〜昼と夜、太陽と月〜

「ただいまーって誰もいねぇーか」

俺の独り言が誰もいない静かな家の中に響く。

俺の両親は共働きで夜中に帰ってくる事が多い。兄もいるがサッカーのクラブチームに入っているため、ほとんど家にいる時は1人だ。

静けさの中、今度は独り言の変わりに足音を響かせ自室に向かう。

机の横に鞄を掛け、制服をハンガーに掛ける。

いつものように、そのまま決して勉強をするわけでわないが、勉強机に腰を掛ける。

身体が重かった。

そのまま身体を引きずるようにしてベッドの上で仰向けになった。

重い身体が沼に沈んでいくような感覚におそわれた。

そんな沈黙の中、心は泣きたくなるほどの痛みに悲鳴をあげていた。

何でいってしまったんだろう...好き、なんて言葉。

今まで必死に抑え続けてきた心の内が、あいつの言葉で一気に溢れ出した。

「誰にも必要とされてない、なんて言うなよ...俺は、」

その先の言葉は声に出してはいけない気がした。

心の中で自らに問いかける。

俺はお前を必要としてる?

たとえそれがあいつの迷惑になってもか?

あいつの気持ちを無視してでもか?

あいつを...苦しめるとしても、か?

「今の俺には...わかんねぇよ」

窓の外は、夕日が気持ちと共に沈んでいった。そして、街がオレンジに染まる黄昏時が終わりを告げようとしていた。



゜:。* ゜.☪︎゜:。* ゜.



何事もなく一日が過ぎてゆく。

重たい瞼をゆっくりと開いた。

空はもう闇の中だ。

窓をそっと開ける。

暗闇の中に輝く月が眩しかった。

「綺麗...」

ふいに言葉が漏れた。

私は、小さい頃から夜空が好きだった。

闇夜の中で必死に輝く一番星。

煌びやかに瞬く星々。

その中でも一際輝きを増した存在である月が、私は一番好きだ。

昼に皆を照らす存在が太陽なら、夜を照らす存在は月だ。

でも、そんな月は、自らの力では輝く事はできない。

太陽に照らされ、はじめてその輝きを放つ事ができる。

「私達、似てるのかもね」

月に語りかけるようにそう呟く。

そっと月の光に照らされる手元の本に目をやる。

その表紙を優しく指で撫でる。

その言葉に反応するかのように、今度は風が、月の光が、私の髪を撫でていった。



゜:。* ゜.☪︎゜:。* ゜.



あれから何時間たったかなんて、気にもならなかった。

気がつけば部屋が闇にのまれていた。

「...そうだ」

まだ小さな悲鳴をあげ続ける心を鎮めるように、鞄に手を伸ばす。

取り出したのは、明鐘里と買いに行った一冊の本だった。


...こんなに本を夢中で読んだのは、生まれて初めてだろう。

気づけば朝日が部屋へと射し込んでいた。

学校に行く準備をしなきゃいけない。頭ではそう分かっている。

でも、身体は思うように動かない...いや、動いてくれなかった。




゜:。* ゜.☪︎゜:。* ゜.



またいつもの学校生活がはじまる月曜日。

今の私には、本は友達という言葉がしっくりくるだろう。

そんな友達と向き合っている最中の私の隣でそわそわしてる人さえいなければ、まぁいつも通りだった。

「何か言いたいことあるならさっさと言ってよ。気持ち悪い」

友達と向き合ったまま冷たく告げる。

「あっ悪い!あのさ、その...この前は悪かった!ほんとごめん!」

そう言って私の方に身体を向け、頭を下げる。

その瞬間クラスがざわつく。

はぁ、やめてよ。またなんか陰口言われんじゃん。まぁ慣れてるけど。

学年の人気者で?頭もそこそこで?モテモテで?おまけにスポーツもできちゃう人が?私に頭下げてるとかどう見ても私が悪者になる構図出来上がっちゃってるんですけど。

「別に気にしてない」

その言葉を聞いてやっと顔を上げた事を確認して、席を立つ。

このままここにいるのが嫌で、この空気感が嫌でたまらなくて。

私は本を持ったまま、響の顔を一度も見ずに教室をあとにする。


「おい、響さんよー!明鐘里の奴に何したんだ?」

「別に、ちょっとやらかしただけだよ」

気さくに話しかけてくるこいつは、如月 紬(きさらぎ つむぎ)。

俺の一番の親友にして、同じサッカー部の部長。しかもうちのクラスの学級委員長。

皆からの信頼が人一倍厚い。

なによりもめっちゃモテる。

影でファンクラブがあるくらいだ。

まぁ簡潔に言うとちょっとした学校の有名人。

「今の様子見てるとちょっとじゃなさそーだけどー?」

俺の頬をつつきながら言う。

「そこは察してくれよ」

「まぁなんとな〜く、分かってっけどなw」

紬だけが唯一俺の恋愛事情を知っている。

何気に小学校からの付き合いだから俺の行動パターンがほとんど分かっている。てかバレてる。

「分かってんなら聞くなよ」

ため息混じりに言葉を吐く。

「わりぃわりぃwまぁなんかあったら何でもいえよ。力になるからさ!」

冗談をよく言うけど、根はいい奴だし頼りになる。

こいつの友達なのが少し誇らしいとさえ思うほどだ。

「ありがとな、紬」

「おう!」



゜:。* ゜.☪︎゜:。* ゜.



やってしまった。

始めて授業さぼっちゃった。

まぁ授業なんて眠いだけだからいっか。

受験は来年だし。

今のうちにだらだらしとこう。

あのまま私は教室を出て学校の一番奥にある裏庭まで来た。

木製のベンチに腰掛けたとこまではよかった。

よかったのだが...

そのまま寝落ちしてしまった。

一時間目は確か数学だったはずだ。

私の得意科目だからそんなにテストに影響は無いだろう。

「はぁー」

ため息と共に横になる。

青空が視界いっぱいに広がっている。

明るい時間帯は私にとって生きづらい世界だ。

そう、この広がる青空の中でも光り続けているはずなのに見えない星たちのように。

そんな見えない、届かない星に手を伸ばす。

「私には手に負えないよ、この物語も...この気持ちも」

そう言って腕を額にあてる。

そよ風が私を慰めるように、優しく心地よく吹いていった。



……To be continued


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君が太陽なら私は月、君が照らす私の世界 来井 枦雅 @shimamu8211

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