコインゲームからクレーンゲームまで全て無料でできる。

とても快適といえば快適だ。俺は、クレーンゲームを窓越しにずっと見つめている、見覚えのある顔を見つけた。柳瀬千代だ。

俺は気づかれぬよう、気配を消していったつもりだったが、すぐに気づかれた。


「こんにちは、神宮寺くん。」


「おう…。」


「私分かったんです。」


「良かったな。」


「私のドキドキして居たこの感情は、恋だということを。」


「誰に対してだ…?」


俺は恐る恐る聞いた。しかし、答えは予想通りの結末だった。


「神宮寺くんです。」


「こ、告白なんだよな?」


「告白?なるほど、私はあなたに気持ちを告白したわけですね。そういう意味の告白ですね。」


「うん。」


「はい、そうです!」


柳瀬千代は笑顔でそういった。これは何て返して良いのか分からない。まず、恋愛というものが全く分からないのだ。俺は返答に非常に困った。


「俺は返事をすれば良いのか?」


「何で返事をするんですか?」


「いや、だってお前の気持ちに答えられるか、答えられないか、答えを言わなければならないと思うんだが。」


「まあ、そうですね。その方が面白そうですね。」


「面白い?告白って男女の付き合いと聞いたことがあるのだが…。」


俺と柳瀬の会話は全く噛み合って居ない。まず、柳瀬千代が全く告白を分かっていない。俺も分かっているとは言えないが、ここまでは酷くない。


「男女の付き合いとは、なにをするんですか?」


「デートとかじゃないのか?」


「おーう。なんかロマンを感じますね…。」


「じゃあ、お前は俺とそういうことをしたいのか?」


「そう言われると、なんか照れますね。」


「なんで、告白したお前がこんな所で照れるんだ?」


柳瀬はなにを考えているのか全く分からない。それが俺の正直な感想であった。しかし、ゲーセンで告白とはなんともシュチュエーションが雑だ。


「そう言われればそうですね。まあ、私のこの感情は付き合うということを求めているような気がします。

では、お付き合いこれからもよろしくお願いします。」


「なんで、俺がオッケーしたみたいな流れになってるんだ?」


「先ほど、俺と付き合いたいかみたいなことを言われたので。」


「あー、お前本当に会話成り立たないな。」


俺はそう言って頭を掻きむしった。そして、話が一向に展開しないので、俺が話をまとめた。


「お前は俺のこと好きなのか?」


「はい。」


「じゃあ、付き合いたいのか?」


「してみたいです。」


「分かった。じゃあ、付き合おう。」


「はい…。」


そう言って俺は、この訳の分からないシュチュエーションから訳の分からない会話で晴れて、晴れてなのか分からないけれど、柳瀬千代と付き合う事になった。

この軽率な行動が、これからの動きに影響を与えてくるとは夢にも思わなかった。

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それでも、僕らは探し続ける すだちレモン @bsk389249

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