勝って負けての痛み分け
結果として、俺は見事にはめられた。本陣はもぬけの殻で、敵さんは中央突破に失敗した時点で逃げ出していたらしい。
この戦場では何とか勝利を収めたが、戦争全体としては勝ったとはいいがたい。ここで討ちとるのが最上の結果ではあったのだけどな。
「アレフ卿。よくやってくれました」
ルシアのお褒めの言葉もどこか寒々しい。敵軍は退却したが、損害はほぼ同等。負けなかった分上等といった感じだ。
投降者も多数いるので、敵の戦力を大きく削ったことは間違いない。ロウム本城には最初の兵力の2割程度、留守居も含めても1000に満たないと情報が上がってきた。
いっぺん騙されてるので、さすがに慎重になって物見を放つ。その報告からは、かなり城内は混乱していて、とても籠城どころではないそうだ。
「兵をすぐに進めよう」
「休養は不要と?」
「それよりも時間が惜しい。比較的負傷の少ないものを先発させて、ロウムに取りつける位置まで兵を進めるのが上策だ」
「わかりました。あなたにお任せします」
「物分かりが良い上司がいて幸せだよ」
「ふふん、もっと崇め奉りなさい」
「断る」
「なっ!?」
キーキーうるさそうなので、すぐに天幕を出た。直属の兵と、アドニスの騎兵から追撃隊を編成し、自ら率いて進軍する。
後続はアルベルト爺さんに任せた。というか、逃散したと見せかけて、伏兵を仕掛けるくらいはやりそうだ……っていかん。伝令を走らせ、今思いついた可能性を知らせようとしたら、後続から火の手が上がった。
「ちくしょう、後手に回った!」
「我が君、どうしますか?」
「引き返すと言いたいところだが、こっちにも伏兵が来ないという保証は……」
「敵襲!」
「やっぱりきやがったか。迎撃だ!」
短いが激しい戦闘の後、敵は100ほどの死体を残して撤退した。こっちもその半数くらいやられている。しかもすぐに追撃できない程度の疲労もあった。
本隊に使者を出すと、伏兵に注意しろという伝令をもらって待機していたとほざきやがる。偽伝令で足止めして機動部隊を叩く。全く、敵ながら天晴すぎるし、こちらのやられっぷりには頭痛がする。
俺が率いるから大丈夫だ! などと大言壮語を放ったアホを絞め殺してやりたい。まあ、自殺の趣味はないから実行はしないが。
改めて合流して、ロウム本城に迫ると、門が開いている。空城計かと訝しんでいると、白旗を掲げた騎士がこちらに向かてやってきた。
「降伏の使者ですかそうですか」
「アルフ卿。もう少し取り繕ってください」
「いや、確かに会戦には勝った。けどそのあとの駆け引きにはコテンパンだ。飼った気が全くしないんですけど、どうなんだ?」
「ふむ、まあ、そうですね。なんか大口叩いてた人もいましたし。俺が率いるから大丈夫だとか」
「あああああああああ、それ言うな、言うなああああああああ!!」
俺とルシアの漫才を使者となった騎士が呆然と眺めている。アドニスは苦笑いをし、アルベルトの爺さんはいつも通りの仏頂面だ。
「して、降伏は認めていただけますでしょうか……?」
「いいでしょう。これ以上の抗争は私も望みません」
「ありがたき幸せ。すぐに主に伝えてまいります」
相手の出してきた条件は無条件降伏。よって、これ以上どうこうすることはない。
「んで、叔父上はどうすんの? 打ち首?」
「そうしたいところなんですけどね、最後にかなり巻き返されてしまってますので、誰かさんのせいで」
「すまん」
「爵位と継承権剥奪、ってところが手打ちですかねえ」
「以外に穏当だな」
「首切ってしまうといろいろと面子がまずいんですよ。勝てないから殺したとか言われてですね」
「まあ、実際そうじゃないか」
といったところで、渋い感じのおっさんが入ってきた。
「なに、そう捨てたもんじゃない。というか、まともにやったら勝てないと思ったから搦手を使ったんだがね」
「叔父上、お久しぶりです」
「ああ、ルシア。負けを認め、そなたの公位継承を全面的に認める。何ならこの首も差し出そうか」
「いえ、叔父上自身の継承権と爵位を返上していただければそれでいいですわ」
「やれやれ、手厳しい。まあ、仕方ないか」
「えらい軽いな。爵位剥奪は下手すると死刑よりも厳しい罰にならねえか?」
「まあ、仕方ないさ。しかし打った策全てをはねのけられるとは思わなかったよ」
「ん? そうなのか?」
「ああ、本来は中央突破した時点で前衛が崩壊するもんなんだがね。突破在れるのを見越して伏兵とか鬼かあんた?」
「勘だ」
「おいおい……しかも斜線陣の応用とか、あれでこっちの前衛が崩壊して乱戦にされた時点で詰みだよ。負けないように持っていくしかない」
「重装歩兵の弱点は一番左から突き崩すことだからな」
「まさかあんな手で突破されるとは思わなかった。しかも、追撃部隊を崩壊させて巻き返すつもりが撃退されちゃうしね」
「直前で、伏兵の可能性に気付いた。あと、火の手が上がったタイミングだな」
「あれで本隊の方に走ってくれたら、背後から追撃して終わりだったんだけどねえ」
「勘に従った結果だな」
「君ね、こっちの知略の限りを尽くした策を野生の勘だけで食い破らないでくれるかねえ?」
「知るか!」
こうしてつかみ合いを始めた俺たちをルシアは呆れたような顔で眺めているのだった。
放浪の姫と第六の魔王 響恭也 @k_hibiki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。放浪の姫と第六の魔王の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます