回答編(終)
オレが前守に概要を伝え、姫宮が訂正し、そして最後に水野がここまでの考察を告げる。
前守は実に、実に実に楽しそうに聞いていた。余りにもふんふん頷くので、犬になってしまったのかと思うほどだった。
「再試験ね。有りじゃない。アリアリね。有りよりの有りね」
それ普通に有りでは?
「でもそこまでだったんだ。僕達じゃ、姫宮さんへの回答は出せなかった」
「そこであたしの出番ってワケね。いやあ、我ながら天才的なタイミングじゃない」
いいや、お前は馬鹿だ。割とどうしようもない方の。
「それで、サキちゃんならどう答えるのかな」
おっほん、とわざとらしい咳払いをする馬鹿。
「思いついてんのか」
意外だ。適当に茶化すと思ったのに。
「勿論よ。良い? 三年三組には不登校の子が一人居るのよ」
「……ほお?」
何だそれ。全く思いつかなかったが、さらに人数を減らしてどうするっていうんだ。
二人に視線をやるが、水野は完全に聞く方に回ったらしく、特に考えていそうにない。姫宮は今日ずっと何も考えていない。
「机がどかされていたのはそれが理由ね。試験用紙は名簿の人数通り用意されていたけど、机は登校してきている三十七人に三十七脚。何も問題は無いわ」
「待て。それだとおかしくならないか?」
「ならないと思う」
「ならないんじゃないかな」
ちょっと覚悟しておけ?
姫宮と水野の声を無視して頭をフル回転。
姫宮の説明から、問題の有りそうな場所を思い出せ。
『三年三組三十八人の試験監督は、担任の高瀬』
別に全員が登校してるとか言ってるわけではない。
問題なし。
『空き教室に一組、机と椅子が置いてあることに気が付いた』
『とにかくそれは、三年三組のものだった』
何でそこにあったかは言及してない。
問題なし。
『確かに三十八枚揃っていた』
問題があるとしたら、ここか。でもそれはこの問題の要で、オレも水野も、そこをずっと考えていたはずだ。不登校が一人居たら、何故解答用紙が増えるんだ。
「不登校、曳田小守は既に何回も試験を欠席していて、いよいよ今回で卒業が不可になるところだったのよ」
何か知らない名前が出てきたけど、『引きこもり』をもじっただけだった。
過去にオレがやったやつ。
「心優しい三年三組の生徒はこう思ったのよ。『全員で卒業したい』ってね」
なるほど。流石のオレも、分かってきた。
「『曳田小守に試験を受けさせたい』ってことか」
「そういうこと。最後の日、最後の科目まで待ったけど、どうやら来そうにないってね。再試験になれば説得する時間が出来る、とかそういうことで良い? 楓ちゃん」
「うん。良いね。面白かった」
姫宮がぺちぺち手を鳴らす。
出題者も満足いただけたみたいだ。
これにて一件落着、「ちょっとまって」
空気の読めない男、水野が制する。
「仮にそれが上手くいったとして、数学一科目だけ受けたところでどうにもならないと思うな」
「あー」
良く考えなくてもそうか。
「良いじゃない、そんなの」
ごく常識的な指摘に、適当に返す前守。
良いのかそんなので。
「元々、試験用紙を増やすっていう不確実な方法を取ってるじゃない。計画性なんてなかったのよ、きっと」
「……確かに」
お? 水野押され気味か?
「まあ、あたしも気になったけどね……。というか、問題自体があれなのよね。楓ちゃん、これあんまり自信ないやつ?」
「うん」
うんじゃないが。
「まあまあ、この話はこんなものじゃない? 『次は』最初から参加するから、もっと面白くするわ」
こんな無駄話をして、脚本部の放課後は終わる。
死体あっての脚本部 石嶺 経 @ishiminekei
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