君が太陽なら私は月、君が照らす私の世界

来井 枦雅

〜FIRST SEASON〜

春。桜並木は登校する生徒が大勢通る。もちろんこの季節だから、手を繋いだり、イチャイチャするうっざいリア充も多数。マジでリア充爆発して消滅しろ。毎日そんなことを思いながら歩いている。


私、鐘音星 明歌麗は今日から中2。またつまらない学校生活が始まる。いっそのこと死のうか、なんて幾度となく考えた。結局死ぬための準備とかその他もろもろもめんどいからしてないけど。


ぼっち登校で暗いオーラを保ったまま新しいクラスのトビラを開ける。おはよう。なんて言ったことない。言う相手なんていないし、そもそもあいさつは私には不要だ。

静かに席に着き読書を開始する。これが毎日の日課。他にやる事が無いだけだが。

私は友達がいないから延々と静かに読書を堪能していた。そんな私に近づく人影が目の端に見えた。

「何か用?」

私は視線を本においたままそいつに話しかけた。

「何の本読んでんの?」

「世界が破滅に向かう本」

「面白そうだな、俺にも読ませろよ」

馴れ馴れしい。うっとおしい。うざい。せっかくの娯楽を奪われた気分だ。それに世界が破滅する本なんて無論読んだ事ない。

「なぁ、聞いてる?」

一応こいつの名前は知っている。私と名簿が隣の男子、影月 響だ。名簿が一緒じゃなかったら覚えてすらいないだろう。正直いってどうでもいい。

「勝手に自分で買って読めば」

いつも通り軽くあしらった。でも響はしぶとかった。

「じゃあ、本買いに行くの付き合ってよ」

その一言で微動だにしなかった私の顔が歪んだ。

「は?何であんたの買い物に私が付き合わなきゃいけないわけ?」

ガチギレ。まじでなんなんだこいつ。人の読書邪魔しといてまだ言うか。この言葉は私の本心そのものだった。

「だって明歌麗本いつも読んでて詳しそうだから。な?一生のお願い!」

確かに私はずっと本を読んでいるしそれなりに本には詳しい。でも私に頼まなくても他の誰かをてきとーに誘えばいんじゃないか?

「私じゃなくてもいいでしょ?」

「明歌麗じゃないとダメ!」

さすがの私も一生とかいってお願いされるとどうしようか迷う。

まぁ毎日暇で特にやることもない。たまにはいっか。でもやっぱりちょっとめんどくさいな。

「どんな本がほしいの?」

溜め息まじりに言葉を吐く。

「明歌麗のおすすめで!」

「じゃあ、今日の帰り本屋寄るから」

「ありがとー!マジ助かる!」

「おーい、皆席につけー」

担任が生徒に指示をする。そしてつまらない話が長い事いつも続く。私は先生の話を真面目に聞いた事がない。まずもって聞く気がないので、右の耳から左の耳へと、見えない字が通り抜けていく。話を聞き流しさっきの話を思い出す。

はぁー。めんどくさい約束をしてしまった。いっそのことさぼっちゃおうかな。でもそしたらそれこそ後々めんどーか。仕方ない、一生に一度のお願いくらいきいてやるか。


だるい授業が全て終わり、校門付近の木に寄りかかり本を読みながら響を待つ。

「ごめんごめん!待った?」

走りながら響が近付いてくる。

セリフがカレカノみたいで少しムカついた。

「いや、別に。それよりさっさと行って帰りたい」

息切れしている響を尻目にすたすた歩き出す。

「ちょっ、お前歩くの早い!待てよ!」

「それが人にものを頼んでいる時の態度ですか?」

キッと鋭い目つきで響を睨む。まったく付き合わされているこっちの身にもなってほしい。

「...すいません」

「分かればよろしい」

そのまま二人とも無言で歩いた。

もうすぐ本屋に着くけどこのまま帰りたい。

私の気持ちとは対照的な青空を見上げながらそんな事を考えた。


学校から徒歩20分ぐらいの所にショッピングモールがある。だいたいここに来れば何でも揃う。本屋があるのは3階。エスカレーターでそこまでのぼる。

「で、明歌麗のおすすめってどれ?」

着いて早々響が尋ねてきた。

「こっち」

私は足早に小説のコーナーへと移動した。私の好きな本はミステリーもの...と言いたいところだが現在進行形ではまっているのはミステリーではない。

ズラリと本棚が立ち並ぶ道を早歩きし、目的の本棚の前で一度停止する。

「これ、よいしょっと」

高い位置にあった目的の本を背伸びで取ろうとする。

「あれ、とどかな...い...あっ!」

バランスを崩しそのまま倒れる、反射的に目をつぶった。しかし私の体は地面にはつかなかった。

あれ?いたく...ない?

