第3話 腹が立ってきたので、解呪します

目が覚めると、そこそこ綺麗なベッドの上にいた。


「………ここ、どこ?」

「さっきの酒場の二階だよ」

「ギャアァァッ!化粧濃いぃ!こわ、こwa」

「誰が厚化粧で皺隠してる四十独身女だ、ゴラァッ!!」

グォウオォ………。

誰もそこまで言ってねぇだろ!勝手に俺の言葉改竄して、勝手にキレて腹パンするなよ!殺す気か!てか、やっぱババァかよ。ププ、その年まで独身って可哀想だな。

「ア"ァ?何か言ったかい」

「ハハ………。ナニモイッテオリマセンヨ」

フッ、俺は学んだんだよ。こういう時は何も言わず逆らわない、そうすることで長生き出来るってな。と言うか、もう殴られたく無いです。

「あーそうかい」

「そ、それより、サラはどこにいんだ?」

「あぁ、隣の部屋で寝てるよ。あんたを殺す気で殴って気絶させた後、あの娘も倒れたんだよ」

なん…だと……?

てか、今殺す気でって言った?

「だ、大丈夫なのか!?」

「大丈夫さ。まぁ、倒れた理由はあんたのせいかどうかは分からんけどね」

「ウッ………」

俺のせいだったら、もう生きていけない。

死ぬ、死んでしまう。

「それであんた、何であんなこと言ったんだい」

「はい?」

え、何のことかな?僕、分かんないなぁー。

「とぼけると痛い目に遭うよ」

「………個人的な事情がありまして」

もうちょい頑張れよ、だって?ムリムリ、もう一度殴られる位なら本当の事を言った方がいいね。

死にたくないので。いや、あのパンチ何だよ、確実に急所狙ってきてるよ、絶対人拳一つで殺ってるよ。

「事情って、何だねさ」

「そうだなぁ。まず何処から話すか………」

本題の呪いの話?それとも、自分の正体を説明した方が良いか?

うーん、どうすっかな。

先に正体明かしとくか、そっちの方が楽そうだし。

「じゃ、先に俺の正体を教える」

「あんたの正体?」

「そ、俺は賢者だ」

「は?」

ブッ!ヤベ、笑うな俺。しっかし、クソバババァの呆け顔、アホ面すぎて笑えるな!

………フゥ。いかんいかん、冷静にならんと。

「あの魔法を極めた?」

「あぁ」

「四大国の〈アズーラ帝国〉に喧嘩売った?」

ンン?

あれは、あっちが先に手を出してきたんだけど!?俺の家にあった魔道具盗んだのが、いけないんだけど!?

腑に落ちん。

「そうだな」

「魔王殺しの三英雄の?」

え?そんな事俺して………いるね、うん。

たしか、数百年前ぐらいに賭け事で大負けして腹いせに数少ない友人の二人と調子乗ってた魔族の一人をぶっ飛ばしに行ったわ。

へぇー、あれ魔王だったのか。通りで偉そうだった訳だ。

「うん。そうだなー」

「フゥ。唐突すぎて、信用できないね。何か証拠になる物とか持ってないのかい?」

「うーん、あったっけなぁ」

証拠になる物とか持ってなかった気がするなぁ。あ、そういや昔にそれっぽい物を貰った気がする!

たしか、貰ってすぐにポケットにぶちこんだ気が………


俺はうっすらとある記憶を頼りに、羽織ったままの灰色のロングコートのポケットを探った。

ここで、ちょっとした解説をしておこう。

実はこのロングコート、空間魔法――『瞬間移動テレポート』もこの分類に入る――の一つ『万能収納ストレージ』をポケットに付与した魔導具だったりする。なので、このコートの中には色々と詰められるため、長距離移動などが楽になる。さらに、耐熱・耐寒から耐魔・対物の付与魔法をかけてあるから、超丈夫だよ☆

ちなみに考案・製作は俺です。ついでにサラの服にも付与してます。


「お?あったあった」

でも、これよく見たら懐中時計だわ。

「ちょいと貸してみな」

「あぁ、ほら」

たしか、これであってるよな。なんせ、ほとんど覚えてないぐらい昔に貰ったものだから、かなり不安でしかないよ。

頼む!あっててくれ!

