三か月後
十一月のある日。学校から帰ってきた虹介がまだ鞄も置かないうちに、律子は興奮した様子で告げた。
「稚奈ちゃんたちね、外国に引っ越すんですって!」
「ええ?」
虹介は目をみひらいた。三ヵ月が経ったけれど、〈本の部屋〉での日々は、あいかわらず心の中に咲いている。
「本当よ。話は結構前からあったらしくて、十一月中に引っ越すんですって。でも、見送りには行けないわねえ」
すでにカレンダーとにらめっこしたあとなのだろう、律子は残念そうに言った。
「そっか、そうなんだ……」
出会った時の、稚奈の様子が脳裏に浮かぶ。
あんなに引っ込み思案で人見知りの稚奈ちゃんが、外国に行くんだ。
だが、どんなに心配でも、虹介にできることはなかった。
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