目を開けると私の体が響の腕によって支えられていた。

「大丈夫か?怪我してないか?」

心配そうな表情で私の顔を覗く。

しばらく理解が及ばなかったがやっと起きた事の整理がつきいた瞬間飛びおきる。

「ごめん!そっちこそ怪我ない?」

「俺一応サッカーやってるから」

満面の笑み&ドヤ顔でそんな事言われると、助けてもらったが腹がたつ。少し頬を膨らませながらもう一度本を取ろうとすると、私の後ろから覆いかぶさるようにして響の腕がのびてきた。

「よっと。これだよな?」

「...」

「明歌麗?」

「あっ、うん」

いかんいかん。男子とこんなに近距離なった事に動揺してしまった。我ながらなんという失態。なんだかやけに頬が熱く感じる。気のせいか...


「ありがとうございましたー」

「明歌麗今日はありがとな。おかげでいい本買えたわ」

「そりゃーよかったよかった」

いつも通り帰路の途中にある歩道橋を歩きながら、いつも通りのあしらい方をする。さっきの余韻でまだ少し頬が熱い。早く治まらないかなー。足元をふらつかせながらぼーっと考えていたその時だった。

「あぶないっ!」

「えっ?」

響の鋭い叫び声が耳に届いた。

気づいた時私の目の前には車があった。

あーこりゃ死ぬな。まぁ人生つまらなかったしいっか。死を受け入れ目を閉じる。その瞬間は一瞬だった。

体に軽い衝撃が走った。でも不思議と痛くない。目を開けた。

私の下には響がいた。

「なに...してんの、私死ねるとこだったのに」

その光景を見た時すぐに分かった。響は私を助けた。そして、私は、死んでない。

「ばかっ!お前死ぬってどうゆう事か分かってんのか?!」

何故ただのクラスメイトにそこまで叱られなきゃいけないんだろう。死のうがひかれ用が私の勝手なのに。

「あんたには関係ない。私は誰にも必要とされていない。こんなつまらない人生終わらせてさっさと生まれ変わった方がましでしょ」

つらつらと本音を吐き出す。いつもの響の事だ謝ってくる。そんな光景が目に見えていたはずだった。

「はーー?誰がお前を必要としてないなんて言ったんだよ!少なくとも俺にはお前が必要なんだよ!!」

理解不能だった。何故私があんたみたいな奴に必要とされなきゃいけないんだ?それこそ死んだ方が楽じゃないか。

「は?何で私が必要なわけ?」

「好きだからに決まってんだろ!!!」

瞬間冷たい風が熱かった私の頬を吹き荒らした。でも決して私の頬が冷える事はなかった。むしろ熱くなる一方だった。

「な!?い、今なんて?」

「だーかーらー!好きっつってんだろーが!」

呆気に取られた。しばらく黙ったまま固まっていた。

ふと我に返った時には鞄を手に走り出していた。

響は私を止めることなく、その場に座り込んだまま、私の背中が消えていくのをただただ見つめていた。

「はぁーーー、俺...カッコわりぃー」

盛大な溜め息をつき、服についた汚れをはらい、その辺に転がっていた石を橋の下へ投げ捨てた。そして、鞄を広い、重い足取りで家に帰った。


バタン!

「はぁーはぁーはぁー」

息切れがひどかった。走りすぎて気持ち悪かった。でも、それよりも顔が火照っていた。

鞄を床にほおり投げ、ベッドにダイブする。

ベッドを通して自分の鼓動が伝わってくる。いつもよりも速かった。

私は今のこの気持ちがどんなものなのかを知っていた。

これは、「“恋”」だ。

私だってそれなりに恋愛小説はいくつか読んでいる。でもいつも読んでいてもなんとも思わなかった。そんな気持ちは味わった事がないし、そんな事に時間を費やすのは無駄なだけだと思っていたから。

でも、この時から私の考え方や人生が一変する事になる。


その日の夜はどうしても夕方の出来事が脳裏をよぎって眠れなかった。

「明日...どんな顔して会えばいいんだろうか...。逃げてきちゃったし」

そんな事をずっと考えているうちに、いつしかカーテンの隙間から白く眩しい一筋の光が私の顔を照らし始めていた。

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