『落ちこぼれであるかどうかは、周りが決めることじゃない。あなた自身が決めたこと』
とっても素敵なセリフだなぁ、と思いました。学ぶきっかけは、むしろ学びとは関係のないところにある、そんな風に思います。
哲学と言うと、簡単なことを難しくする学問なんて思われてしまうこともありますけど、そうではありません。やや硬い言葉で言えば、哲学の目的は難解な思想にふけることなのではなく、目の前の問題の、実際的な解決を目指すために、より優れた思考原理を構築することにあると言えます。
つまり、この世界に当たり前に存在すると思われているようなものを突き詰めて考えたとき、そこに浮き上がる違和感に対して、どう近接してくか、その考え方の理路を作り上げていく営みが哲学と言えるかもしれません。
と、ついつい哲学のお話をしてしまいましたが、本作品は哲学入門としても読めたりします。もちろん小説としての完成度も高く、リズムカルに展開されていく物語構成は、読者を飽きさせません。登場人物の心情や風景描写も丁寧で読み応えがあります。
どれだけ物知りであるか、というのはそれほど重要なことではありません。大事なのは、どれだけ優れた考え方の理路を構築できるか。哲学を学んだ主人公、天野君の成長ぶりに、ラストはちょっと涙です!
学校じゅうの憧れの的である小春先生が友人相手に毒舌を振るうところにある日偶然居合わせた晴人。
小春先生の専門でもある倫理の授業にとにかく苦手意識のあった晴人は、先生を脅迫するほど切羽詰まった様子で倫理の個人授業をお願いすることになります。
しかし、可憐な唇から紡ぎ出される刃物のような毒舌に彼の心は切り刻まれて……。
晴人君を貶めて翻弄する先生ですが、いざ大好きな哲学の話になると、瞳を輝かせながらソクラテスやプラトンの話を楽しそうに始めます。
先生の魔法にかかれば、当時の哲学者が生き生きとした姿でイメージされ、彼らがなぜそのような考え方を見出したのかがすんなりと頭に入ってくるから不思議です。
わかりやすく興味深い話に耳を傾けつつも、輝くような先生の色香に惑わされてしまうのは読者も晴人君も同じです。
やがて晴人君の心の中では小春先生の存在が特別なものになっていきます。
一方の小春先生も、晴人君の真っ直ぐさや、新鮮な感動と共に紡がれる言葉の奥深さに心を打たれるのですが、晴人君の高校生らしい恋愛事情が絡むなどして晴人君の中に様々な感情が渦巻いていきます。
無知の知、イデア論など、高校の倫理で聞いたことはあっても難しそうだしピンと来ない。
晴人君と同様にそんな印象しか持っていなかった私ですが、先生の可愛らしさや晴人君の恋の行方を楽しみながらちょっとだけ賢くなれました(笑)
哲学?何か難しそう。
そう思っている人は多いでしょう。頭の固い昔の偉い人が偉そうに語っているのが哲学、自分も昔はそんな偏ったイメージを持っていました。
このお話の主人公天野君も、そんな哲学に何の興味もない高校生の男の子。
しかしある理由からどうしても成績を上げなければならなくなり、美人教師に教えを乞うというのが大まかなストーリーです。
最初は成績を上げる事だけが目的だった天野君ですが、先生から個人授業を受けているうちにだんだんと哲学の世界に惹かれていきます。読む側としても彼と同じように哲学に触れていくので、彼に共感すること間違いなしです。「そうだよね」「自分もそう思った」そんな感じで、難しい哲学も楽しく学んでいくことが出来ました。
そしてこの物語で重要なのは哲学を教える先生の存在です。授業を受けていくうちに徐々に先生にも惹かれていく天野君。元々憧れのようなものはあったのですが、だんだんと恋に昇華していく様子は見ていてとてもキュンとしました。これぞ青春の一ページ。
哲学に興味のある人はもちろん、興味が無いという人も騙されたと思って一度読んでみてください。今まで抱いていた印象が変わるかもしれませんよ。