第8話
据え膳食わぬは――ではないが、現役の…しかも本物の制服を着ている女子高生を抱く機会など、そうそうあるものではない。そうそうどころか、あってはいけないことだが、この際はもう法に触れるとか、一般的な常識はどうでもいい。
しかも、金は要らないって、どれだけラッキーなのかって話だ。この場合、条例違反ってだけか。
この生意気な少女を黙らせたかった。イマドキのガキだ。どうせ、すぐに甘えた声で腰を振ってくるんだろう。
――だが…
身体は強張り、キスは下手。強引に脚を開かせ、ひとつになった瞬間の反応に違和感を持った。
彼女の頬に伝う一筋の涙に気付いても、気にしない。久住は、「俺には関係ない」とばかりに、自分の欲求を最優先させる。茉莉の両腕を強く掴み、屈服させる体勢で表情を眺めながら行為に耽る。
茉莉が痛みに耐え、唇を噛んで苦痛の時間を過ごしているなど、考えようともしなかった。
『痛い』――とさえ発しなかった茉莉。息を弾ませて、ただ彼の動きについていくだけ。
セックスの後、久住は軽い寝息を立てている。どうしたものか…と迷いながらも、茉莉はそっとシーツから出た。
(怖くはなかったけど、痛かった…)
身体を洗ってから、バスタブの湯に浸かる。
結構、思ったよりもあっけなかったセックス。初めてだし、痛いだけなのは覚悟していたが、その良さは解らない。ただ、人の温もりは暖かくて心地よいのだと知った。
気のせいか? 部屋と脱衣所を隔てたドアが開いた気がした。茉莉は身体を上げ、覗こうとした…。
――ガチャ。
一糸纏わぬ久住が、まだ残る眠気を噛み砕いたような顔で入ってきた。驚いた茉莉は、慌てて湯船に身体を沈め、瞬時にタオルを探した。だが、まさか彼が入ってくるなど思ってもおらず、脱衣所に置いたまま。
「お前、起こせよ」
深く息をつく久住に、そういえばさっき『時間がなくなる』と言っていたことを思い出した。全てが初めての茉莉には、ラブホテルの休憩事情など知るはずもなく、そう言われたことで自分が悪かったのだと思った。家でもそう。責めを負うのは、悪いのは全て茉莉だと言われているのだから。
「――ごめんなさい…」
恥ずかしそうな頬から一転して、怯えたように視線を伏せる。例えられない違和感に、シャワー栓を開いた久住は茉莉を見た。
「…あっ。今出るから――」
彼の視線から逃げるように背を向け、サッと立ち上がり出ていこうとする彼女の肩を、久住は掴んだ。
シャワーノズルが手から離れ床に転がり、噴水のようにミスト状の湯が浴室に降っている。
振り向かせた茉莉の唇を塞いだ久住。
言いようのない違和感。生意気な小娘だと思っていた少女が見せる、怯えた表情。性に慣れていると思っていた少女は、きっと処女だった。
さっき、ベッドから出る際に見つけた、赤い鮮血の汚れ。生理が始まったのかと思ったが、さっき見せた表情から否定された。
不慣れなキス。緊張させた肩と唇が、キスさえさっきが初めてだったと語っている。
強引に探る瞳さえ逸らされる。
久住にはもう、何がなんだか判らなくなった。当初の目的は何だったのか…。
このまま帰したら、疑問だけが残る。
(まだ帰せない)―― 気持ちが浮かぶと同時に、茉莉へ腕を伸ばしていた。
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