第6話 敵本拠地への進撃

 カーボベルデフランス駐留軍。

 基地の官舎にアナベル達は足を踏み入れた。

 「仲間が増えている」

 アナベルと香川は声をそろえた。

 「戦車と装甲車のミュータントを初めて見る。めったに会った事がなくて」

 戸惑う香川。

 「そうだよな。僕達は船だし」

 肩をすくめるギルム。

 「客船のミュータントは初めてだ」

 ジャウラー、ホセ、トゥプラナ、ゾル、ぺデル、アパムは目を輝かせた。

 お互いのプロフィールと資料に目を通すツアーロとカーヴァー達。

 「ゴールデン・エラとフォーレンダムがギニア湾にいたのね」

 アナベルがあっと声を上げた。

 最初の攻撃でエンリコ達と脱出した時に上陸部隊と一緒に港に入ってきたのがこの二隻の客船だった。

 「中国人とアメリカ人で武器商人に運び屋でなんでも法律に触れるスレスレの違法な事もやる連中ね。私とセレニテイは違法に魔術書や禁止されている書物を売却している連中を探してきたらゴールデン・エラとフォーレンダムに行きついた」

 シンフォニーは説明した。

 「僕はイタリア政府から大量に武器を購入している奴がいるというのを聞いて捜査してこの姉妹と合流した」

 リヨンが口をはさむ。

 「俺とマービンはパンサーアイの呼びかけで来た」

 コリントはつけくわえる。

 「僕とカーヴァーはガボンのフランス駐留軍から来た。パンサーアイの呼びかけでケニアでゾル達と合流したら米軍の戦車とイスラエル軍の戦車が遺跡を荒らしていた」

 ホセはスクリーンに出した。

 「米軍が?」

 香川と海江田が驚く。

 「ラルゴとロルフというのか。それにしても二人共軍歴がすごい」

 感心するツアーロとパブロ。

 「ロルフが第四次中東戦争とイラク、アフガン、シリアに戦闘経験がある。ラルゴも湾岸戦争やイラク、シリアといった戦地での経験がある。共通するのが違法なハンターで遺跡荒らし」

 カーヴァーが説明する。

 「イスラエルはいつも優秀な人材を集めている。スカウトの条件が戦地での経験があってハンターレベルも高レベルを求めている。最近は特命チームに入っている戦闘機のミュータントと戦闘艦と巡視船のミュータントにオファーが出ていたが断られている」

 アルミンが説明する。

 「それは米軍にも言える。米軍の第七艦隊に所属している空母サラトガと強襲艦エセックス、沿岸戦闘艦の二隻は翔太君や智仁さまを狙ってきた。それとアメリカの沿岸警備隊の巡視船の二隻もこの四隻と一緒にくっついているらしい」

 香川が画面を切り替える。

 画像に空母サラトガと強襲艦エセックス、沿岸戦闘艦二隻、カプリカとニコラスが変身するアメリカの巡視船が顔写真と一緒に出てくる。

 「フレイやラルゴ、この四隻の裏で指令を出しているのがこの女だ」

 ベレッタが口を開く。

 「ジョコンダという名前なのか。政府高官じゃ手が出せないな」

 残念がるパブロ。

 「サルインにいるリベルタ軍を追い出したらリベルタ国内にあるテレポートアンカーの送信装置と総司令部を攻撃をする。でもリベルタ国内の詳細な地図がない」

 フィンは腕を組む。

 「そこなんだよな。衛星で見るのはできるけど何の施設かわからない」

 パブロがうなづく。

 「あれ?この人誰?」

 アナベルがお茶を持ってきたフランス人女性兵士を指さした。

 アルミン達の視線が集まった。

 「北朝鮮のスパイでしょ」

 アナベルは聞いた。

 なんでかわからない。直感である。頭の中に北朝鮮国旗と007のジェームズボンドが出てきた。なんでつながるのかわからないがジェームズ・ボンドが映画でのスパイというのは知っている。

