ヒューマノイドの少女と、その周囲が繰り広げるSFミステリー。
過去と現実が交錯していく展開、積もりに積もる数々のミステリー、そしてそれらが最後に向かうごとに、少しずつ収束していく。
作者様の手腕も手伝って、それが一つ一つ噛み締める思いがしてきます。それで徐々に謎が解けていく瞬間が、何とも心地よい感触を思うかのようでした。
そして重要なのはヒューマノイドの主人公。彼女の活躍、葛藤、そして想いが、このドラマをさらにエスカレートさせてくれる。最初はヒューマノイドであるという設定に奇妙さを覚えましたが、まさにこれしかないのだと実感するようになります。
こんなミステリーに出会えて本当に良かった……そう感じる物語が、ここにあります。
AIに感情があるのか?
機械に命があるのか?
そういう問いに対して、私は「あるんじゃないかな」と思っている。
その感情の形、命の在り方が人間と同じである必要は多分ないから。
ヒューマノイドはきっと、AIだからこその感情で以て人間と関わり、
機械ならではの姿を通して相対的に、人間の命の形を顕在化させる。
……などということをつらつら思いながら『404の私』を拝読した。
主人公ユウは、高度な「強いAI」を搭載した少女の姿のロボットで、
ひょんなことから警察にスカウトされ、テロ対策に協力している。
とある学園への潜入捜査を通じ、ユウは己の正体に気付き始める。
「P-SIM」によって個人情報の全てが管理される、訪れ得る近未来。
2030年代、東京五輪後の日本社会にはどこか薄暗い不安が蔓延し、
弱者救済を謳う新興宗教が勃興するも、テロリストによって廃され、
今度はそのテロリストが弱者救済を掲げ、熱狂的な支持者を集める。
ユウが学園生活や捜査線上で見聞きし「学習」していく事柄と、
唐突にフラッシュバックする誰かの記憶を通じて、読者の前に
次第にテロリズムの真相と痛ましい過去が明らかになっていく。
人間に最も大きな危害と脅威を与える存在とは、結局何なのか。
「学習」を重ねるほどに優しくなれるAIは、人間よりずっと、
本質的に可憐で無邪気な存在なのではないか。なんて思った。
世界は近未来。
サイバー犯罪対策課vsテロ組織。
亡くなった少女の記憶。
徐々に明らかになっていく真実。
スピード感満載のクライマックス。
そんな魅力的な世界が、
"AIの一人称"
によって紡ぎ出されます。
えっ、AIってあのAIですか?
そう、あのAIです。人工知能です。
それ、物語として大丈夫なんですか?
はい、大丈夫です。それどころか、とても面白いです。
とまあ、感情を持ったAIという、書くのが難しそうなキャラクターを主人公としながらも、そのリーダビリティの高さは圧巻でした。すごい……。
SFとしてはもちろん、ミステリーとしても完成度が高いです。
ユウが追うのは、テロ組織のボス、ナポレオンと呼ばれる人物の正体。
ヒントはあるんですよ!
なのに最後まで誰がナポレオンかわからないんですよ!
だって怪しい人が何人かいるじゃないですか!
順当にいけばこの人かこの人だろうなぁ。でも裏をかいてこいつってこともあり得るのか……。
と、作者と読者のそんな駆け引きも楽しめます。
あとキャラもいいです。
三葵くんがすごく好き。心に闇抱えてる系男子ですね。
リンゴ食べてるシーンでデ○ノートの某死神さんを思い浮かべたのは秘密です。
SF好きもミステリー好きも、SFもミステリーもあんまり読んだことないけど興味あるよーって人も、何か面白いの読みたい!って人も、全員まとめてかかってこい! この小説が一人残らず虜にしてやる!
ってくらいあらゆる方面にオススメできる作品だと思います。
ヒューマイノド(つまりロボット)を主人公にした近未来ミステリー。
物語はヒューマイノドであるユウの一人称で進んでいく。一人称を、感情の無いロボットに任せて、はたして読者は感情移入できるのかと思いつつも、冒頭からテンポよく事件がはじまり、そして、突然に再生される404のファイル――それを読めば、なるほど、どうしてユウが主人公なのか納得できる展開が待っている!
「バスティーユの象」と呼ばれるテロ組織を追う中で浮かび上がる、404ファルイが再生する、とある女性の過去。それらは彼女が通っていた学校の生徒へと繋がり、そして「バスティーユの象」にも繋がっていく。宗教団体、家族、イジメ、自殺、友達、恋愛、復讐と、様々な要素がてんこ盛りの物語は結末は……
感情というのは至極曖昧なものだ。なぜ自分がそのように思うのか、明確な理由付けをするのは難しい。時には自分自身でもなぜそのように思ったのか理解できないことすらあるだろう。
人間は成長する過程で様々な経験をし、それを記憶し学習し、個の人格を獲得する。そうして自我が、感情が育ってゆく。しかしながらごく一部の例外を除いて私たちはその過去の経験を忘却していく。
この感情には必ず由来があるのに、それを認識できない。自分自身を構成する重要な因子でありながら、どうしてもそれを見つけ出すことができない――。
ヒロインの藤沢ユウはあらすじにもある通り人間ではなくヒューマノイド、簡単に言えばロボットだ。
しかしSF作品でよく見かけるロボットと異なるのは、彼女が「感情」を有するのみならず他者の感情もまた「理解」そして「学習」する点にある。高度に情報化が進んだ社会で、彼女は自身と他者が抱く感情を正確に認識できるのだ。その能力を活かし、彼女は世を騒がせるテロ組織の捜査に関わっている。
しかし捜査を進める中で奇妙なことが起こり出す。彼女の感情を作り上げるために使用され、そして消えて行ったはずのファイル群。それが不意に彼女の思考を奪い、自我を揺るがしてゆくのだ。
タイトルに含まれる「404」とは、インターネットにおける「そのようなファイルは存在しない(Not Found)」を示すステータスコードに相違あるまい。
自己の存在に不安を抱きながら捜査は進む。彼女の失われたファイルと密接な関わりを見せ始めたその事件が解決を迎えるとき、藤沢ユウは彼女のままでいられるのだろうか。
そしてテロ組織の首魁の正体とは何者で、彼女との関係は如何なるものなのだろうか。
完結まであと少し。謎が解けるまであと少し。
私が今抱いている感情は「期待」か「不安」か、あるいは……?