ただ一つの主題へと収束していく気持ちよさ

 ※最終話までのネタバレを含みます。

 このお話の上手い部分はいくつもあるのですが、回収する伏線としない伏線の取捨選択の上手さが特に際立つように思います。
 読んでいるとかなり早い段階で、主人公の「少年」の出自について、たぶんそうなのだろうなという伏線がしかれています。実際に私は、最終的にはこれが回収されて、エヴァンジェリンと幸せになるのだろうな、という幾つもの意味で甘い予想を立てていました。
 しかし、結果としてはこの伏線は回収されませんでした。物語はそれよりも重要な主題へと収束していったのです。
 この収束のさせ方が秀逸で、少年の周りにいる少女たちや女性たちは、最終的に私と同じ甘い予想を立てて少年と接します。それが本当かどうかは確定しないけれど、そうだったらなんて素敵なお話だろうと、綺麗な物語を幻視しています。
 そんな中で、ただエヴァンジェリンだけが、主従や生まれの高貴さとは関係なく、ただ少年として傍にあることが重要という態度でいるのです。
 とても見事な風呂敷の畳み方でした。
 少年の出自は謎のまま、物語は閉じられました。私は、きっとあの伏線はそうだったのだろうと、今でも少し思っています。悔しいので。
 けれど、私の読みが正しかろうと間違っていようと、どちらの物語がこの先に待っていたとしても、きっと少年とエヴァンジェリンは共にあるのだろうと、そう確信しています。

 ふわりとした着地点からは思いもよらない大きな納得感は、まさにこの作者さんにしてやられたのだと思います。
 素敵なお話でした。ありがとうございます。

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