 「お見事です。アナベル様」

 フランス人将校は笑みを浮かべると金髪だった髪が黒髪になり、皮膚も白色から黄色人種特有の色に変わった。

 身構える香川達。

 「私はリー・チョゴン。ライとは知り合いなの」

 リーと名乗った北朝鮮人は名乗った。

 「憲兵を呼ぶ前に取引しない?」

 リーは声を低める。

 「フランスはテロ支援国家の指定を受けた国はは取引しない」

 アルミンは答える。

 「俺はおまえを信用できない」

 香川ははっきり言う。

 「日本海で漁船同士で合流して薬物とお金を引き渡す。知らないとでも思った?」

 海江田が日本海の海図を出した。

 黙ってしまうリー。

 「国連にいくつも制裁をかけられているのにミサイル、核開発ができるのはアフリカ諸国にコネや資金がありネットワークがあるからよね」

 カーヴァーが指摘する。

 「アフリカ諸国と関係が深いのは独立支援やインフラ整備、工場、ビル建設を請負ってきたから。その政策は正解で核開発ができている」

 ベレッタが核心にせまる。

 「いいの?リベルタ国内の詳細地図がないと反撃できないけど?」

 声を低めるリー。

 「話だけでも聞きましょ」

 アナベルが折れる。

 「そう言っていだだけるとうれしいわ」

 笑みを浮かべるリー。

 「たいした事のない情報なら海に沈めてしまえばいい」

 パブロが口をはさむ。

 ムッとした顔でリーは何枚かの地図と図面を出した。

 「北朝鮮政府にリベルタからオファーが来たのは二年前ね。発電所と鉄道建設と基地や何個かの施設の建設の依頼が来て労働者を派遣して造った。お金もちゃんと支払ってくれた」

 リーは重い口を開いた。

 「おまえを派遣した北朝鮮のせいだろうが」

 香川は目を吊り上げる。

 「私達は請負って造っただけ!!外貨は必要に決まっている!!」

 バン!と机をたたくリー。

 「本当にたいした政府よね!!」

 海江田は声を荒げる。

 「工事が終ったのはいつ?」

 ベレッタが聞いた。

 「一ヶ月前に終えて三週間前に労働者達は帰国した」

 リーは答えた。

 「おまえ達のせいだろ!!建設とかやらなければリベルタは襲ってこなかった。こいつを死刑にするべきだ」

 ツアーロとギルムは声を荒げる。

 「そうだ。こいつを死刑にしろ」

 トゥグルやジャウラ、ボンゴ達はそれぞれの部族、国の言語で叫ぶ。

 アルミンはフランス語で一喝した。

 黙ってしまう香川達。

 「死刑にしていいの?私が捕まるとアフリカ各国のスパイネットワークが使えなくなるし、ダーラムやその部下も捕まらないし、一族はいろいろな所に散らばっている。資金の流れや居場所もわからなくなるよ」

 目を吊り上げるリー。

 「パンサーアイにこの人を入れましょ。死刑にするのは戦いが終ってから考えればいいわ。今はその情報が必要だもの」

 真顔のアナベル。

 「変なマネしたら砲弾の的にしてやる」

 ホセは言った。


 

 一時間後。

 アナベルは食堂で紅茶を飲んでいた。

 香川、海江田、カルル、フラム、ツアーロ、ギルム、パブロ、ホセ、カーヴァー、フィンとエンリコが同じ机に座った。

 「香川さん、海江田さん。日本に帰らなくていいの?」

 アナベルは口を開いた。

 「いつだって帰れるし、任務の任期が終ってないからな」

 香川はお茶を飲む。

 「なんで?」

 海江田が聞いた。

 「あなた方が日本に帰ればアフリカで何が起きているかを知らせる事ができる」

 アナベルが指摘する。

 電波妨害で通信が思うように届かないならこの人達を帰国したら何が起きているかを世界に発信できる。

 「それは僕も考えていました」

 ツアーロとギルムが名乗り出る。

 「君はフランスに亡命する事だってできる」

 ホセが声を低める。

 「やだ」

 きっぱり言うアナベル。

 「今からやろうとしている奪還作戦は巨大戦車を破壊するだけでなくテレポートアンカーと野戦司令部を破壊。国内にいるリベルタ兵を追い出す事だ。危険も伴うし、死者も出るだろう」

 エンリコが指摘する。

 「だって残って戦っている人達がいるのに逃げるのはおかしいでしょ。死んだおじいさまがよく言っていたの。”民がいればそこが領土でそこが家である”と」

 真顔で言うアナベル。

 「なんか武田信玄の名言に似ているな。彼も「人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり」

 香川は思い出しながら言う。

 「意味はどれだけ城を強固にしても、人の心が離れてしまえば世の中を収めることができない。熱い情を持って接すれば、強固な城以上に人は国を守ってくれるし、仇を感じるような振る舞いをすれば、いざという時自分を護るどころか裏切られ窮地にたたされるという意味なのよ」

