第2話

「あ゛ー…………」

「女の子がそんな声出していいんですか…」

女風呂、と書かれた昭和風ののれんから姿を表したのは短髪の美少女。

和服に身を包み、大和撫子 という単語がそのまま当てはまるような容姿。

しかし口から発せられるはそんな理想とは遠いだらしのない声。

もう1人は肩までの髪に左目を隠すほどの長い前髪。そして表情のない顔の少女。

「んー…ま、男共がいなければ声なんて誰に聞かれても一緒一緒」

「いやその心構えいつか後悔しますよ」

はぁ、と息をつきながら髪の長い方…私、御影 弥咲はそう述べる。

実際私もここへ来たばかりの時は同じような心構えだったとも。

男共が聞いていないであろう風呂の中で、誰も相席者のいない深夜、豪快にその…なんだ…性欲を満たそうと…行為を行った事がある。

…………繋がってるんですね、女湯と男湯。

これ以上は思い出す必要も無いし思い出したくない。

まぁある意味女らしいと言えるしそうとでも思わなければやっていけない…。

「ま、なんだろ、別にここに気になる男とかいないし、さ?」

「そうですか?殻高さんとか叶葉さんとかイケメンだと思いますけど…」

「あんたの時代はあんな顔がモテるのかい?わたしの時代じゃアレはいいとこ中の下さね」

そう言ってなはは、と笑う加羅羽さん。

あ、言ってなかったっけ、大和撫子みたいなこのお嬢さん、名前を加羅羽 櫻子、と言うらしい。

とは言っても下の名はここに来てから適当に考えたらしい、が。


ここ、カトルと言うのだが、カトルはどうやったのか各時代において「最強」と判断された人間が集う場所、らしい。

私は平成、と呼ばれる時代から来た、らしいし弥咲という名も本名だ。

しかし「最強」というには私は余りにも弱すぎる。

と思うのはどうやら私以外の人もそうのようで、実際加羅羽さんもよくボヤいている。

織田信長やジャンヌ・ダルクのような偉人が招集されてもいいものを、ここには1人もそんな人間はいな…いや2人くらいいたわ。


そんなこんなで自室へ戻った私はノートを開く。

ここへ来たばかりの頃は初めてのバイトを思い出し、何もかもをメモしたものだ。

メモした文を見返すと、ここでのルールや設備、地図などがしっかりと書かれている。

少し読み返してみよう。


・バトルは1週間に1度以上行う事

・バトルは負けを重ねれば重ねるほど待遇に影響する

・バトルはカトルにあるもの全て使ってよし

・3人ひと組のチームとなり、敵を全滅させれば勝ちとする


最重要項目、としてこれが書かれている。

そう、『バトル』

それがこの不可思議な世界、カトルにおける唯一の義務だ。

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