結婚出産調停離婚、そして私は自由になった――

なぜか出産と同時に失踪した夫との、泥沼化した離婚調停事件について描いた小説(とあえて言う)。

事実は小説より奇なりとは言ったものだが、重要なのはどれほど突飛な話かというよりも現場の臨場感であり、本作にはそれが実によく表現されている。
内容的には、失踪に端を発する様々な問題を調査していくうちに、あれよあれよとやばい事実・出来事が明るみに出るところが眼目であるが、私が本作最大の魅力であり特徴と考えるのは何と言っても文体である。

本作は一応自分の体験記なはずなのだが、起きた出来事がそのまま羅列されているというよりも、自分の中で、整理・圧縮・再配置された上で、極めて疾走感のある独自の語り口で描かれ、そして終わっているというところが実に素晴らしい。
つらい境遇に置かれ、陶酔的な話しぶりになってもおかしくない状態であるはずなのに、この作品は非常に客観的に描かれている。舞城王太郎の『阿修羅ガール』を彷彿とさせた。
普通の人はあまり縁がないだろう調停のシーンを社会科見学的に楽しむこともできる。お勧めである。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=村上裕一)

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