 海江田が説明した。

 「そうなんだ」

 感心するアナベル。

 もちろん武田信玄が戦国大名である事は知っているし外国語学校で多少は歴史は習った。

 「アナベル様。あなたは私達と一緒に国内に侵入する事になります」

 カーヴァーは地図を出した。

 「海からですか?」

 疑問をぶつけるアナベル。

 「ガボン側の国境から国連の難民救済機関を装って侵入して地下トンネルから侵入します。エンリコ、フィンと戦闘機のミュータントは巨大戦車を空爆する。ただ空爆するだけでなく前段階で無人機による攻撃をする。カルル、フラム、ボンゴ達はテレポートアンカーの破壊をする。ナイジェリアや南アフリカからくる部隊と一緒にやる」

 パブロが説明した。

 「海にいる船舶のミュータントを誘惑するのはベノワとシンフォニー姉妹がする」

 香川は港を指でなぞりながら説明する。

 「そいつらを攻撃するのは俺達」

 部屋に入ってくるコリント、マービンが入ってくる。

 「その人達は?」

 カルルが聞いた。

 「フランス海軍のカルメンです。隣りがフランコです」

 女性フランス人将校は自己紹介した。

 「僕達はアゾレス発電所に行く部隊の支援だよ。港にいる上陸艇を片付けたら橋頭堡を築いて侵入する」

 フィンは口を開く。

 「国内のリベルタ兵を追い出した後はリベルタにあるテレポートアンカーと総司令部、ウオーデンクリフタワーの破壊、孵化施設があれば破壊も入っている」

 エンリコはリベルタの地図を出しながら指でさして説明した。

 「わかった。みんなでダーラムを追い出しましょう」

 アナベルは真剣な顔で言った。



 翌日。アメイラ沖。

 アメイラ湾に接近するクリスタルシンフォニー、セレニテイとシーボーン・ソジャーンの三隻。

 港外にいたゴールデン・エラとフォーレンダムが船首を向けた。

 「ねえ。中国からの荷物は受け取ってもらえたの?」

 シンフォニーはしゃらっと聞いた。

 「それがどうした?」

 ゴールデン・エラは声を低める。

 「その様子だとどこの港にも入れなかったみたいね。残念ね」

 わざと言うセレニテイ。

 「黙れよ。ここはおまえらが来る所じゃない。出て行けよ」

 フォーレンダムはすごんだ。

 「よければその品物は買い取るけど」

 ソジャーンが誘う。

 「やだね。リヨンというイタリアの巡視船といたよな。信用できない」

 フォーレンダムがはっきり言う。

 「そうよね。だってミサイル部品だから誰もいれてくれない」

 ソジャーンが指摘する。

 「仕事の邪魔するならバラバラにする」

 ゴールデン・エラが中国語で言う。

 「こっちも邪魔しないでくれる」

 シンフォニーは二対の錨と六対の鎖を出す。

 セレニテイとソジャーンは身構えた。

 「刻稜流武の舞」

 ゴールデン・エラは一〇対の鎖を出して身構えると奇声を上げながらエンジン全開で連続で突きを入れてきた。

 セレニテイは四対の鎖の先端から魔法陣を出すとそれでゴールデン・エラの突きを弾き、二対の錨を鉄球に変えて交互に殴った。

 大きく揺れるゴールデン・エラ。

 ゴールデン・エラは体勢を立て直すと船内からたくさんの爆弾を投げた。

 セレニテイの手前で爆弾は爆発した。

 フォーレンダムは六対の鎖の先端からワイヤーロープがたくさん飛び出しクモの巣のように広がる。それらのロープはセレニテイやシンフォニー、ソジャーンの船体にくっついた。

