第13話終幕

「今回は前回と違って普通でしたね」


 開口一番、左近がそう感想を漏らした。


「普通ってなによー。ちゃんとやってたでしょうが」

「演技の話しではありませんよ。いえ、演技もまだまだ。これでは真打ちどころか、二つ目も先が長いです」

「二つ目ってなに?」

「ちょっと、そんなことも知らないでやっていたんですか」

「なによ。別に私は落語家になるなんて言ってないわよ」


 初対面の礼儀正しさはどこへ行ったのやら。左近が梓をあきれた目でみると、気の強い梓もにらみ返す。

 それを見かねた左近の父が止めに入った。


「まあまあ、二つ目とは前座という見習い期間を卒業して、やっと半人前と言われる階級のことだよ。ちなみに、真打ちで一人前と言われている」

「えー。私はその二つ目より下なの?」

「君の演技と風音ちゃんのコンビなら二つ目の実力は私が保証しよう。それにしても、左近もいいライバルを持ったものだ。このご時世、同年代の落語家なんていないし、先輩の落語家にもここまで意識したこともなかっただろう?」

「ら、ライバル?」

「……確かに、意識をしているかもしれませんね。でも、それはたぶん、風音さんのストーリーにです」

「風音!?」

「ひっ!」


 嫉妬の感情か、梓が風音をジロッと見る。


「わ、私なんかまだまだ。演じることなんてできませんし……」


 風音は梓の視線から逃げるように、祖父の背中に隠れる。


「まあ、なにはともあれ、意識できる相手ができたのはよかったよかった」

「僕の方が年期は上ですからね。次は真似できない演目を完璧に演じてみせます!」

「こっちこそ、次も勝ってあげるから覚悟しなさい!」

「落語に勝ち負けはありません!」


 子供の喧嘩というように、ふたりは睨みあう。


「…………」


風音は軽くほほえみながら、いつぞやの喧嘩の時のように、ため息をついた。


(ふうっ、意識してもらえるようになったのはいいけど、アズちゃんの気持ちが左近くんに伝わるのはいつになるやら……)



<終>

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

楽しい落語の話し方 @andaka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