第30話 ピピラミミッド


 アトゥム神が「送ってやる」と言って呼び出してくれた光の扉にファラオたちが入ると、そこはクフ王のピラミッドではなくて、ツタンカーメンの王墓の中でした。


「さっさと寝ろっていうことですかね」

「ワシもそのほうが良いと思うぞ」

 実際、ツタンカーメンは前に、何日も王墓に帰らなかったせいでぶっ倒れています。


 夜が明けて、お供え物の朝食のパンをしっかり食べて、準備万端。

 ツタンカーメンとクフ王、二人分の霊力カーを合わせて、二人が余裕で通れるぐらい大きな光の扉を開きます。

「いざ! ギザのピラミッドの中へ!」




「微妙じゃな」

 出た場所は砂漠の真ん中でした。

 ピラミッドは遠くのほう見えます。

「さてはお前さん、ワシとの旅が終わるのが寂しいんじゃな?」

「それはないです」

「まあ良い。せっかくじゃ。少し歩こう」


 砂漠は危険がいっぱいです。

 サソリも居るし、毒ヘビも居ます。

 だけど幽霊とミイラには関係ありません。

 そう思って油断していると、悪霊の群れに囲まれてしまいました。


ク「ななな、何じゃこいつらは!?」

ツ「わわわ、わかんないですー!!」


 今回の悪霊は、手足の形は人間のようだけれど、全体的にゆがんでいて……

 その顔は、まるで作りかけの粘土細工のようでした。


ツ「何で真っ昼間から幽霊が!?」

ク「ギザでは夜通し祭りをやっておったからなっ。祭りの灯かりで追い出されて、そのまま昼夜逆転してしもうたんじゃろうっ」


 悪霊たちが迫ってきます。

 物悲しく、けれど哀れみをかけるにはあまりにもおどろおどろしいうめきを発して。

 二人のファラオは抱き合って悲鳴を上げました。





「モーーーッ!!」

 いきなり場違いな鳴き声を響かせて、ふくよかな牝牛が優雅な足取りで歩いてきました。


ツ「あ……貴女はまさか……っ」

ク「慈愛の女神のハトホルさまであられますかの?」


 牝牛はゆったりとうなずきました。


 ハトホル女神が悪霊をぺろぺろと舐めると、悪霊の顔がだんだんハッキリしてきました。


「アア……アアア……」


 うつむく悪霊。

 泣き出す悪霊。

 生前の記憶を叫び出す悪霊。

 どうやらみんな、自分が誰だったのか、今まで忘れていたのをハトホル女神の力で思い出したようです。



 彼らはミイラを残せなかった人たちでした。

 獣に食われたり、水害で遺体を流されたり。

 子孫が絶えて、祈りをささげてもらえなかったり。


 それ故に砂漠に迷い、このまま放置すれば消えてなくなってしまう運命だった魂たち……

 そんな彼らを導いて、ハトホル女神が歩き出します。

 ツタンカーメンとクフ王も、列の最後尾にくっついていきます。

 一行はピラミッドのほうへ向かっていきました。


 遠くからでも良い目印になるピラミッドに、クフ王は「やっぱりでっかいものを作ったワシは偉い」と、ツタンカーメンに胸を張ってみせます。

 ツタンカーメンは「はいはい」と肩をすくめました。




 ギザの都に到着すると、お祭りは終わって、すっかり静かになっていました。

「ちと寂しいのう」

「仕方ないですよ」


 後片付けの様子を眺めます。

「何じゃ、この祭りはイムホテプのやつめのためのものじゃったんか。ワシを差し置いて生意気な」

「はいはい。スネないスネない」


 イムホテプさんは、二人のファラオの旅の始めに、あし舟の修理をしてくれたあの人です。





 ピラミッドは、天へと至る階段です。

 ハトホル女神に導かれた悪霊たちは、混雑しないように三つのグループに分かれて、三つのピラミッドを登っていきます。

 ピラミッドを登るうちに浄化されて、悪霊は、ただの霊に戻っていきました。

 風が吹き、女神も霊も、天の彼方へと消えました。




「ふぅ」

 と、ツタンカーメンは軽く伸びをしました。

 これでやっとクフ王のおもりから開放されます。


「やれやれ、ようやく若僧の世話もおしまいかい」

 隣のクフ王も同じように伸びをしていました。


「先輩のピラミッドはどれです?」

「一番大きいやつじゃ」


 最後まで、ピラミッドの入り口まで、しっかりと送り届けて、さよならします。

 クフ王のミイラはピラミッドの中で、再び長き眠りにつきます。

 ツタンカーメンは王家の谷の王墓へ帰ります。


 クフ王がピラミッドの中へ引っ込んで、すぐに光の扉を使うのも何か味気ないような気がして、ツタンカーメンはしばらく浮遊してピラミッドを見下ろしました。


 エジプトを象徴する、偉大な建築物が三つ……


「……あれ?」

 さっきのピラミッドが一番大きく見えたのは、高台に建っているからで、本当に一番大きいのは、その隣のやつでした。


「………………」

 間違えてクフ王を、カフラー王のピラミッドに連れて行ってしまったのです。


「知ーらないっ!」

 ツタンカーメンは光の扉を開いてささっと逃げ込みました。

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ファラオ珍道中 ~近ごろの若いものはとクフ王が言ったけれどツタンカーメンはてきとーに聞き流した~ ヤミヲミルメ @yamiwomirume

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