 「なによこれ?」

 ロープがからみつきもがく三隻。

 「僕はクモの能力があるんだ。スパイダーマンみたいにね」

 自慢げに言うフォーレンダム。

 「でもあんたにスパイダーマンのような能力はなさそうね」

 シンフォニーがしゃらっと言う。

 「クモは鳥やハチに捕食されるしね」

 セレニテイが四対の鎖の先端から魔法陣が現われた。その鎖を巻きつけた。せつな、ワイヤーロープが錆びが広がり、ボロボロになって砕け散った。

 「バカなぁ・・・」

 絶句するフォーレンダム。

 中国語でののしるゴールデン・エラ。

 ソジャーンの船橋の窓の二つの光が吊り上った。せつな、急激に曇りはじめ雷がフォーレンダムとゴールデン・エラに命中した。

 「ぐあっ!!」

 二隻の船体の窓ガラスが全部割れ、エンジン部から黒煙が上がった。

 ゴールデン・エラとフォーレンダムは目を剥いて転覆した。

 ソジャーンは汽笛を鳴らした。

 するとミサイルの飛翔音が響いた。

 ドドーン!!ドーン!!

 停泊していた上陸艇と輸送艦に命中。火柱が次々に上がる。

 「無人偵察機が接近」

 シンフォニーはレーダーで見ながら言った。


 飛翔音が響いて数百機の無人偵察機が機首を並べてセントラルプライムの方向へ飛ぶ。

 そのうちの五機偵察機からミサイルが発射される。正確に巨大戦車に命中した。車体の迷彩模様が消えて幾何学模様が輝いた。車内から五つの発射機が飛び出し、赤い光線が何条も発射された。上空を飛ぶ何機かの偵察機を撃墜する。

