第3話

 トーイの瞳はおもちゃみたい。

 まんまるで、くるくるくるくる。

 虹色の瞳。


 柔らかいひげがひくひく動くと、まるで笑っているみたい。


「トーイ、変な顔」

「にゃあ」

 ふふふふ。


 ラジュゴーシはとても嬉しくなった。

 雨の中、ステップを踏む。やり方なんてわからなかったけど、手をぶんぶん振り回し、足で大地を力強く踏み鳴らした。

 全身を使ってステップを踏む。その破調に合わせて、トーイは鳴く。


「にゃあ。にゃあ。にゃむむ、にゃ。ぐうう」


 ピンと張った耳をレーダーみたいに動かして。ピンク色の鼻はぷくぷく膨らんだ。


 小さな小さな霧のような雨が、ふわふわとラジュゴーシとトーイを包み込んでゆく。


 懐かしい。

 とても懐かしい感覚。

 あれは、いつ?

 あれは、誰?


 ラジュゴーシは本当は覚えてる。きっと覚えている。この幸福を。この幸福と同じくらいに幸せだった頃のことを。


 トーイは虹色の瞳を輝かせながら真っ直ぐにラジュゴーシを見て、そして、「な」と短く鳴いた。


 ばあやの呼ぶ声。


 空はふいに明るくなったと思ったら、

 大きな虹がひとつ、

 堂々と立っていた。

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虹色の瞳の猫は死なない ひらがなのちくわ @tururun

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