第7話

 ラブホテルの一室。

 茉莉を浴室に送り込んだ久住は、脱衣所の扉を開けて、シャワーを浴びる茉莉に声を掛けた。


 「家みたく長風呂してんじゃねーぞ。時間なくなるだろ」

 「…わかってるよっ!」


 扉の向こうにいる久住に大きな声を出すが、本当は、どうすれば良いのか戸惑っていた。身体だけを洗い、下着や制服を元のように着て出て行けば良いのか――とか。

 男に抱かれる前の準備とか、エチケットとか、好まれそうな仕草とか何も判らない。経験がないのだから、判らなくて当然だ。だけど、それを悟られるのも嫌だった。馬鹿にされるのは、呆れられるのだけは避けたい。


 「あっ。そうだ」


 ボディソープで身体を洗っている途中に思いついた。身体を包む泡を流し、そっと浴室のドアを開ける。脱衣所へ持ち込んでいたスマートフォンを手に取ると、いくつかのキーワードで検索をかけた。大体こういう感じだと判れば良い。


 「…ふーん」


 何やら面倒そうなことが書いてある。男と女がひとつになるだけのプロセスに、何通りもあって、正解が無いとは。兎にも角にも、早く出ないといけない。


 素早く画面をスクロールし、ポイントだけ押さえて切った。



 先にシャワーを済ませていた久住は、ソファに凭れて煙草をくゆらせていた。本当に、女子高生を買ってしまった。現段階では、誘っただけの未遂だが…。一線を越えてしまう怖さは無いが、自分がこんな行動に出ることへの驚きはあった。

 備え付けのテレビを見る気にさえならず、電源を切る。


 ナナコに…茉莉に、特別な気持ちはない。

 簡単に付いてくるくらいなのだ。彼女の様子では、既に何度も経験があるのだろう。さっきは怖気づきそうになったが、遠慮など必要ない。報酬は、3万で良いだろうか。


 (…って、手持ちあったよな?)


 ソファの背凭れへ、雑に放っていたスーツの内ポケットに手を伸ばした時だった。


 ――ガチャ。

 放たれた脱衣所の扉から、湯気が部屋へと押し出される。

 物音と気配に、久住は顔を上げた。


 制服を着て出るとかは考えていなかった。そこに立つ若い女の子は、少し大人びた顔立ちの“ナナコ”だと我に返る。

 濡れた毛先の滴が、茉莉の肩で弾く。

 一瞬、彼女の姿に視線を取られた。


 「…早く出たつもりだけど…」


 巻きつけたタオルの端を掴み、久住の前に。薄暗い照明が彼女の背に隠れ、互いの表情は判らない。

 茉莉の隠しきれない不安気な眼差しと、強張った頬に、彼は気づかないまま。


 「金は、終わってからな」


 言い終わるかどうかの間合いに、茉莉の肩を掴んでベッドに倒す。

 短い声を上げて倒れ込んだ茉莉。逃げ出すとかは考えもしなかったが、“逃がしたくない”というのは、男の本能なのか。

 彼女が身体を起こそうとする前に、久住は覆い被さった。

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