第9話

 一瞬、怯えたような表情を見せた。彼女の雰囲気の違いに戸惑う久住だったが、引き留める方を選んだ。――そして、今。


 ナナコを抱え、2人で湯舟に入っている。後ろから抱きしめるような恰好。


 「…オジサン…?」


 躊躇いがちな声で、茉莉が問いかける。


 「もう少し、ゆっくりしていこう」


 やや間を空け、頷く彼女。


 「…ああ。家がマズイか」

 「ううん。家は―― 誰もいないから…平気。私じゃなくて、オジサンは急いでいたんじゃないの?」

 「ん? いや、急いでないよ。俺も―― ん、まあいいよ。俺のことは」


 誤魔化すように言って、気付いた。2人でも充分に広い浴槽。しかし、茉莉はずっと脚を抱えている。


 「脚、伸ばせないか? 窮屈か?」

 「え…? あっ、ううん。家でもこうだから。癖かな…」 

 「お前の家の風呂、狭いのか?」

 「このお風呂くらいの大きさかな。でもいつも、こうして浸かってるの。――あ、でも… 脚を伸ばすと気持ち良いね」


 軽口のように、久住は少し砕けた声を含ませて聞いた。だが、茉莉の声はいつもと変わらずに、素っ気ない声色だった。言葉尻だけ明るく聞こえたのは、気のせいか?

 彼女に見え隠れする陰。年齢以上に落ち着いて見えていたのは、この陰のせいかもしれない。


 さっきまでのベッドの中では、苛立ちを欲望に変えるのが最優先で、茉莉自身への関心は全く無かった。だけど、こうして距離を詰めて見える事がたくさんある。本当の彼女は、久住が思っていたような第一印象の子では無いのかもしれないということ、華奢で小柄だということ。そして、肩や背中にあるホクロの位置も。


 バシャッ…! 湯が揺れる。茉莉が、久住の右腕を抑えるように触れた。


 「―――! …オジサ …っ! 指…ヤだ――…!」


 湯の中なのに、指に粘液が絡んでくる感触。クリトリスが固く膨らむ毎に、茉莉の拒絶が強くなる。


 「ナナコ、自分で触ったことないの? ココをさ」

 「どうして…こんなとこ…ッ―― …ン!」


 ビクン! と大きく背中を反らせ、徐々にクタッと久住に凭れる。


 「…のぼせちゃうね」


 茉莉を抱え上げ、幅のある浴槽の淵に座らせる。今の甘い衝撃から醒めない茉莉は、息をつきながら彼にされるがまま。恥ずかしいのに、脚を大きく広げさせられて、足先を縁に引っ掛ける。

 久住が浴槽に膝をつき、茉莉の陰部に顔を埋めている。舌先が、さっきの熱を追いかけるように攻めてきた。ベッドでも同じことをされたはず。でも全然違う。彼がしてくれている姿、自分が裸で股を開いている姿にゾクゾクする。

 茉莉が生まれて初めて、性に興奮を覚えた時だった。


 (こいつ、こんな顔をするのか――)


 風呂の熱気もあるだろうが、上気して、快感に浸る女の表情だ。

 身体を上げて、茉莉にキスをする。何度もキスをしながら、指を曲げて彼女の中を刺激する。ピクン…と、茉莉が反応した。唇を離し、指先に集中しつつ表情を見つめる。探るように指の腹で刺激した。


 (ここ… だな)


 探り当てたポイントを、執拗に刺激する。茉莉は首を大きく振り、止めるようにアピールしだした。


 「…嫌だ。止めない」


 意地悪く囁いた。その時、きゅう!っと膣が指を締め付けた。

 涙を浮かべ、もうトロトロな表情で久住を見てくる。こんな顔、正直反則だろうと思った。初めての快感を抑えきれず、もうそれ以上「止めて」と言えない彼女の姿が、久住のソレを奮い立たせる。


 「……ぁ―――…」


 強く張った肉棒が視界に映る。茉莉は息を飲み込んだ。さっきベッドで迎い挿れたはず。だけど――男性器を、こんなに間近で見たのは初めて。


 「…い… 挿れる…の?」


 興味深そうな視線。そう願う視線。こう聞かれなければ、言葉もなく挿入するつもりだった。


 「どうしようかな? 挿れて欲しい?」

 「……っ…!」

 「して欲しいなら、そう言ってみな」


 言えるはずがない。そんなことは解っていた。


 「じゃあ、挿れていい? 返事くれないと判らないよ、ナナコ」


 数十秒くらいだろうか。恥ずかしそうに噛んだ唇を解いて、ようやく声を出した。


 「――いい、よ…」


 勇気を出して、あるだけの気持ちを声にしたと判る。


 「今度は、優しく抱くから―――…」


 ゆっくりとした挿入と同時に、茉莉の耳に届いた優しい声。挿入の瞬間を、茉莉はゾクゾクとした快感に包まれて眺めた。


 痛みが無いとは言えないが、初めての半分も感じない。膝裏から抱えられ、久住の首に抱き着いた茉莉はユサユサと胸と身体を揺らせながら、お腹の奥から湧き上がる熱いものに耐えている。


 「痛くないか?」

 「ウン…平気…」


 平気、と言うが、無理をしているのだろうと思った。痛くないはずがない。しかし、彼女の僅かな表情変化や様子を逃さないように見下ろしていて感じる違和感。腰を振るごとに増す、潤いのある音は一体…。


 「気持ちいい…のか?」


 女にこんなことを聞くのはナンセンス。これまで聞いたことは、ほぼ無いと言ってよい。それを聞く気になったのは、処女を相手にしたのがもう遠い記憶の向こうだということと、茉莉を少しでも感じさせたいという気持ちから。

 実感としては、彼女は感じているはず。膣の中のヒクつきといい、震える吐息といい、それは間違いないはずなのだ。だが、こんなことがあるのだろうか。でも確かに、腕の中の彼女は確かに…。


 それにしても、暑い。シャワーがミストのように降り注ぐ浴室は、サウナではないかというほどの熱気だ。そろそろ、もう一度ベッドに場所を移したい。でもその前に、、、


 浴槽の淵に降ろし、左腕で彼女を抱えて腰を振る。角度が変わって丁度良く当たるのか、甘い吐息が絶え間ない。彼をきゅうっと締め付けた頃合いで、右手をクリトリスへ。


 「――ひぁ……っ…!」


 きっと、もうすぐ昇り詰める。だけど、全身がコチコチだ。


 「力を抜いて。そうすればイクから」

 「…ゃ―― 怖い……」


 呟く茉莉に、久住は熱く口づけた。


 「大丈夫、怖くないよ。しっかり抱えているから」


 不安げな視線に、頷いて見せる。

 素直に頷き、真っすぐに久住を見つめ返す茉莉の瞳。


 「―――っ ン…! ぁ……!!」


 久住の精液が絞り取られそうになる。頭が真っ白になるほどの、茉莉の中。

 ビクンッ…!! 彼女の身体が弾かれる。甘く高い声の後、震えながら脱力した。

 激しくしすぎたつもりはないが、結果的には処女だった女の子を失神させてしまった訳で。


 (怖がらせたかな…)


 正直、彼女が目を覚ますのが怖かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

蒼い追憶 しいな みゆき @miyuki_shiina

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