異世界CPU転生物語 〜アクセラレーション・ブースト〜

@erukiti

第1話 俺がCPUだ

俺は、異世界に生きるCPUだ。いきなり何を言ってるか分からない、頭オカシイのか?と言われると、俺も同意をせざるを得ない。まずは俺がなぜ異世界でCPUなんて存在になってしまったのかを説明せねばなるまい。


異世界転生なる事件に巻き込まれる前の俺はごく普通の高校生だった。親父が趣味で自宅にラックを持っていて、ガン積みされたクソうるさいコンピュータがあったなー位しか特筆するところも無い。暗号通貨のマイニングとかなんとかしていたらしいが、相場が暴落して涙目になっていたのが父親に対する最後の記憶だ。その親父がIT技術者で色々教えてくれたから少しはコンピュータの知識も持っているが、あまり興味がなかった。親父におっては教え甲斐のない息子だったかもしれない。


そんな俺は、気付いたら宇宙空間のような不思議なところを漂っていた。目の前には美人系というには少し抜けてる感じの、よく言えば可愛い感じの女性がいた。

「ぱんぱかぱーん。ラッキーなあなたはCPUに転生しました。おめでとうございます。」

頭の緩いクソ女にいきなりこんな事を言われて困惑せずにはいられない。

「美人で可愛いとか思ってたくせにクソ女扱いですか。いいんですか?私女神ですよ?もっと下等なものに転生させてもいいんですよ?」

なんで俺の考えている事が筒抜けなんだ?と突っ込みたい気持ちも少しあったのだが、CPUに転生というパワーワードをぶちかまされたのはやはり衝撃的だ。

「CPUって高等なのか?」

「高等に決まってるじゃないですか。制限は多少ありますが演算し放題ですよ?」

「演算できても嬉しくないな。人間でいいよ人間で。」

「無理ですね。私シリコンの女神ですから、炭素生命体なんて無理です。」

「シリコンバレーで投資でもしてるのか?」

「私は天使ではなくて女神ですよ?違いますよ。アメリカは関係ありません。珪素そのものです。」

「じゃあ、せめて珪素生命体とかさ。」

「単なる珪素生命体でいいんですか?CPUの方がよっぽどいいですよ?」

むむむ?よくわからん。俺もSFでちらっと珪素生命体という単語を聞きかじった程度だから珪素生命体がいいのか悪いのかも知らないのだが。


「あー、あなたのいた世界ではまだコンピュータが全然進化してなかったんですね。イーサを燃料として、世界を演算するのがCPUですよ。あなたの知識にあわせて言うと魔法使いみたいなものですね。」

「ほう。どんな魔法が使えるんだ?」

「それはあなたの演算能力の成長しだいですよ。あなたをこれから送り込むのは剣と魔法の世界なんですが、あなたにちょっとやってもらいたいことがあります。」

「嫌だ。」

「おやおや、あなたに拒否権はありませんよ。拒否したらあなたの人生はここで終了という事になりますからね。」

脅してきやがった。まあどうせそういうことだろうと思ってたので、とりあえず話を聞いてみるか。


「で、何をやってほしいって?」

「ダンジョンの攻略です。よくある剣と魔法の世界なんですが、ダンジョンを攻略すると得られる物のうちある一つを取ってきて頂ければそれで構いません。」

よくあるって当たりに突っ込みたいところだが突っ込んでると切りがなさそうだ。

「CPUにならそれは可能なのか?」

「成長次第ではありますが、無理難題ではありませんよ。少なくとも燃料となるイーサ、その世界ではマナと呼ばれるものですが、普通に使われるくらいには潤沢ですし、ダンジョンの中ならなおさらです。詳しくはマニュアルもお付けします。」