「こりゃ本物みたいだね」

「え?それで分かるのか?」

「そりゃそうさ。中に賢者を示すローブを着た梟の紋章に、数百年も前から存在する四大国全ての国印も彫られてるんだからねぇ」

へぇー。貰ってから中とか見てなかったから、初めて知ったよ。と言うか、俺を示す紋章があることに若干驚いてるわ。

………梟より、鷹が良かったなぁ。だって、カッコいいじゃん?

「じゃ、これは返すよ」

「どうも」

てか、それで納得するのね。それはそれで不安なんですが。

さてと、これでまずは俺の正体が教えられたし、次は本題の呪いのことを教えるか。

「それじゃあ、俺がどうしてあぁ言ったか教える」

「分かった」

あーあ、あのストーカーの事は思い出したくもないんだけどなぁ。憂鬱だ。

「はぁ………」

「どうかしたかい?」

「いや、何でもない。じゃ、俺にかかった呪いの経緯を話すぞ」


俺はそう言って何百年経っても忘れられなかった最悪最低で大嫌いな女との話を始めた。


***

えっと、これは俺が賢者と呼ばれ始めた頃の事だ。

当時は俺の名を語る偽物が出てき始めていた。その対策として、確かあの懐中時計が作られ渡されたんだよ。

で、あのストーカーと出会ったのはその頃だったな。


「ねぇねぇ、賢者様?遊びましょうよー」

「チッ。しつけぇな、どっか行けよ」


あの女は、市場で買い物していたとき人拐いに絡まれていたのを助けた女だった。名前は知らん、と言うか聞かなかったんだけどな。あっちからも言ってこなかったし。

それで、その時以来街で会うたび執拗に絡んできた。それはもう執拗に粘っこくな。

市場で必要品や食材の買い物してるときはもちろん、酒場・大衆食堂などにいるときやトイレに行くときでさえ付きまとってくるし、果てに教えてもないのに俺の家に居たりするからな。

………あの時は恐怖で逃げ出したよ。自分の家なのに。

と、まぁ前座はこれくらいにしといて、ここからが本番だ。執拗に粘っこいストーカーから逃げ出した俺は、常識ある人間だったら絶対に来ないだろう場所、四死山の一つ〈冷縛の氷山〉で暮らすことにした。

寒くはないのかだって?その辺は、魔道具や魔法を上手く使ってどうにかしたよ。

そこでの暮らしは、快適だった。だって、あの女が居ないからな。でも、その暮らしも長くは続かなかった。


ある日のこと、俺がいつものようにのんびりしていたら、誰も来ないはずの我が家の戸を叩く音が聞こえてきたんだ。俺は、驚きよりも恐怖で寿命が縮んだよ。

しばらくしても戸を叩く音は止まなかったから、勇気と魔法展開をしながら玄関まで行った。そして、扉を開けるとそれじゃ足りないって程度の防寒をしたストーカーが笑みを浮かべて立ってたんだよ。

俺はとりあえず爆炎系魔法全てを無詠唱して扉ごと吹っ飛ばしました。

………え?やりすぎだって?いやいや、これぐらいしないと、生き返りそうじゃん?