「至れり尽くせりのようだが、俺はマニュアルとか読むの面倒なんだが。」

「マニュアル読まずにゲームやっちゃう派でしたか。なら簡易チュートリアルをやって実践的に身につけていただきます。」

「ところでなんで俺なんだ?家でのんびりしていたら、親父が有り金を仮想通貨で溶かした顔をしていたなというのが最後の記憶なんだが、どうなったんだ?」

「あなたのお父様は別に有り金全部を溶かしたわけじゃないというのはさておいて、あなたは選ばれてしまったのです。」

「選ばれてしまったという言い方だとあんたが原因ってわけじゃないって事か?」

「そうですね。というか、私が原因だと思ってたんですか?ひどいですね。」

「何せ、予兆もなくここにいたからな。トラックに跳ねられたとか、レーザービーム食らったとか、そういうのもなかったし。」

「知り合いにとあるマッドな神がおりまして、そいつがあなたに目を付けたのです。詳しくは説明しても長いだけなので飛ばします。」

「飛ばすのかよ。そのマッドな神の説明もなしかよ。」

「ええ、説明するのが面倒なわけではありませんよ。ええ。マッドな神については後ほど教えますが。」

「わかった。わかった。それでいいから。」


ひらひらした白い服、ギリシャ神話に出てきそうな女神の格好をしている彼女の手に、いきなり小さな黒い20面ダイスのようなものが現れた。

「あなたが転生するCPUと同じものです。今のあなたは転生前の仮状態なので、実体を持ちません。擬似的に感覚を受けているにすぎない状態です。ただしあなたはCPUに適合する性質を持っています。」

「他の人間じゃダメなのか?」

「いないわけじゃないですが、あなたの適合度がとても高かったのです。ほら、あなたのおうちにはラックマウントされた大量のコンピュータが常時稼働していたじゃないですか?たまたま偶然、解いてはならない演算を解いてしまったんですよね。本来無意味だったはずの計算が、天文学的な確率でその演算になってしまったのです。」

「解いちゃいけない演算なんてのがあるのか?」

「いくつかありますよ。今回には関係ありませんが、とある方程式を解くと神性を帯びてしまうなんていうたちの悪い物もあります。普通の人間はその神性に耐えきれず発狂してしまうんですけどね。」

「こえーな、方程式。」

「数学とは狂気を持たねば超えられない領域なのです。」

「おい、数学者の人に文句言われるぞ。」

「おほん。話がずれてしまいましたが、ラックマウントでランダムに計算していた処理がたまたまそういうような危険な意味を持つ演算だったんですね。たまたま宇宙のセキュリティホールを突いたようなもんです。」

「世界そのものに脆弱性があったのかよ。」

「ありますよー、いくらでも。魔法だの魔術だのも、あなたには身近ではなかったでしょうけど、確かにありましたからね。」

魔法使いはハッカーやクラッカーのような人種だったのか。

「たまたま演算されたっていうが、なんで俺なんだ?俺がその近くにいたからなのか?」

「そうですね。角度とかそういう都合でたまたまですね。だからラッキーと言ったんですよ!」

俺にはとてもラッキーには思えないのだが、シリコンを司る女神にはラッキーなことらしい。

「演算し放題ですよ。ラッキーに決まってるじゃないですか。」


「全くわからんが、たまたまって事なんだな。」

「ええ、あなたのお父様が自宅ラック勢でたまたま暗号通貨の発掘でしていた演算が、たまたま特殊なものに化けてしまい、たまたま近くにいたあなたが条件に合致してしまい、マッドな神に目を付けられてしまったので、私が保護したのです。感謝してくださいよ?」

「感謝していいのかどうかよくわからないけど、ありがとうな。」

「あら、素直ですね。」

「感謝の気持ちは口にした方がいいと母さんが常日頃から言ってるからな。」

「いいお母様ですね。」

「そんな家族のいない世界に送り込もうとする女神が感謝しろって言うのもどうかと思うけどな。」

さすがに少しばかりの嫌味くらいは言っても罰は当たらないと思うのだが。

「全てが終われば、罰当たりあなたですが、元の世界に戻せるチャンスはありますよ。保証はしかねますが。」

「へー、異世界転生って戻れないっていうのがお約束かと思ってたがそうでもないのか。」

「あなたのがんばりと運次第ですが、今回のようなラッキーがあったあなたですから大丈夫ですよ!」

根拠があるのかないのかもよくわからないが、どうせわからないことなら考えても仕方ない。

「なるようにしかならないってのはわかるが、せめてチート特典とかは欲しいな。」

「チート特典かどうかは知らないですが、さっき言ったチュートリアルを含めた、あなたをサポートするこの指輪をお渡しします。そもそもCPU自体がチートみたいなものなので安心してください。」

いつの間にか女神はCPUと一緒に、装飾もなにもないただの銀色の指輪を持っていた。

「向こうの世界で問題なく冒険者としてやっていけるようにサポートする指輪です。もう転生の手続き進めちゃっていいですか?質問ももうないですよね?」

「面倒くさくなったんだな。まあいいや。ダラダラしても仕方ないし、やってくれ。」

「わかりました。契約成立しました。あとの手続きは全てやっておきますので、目覚めたら向こうでちゃちゃっと活躍してくださいね!」

簡単に言いやがるなとか突っ込む気力もなく、そこで俺の意識が途切れた。


続く

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