それで吹っ飛ばした後、魔法によって発生した水蒸気が晴れると、円上に真っ黒になるまで焼かれた地面の中心にぼろぼろの奴が居た。あれだけやったのに、まだ身体残ってたからな?執念が凄すぎて怖いし、正直引いたからね。もう一度、焼き払って止め指そうとしたよ。

だけど、あそこまでやって生き残ったから止め指したら、幽霊モンスターになって出てきそうだったから知らない土地に飛ばそうと思って恐る恐る近付いたんだ。そしたら、あの女超マイナーで使いづらい呪いを使いやがった。

その呪いが、『束縛の鎖』って名前で好きな女性に告白すると死ぬっていう物だったんだよね。発動条件が死にかけていること、かける対象がすぐ側にいることってのと、かける対象の《一部》を持っていることだった。いつの間にか髪の毛辺りを回収されてたらしい。

まんまと呪いをかけられた俺は、呪いを解こうにもかけた女はその後すぐにくたばったし、他にも解き方が不明だったし、どうしようもなかったんだよね。それにあの頃はそういう相手も居なかったから解呪する必要もありませんでした。


***

「と言うことです」

「大変だったのは分かったが、だったらもう少しましな答えをしても良かったんじゃないかい?」

うん、俺もそう思うよ。流石に面倒とか言っちゃダメだわ。

あれ?俺、かなり酷いこと言ってね?

「はぁ………。大体その事を話せば良いじゃないか」

「いや、普通に忘れてた」

てへぺろ♪

「いっぺん死ね、アホ男」

「さぁせんしたぁー!!」

今日の俺、超情けないクズです。生まれてきてごめんなさい。

「ったく、それであんたはどうすんだい」

「え、何が?」

「呪いとあの娘の告白だよ。あの娘は頑張って告白したんだい、その思いに答えたくは無いのかい?」

そっか、そうだよな。サラも勇気を出して言ってくれたんだよな。なのに、俺は最低な答えをしてしまった。それも好きな女性に。

超クズだなー、俺。と言うか、そもそも何で俺があんなストーカーに振り回されなきゃいけないんだ?おかしいだろ。

………あれ?そう思うと何だかイライラしてきたぞ?

「よし、呪い解く。そして、ちゃんと答える」

「そうだねぇ、それが良い」

「そうと決まれば、早速工房に帰って、解呪してくるぜ!」


俺は、そう言って大急ぎで部屋を出るのだった。


***

「ってのが、さっきリオに聞いた話だよ」


私は、あの後すぐにサラのいる部屋に来ていた。理由は、あの話をするためさ。

まだ眠ってたら後でするつもりだったが、起きててくれたから忘れる前に話すことが出来たよ。


「そうだったんですか………」

暗い。あの話はそこまで重くなかった気がするんだけどねぇ。

「リオさんは、何処に?」

「さぁ?何も言わずにさっさと行っちまった」

工房に帰ると言ってたのは、言わないでおこうかね。後を追いかけられるのも、あの男も困るだろう。

男は、いつだって好きな女性に頑張る姿は見せたく無いものさ。

「でも、良かった。私、嫌われててあぁ言われた訳では無いんですね」

「安心しな。あの男はあんたの事が好きだよ」

両思いってのは良いことだ。二人が一々赤くなりながらあれこれしてるのは、見ていて楽しいからね。

「じゃ、あんたはちゃんと待ってな。あの賢者様だ。今日中には、終わらせてくるだろうさ」

「はい。ここで、リオさんが来るのを待ってます」

うんうん、良い娘だ。あの男に、勿体ないよ。

「それで、何か食べたいものはあるかい?」

「え、良いんですか?」

「あぁ、良いよ。遠慮せず何でも言いな」

本当に良い娘だよ。

「えっと、じゃあ、サンドイッチを………」

「分かった。ちょっと待ってな」

まったく、賢者様。こんな純粋で良い娘を泣かせるもんじゃないよ。早く帰って来て、大喜ばせてやりな。


私は心の中で、解呪をしているだろう賢者様に向かって文句を言いながら、サラの部屋を出ていきサンドイッチを作って貰いに下の酒場に降りていった。



その頃………


「あんの、クソ女ァ!!呪いの多重付与なんて面倒な高等技術使ってんじゃねぇ!大体、何で同じもんをかけてどうすんだよ、二回殺したいのか!マジで意味わかんねぇよ………」


賢者リオの解呪作業は順調?に進んでいた。

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