 海上のフランス艦船からミサイルが何発も発射される。それも正確に命中した。

 濃密な煙を切り裂くように赤い光線が発射される。

 無人偵察機からミサイルが発射される。それはそばのビルに命中。ビルが折れて巨大戦車の車体に何棟ものしかかった。


 アメイラ湾に侵入してくる艦船。

 船橋や艦橋の窓に二つの光が灯っている。

 「いた。金流芯一味だ」

 巡視船「つがる」に変身している香川は叫んだ。

 「あの砲台を撃て」

 ギルムが錨で指さした。

 「了解」

 コリントとマービンはミサイルを発射。正確に港湾施設の屋上と道路上にあった大砲が吹き飛んだ。

 金流芯が中国語で叫んだ。

 哨戒艇がミサイルを発射。

 シンフォニーは六対の鎖の先端から五角形の魔法陣を出した。ミサイルはその手前で爆発した。

 セレニテイは体当たりしながら進む。哨戒ボートや小型哨戒艇は転覆して乗員が海に投げ出される。

 「香川とギルムだろ。海江田がいないじゃないか?」

 金流芯がドスの利いた声で指摘する。

 「それがどうした?」

 言い返す香川。

 「王女はどうした?」

 馬何進が聞いた。

 「安全な場所にいる。おまえたちはここから出て行ってもらう!!」

 ギルムは声を荒げる。

 「僕達は協力しているだけだ」

 身構える金流芯と馬兄妹。

 「時空侵略者を入れるのが?」

 「中国は終ったね」

 リヨンとベレッタが指摘する。

 「終わりじゃない。中国は発展するんだ。今度は世界が中国をコピーするんだ」

 金流芯が自慢げに言う。

 「本当に大笑いだ」

 パブロが笑い出す。

 フランス語でからかうフランコとカルメン。

 「コアをえぐる。特に特命チームや沿岸警備隊チームに参加する巡視船のミュータントを捕獲すると賞金がでるの」

 馬可西は声を低める。

 「一番いい値段が海保のミュータントなんだよ。一生楽して暮らせる賞金が出る」

 金流芯が錨で指さした。

 「簡単にやられてたまるか」

 香川は二対の錨と六対の鎖を出してにじり寄る。彼と金流芯は遠巻きににじり寄ると動いた。海上で円を描くように走りながら金流芯の機関砲や鎖による連続突きをかわす。

 金流芯は機関砲を連射。

 エンジン全開で周囲を走ってかわす香川。彼が動いた。その太刀筋は見えなかった。

 くぐくもった声を上げる金流芯。船体側面に深くえぐられた傷口が口を開けていた。

 馬可西と馬何進は中国語で呪文を唱えた。力ある言葉に応えて火柱が上がる。

 リヨンとベレッタはイタリア語とフランス語で呪文を唱えた。衝撃波とともに突き上がった火柱が次々と凍りついた。

 ギルムはエネルギーをチャージして機関砲を連射。光る銃弾が動き回っていた馬兄妹の船体に命中した。

 くぐくもった声を上げる馬兄妹。船体にいくつもの貫通穴が開いていた。

 岸壁に激突する金流芯。船体にたくさんのえぐれた傷口が開いている。

 「僕を殺さないのか?」

 金流芯が中国語でくやしがる。

 「殺さないさ。労力と時間がもったないし価値もない」

 言い切る香川。

 「おまえたちは捕虜なんだよ」

 ギルムがはっきり言う。

 「誰が捕虜なんかになるか?」

 馬何進が悪態をつく。

 「ミニマム」

 リヨンは呪文を唱えた。力ある言葉に応えて金流芯と馬兄妹は全長一メートルのサイズになった。

 ベレッタは三隻を捕まえて三つの大型犬ゲージに放り込んだ。

 「それなら邪魔にならない」

 香川が納得する。

 「おまえの仲間もここよ」

 ベレッタは船内から二つのゲージを出す。そこには模型サイズになったゴールデン・エラとフォーレンダムが入っていた。

 「沿岸警備隊なんて潰してやる」

 ゴールデン・エラと馬何進が叫ぶ。

 「覚えてろ!!海上保安庁」

 捨てセリフを吐く金流芯。

 「この作戦が終ったら中国に強制送還になるな」

 しゃらっと言う香川。

 上空を戦闘機が機首を並べて飛び去っていくと同時に爆発音が響く。

 「アゾレス発電所へ行くぞ」

 香川が海図をベレッタ、リヨン、ギルム、シンフォニー、セレニテイ、ソジャーンに送信した。

 シンフォニーはつかんだ哨戒艇を投げ捨てるとアゾレス港に接近した。

 上空から接近してくる大型のコウモリや角を生やした大型の鳥の群れがやってくる。目が赤く輝いている。目が赤いのは魔性である事を示している。

 「私にまかせて」

 ソジャーンが二対の錨から円形の魔法陣を出した。せつな、雷鳴が轟き、稲妻が魔物の群れに襲いかかった。感電して黒焦げになり落下した。

 「魔術の詠唱なしでやった」

 リヨンとベレッタが驚く。

 「そういえばシンフォニーやセレニテイも妙な魔法陣を出した」

 香川が気づいた。

 「私は小さい頃から雷を操れるの。ただ他の魔術は修行して会得したけどね」

 ソジャーンが答える。

 「私と妹は小さい頃から錬金術のマネができた。私が防御でセレニテイが攻撃なの。姉のケインはバリアや結界を操れてそれを破壊する事もできてバリアで攻撃もできる」

 シンフォニーが口を開く。

 「すごい心強いです」

 ギルムがわりこむ。

 「発電所だ」

 香川が指摘する。

 貨物ターミナルに着岸するシンフォニー、セレニテイ、ソジャーン。三隻のベランダから飛び出す兵士達。

 対地ミサイルが敵軍の装甲車や車両を吹き飛ばした。

 上陸艦から降りてくる巨大な大砲。大型装甲車と戦車。大砲は十八輪の装甲タイヤがある移動式砲台である。

 元のミュータントに戻る香川達。

 貨物ターミナルから港湾施設に走るカルル、海江田、フラム、ボンゴ。

 カルルはライフル銃を撃つ。その弾道は曲がり、屋根にいた敵兵を貫いた。

 元のミュータントに戻るシンフォニー、セレニテイとベノワ。

 「あの装甲車と大砲はビックガンとエンリコとフィンが変身しているのか」

 香川が地響き立てて走り去る移動式砲台と大型装甲車と戦車を見ながら言う。

 「ビックガンを呼べたのね」

 感心するシンフォニー。

 ビックガンは普段はTフォース本部にいる。第一次世界大戦で青島攻略で葛城庵長官が旧日本軍と向かった要塞にいたのが巨大砲台に変身していたビックガンだった。それ以来、オルビス達と一緒にいる。

 「フィンが変身している戦車は米軍のエイブラムスM-1ですね」

 ギルムがあっと声を上げる。

 「どんな経緯で入手したにしても米軍が簡単に首を縦に振らない」

 香川は声を低める。

 オルビスが変身する空母「ヴァルキリー」は米軍の空母である。サンティアゴ基地の修理ドックにあった空母と融合したのはリンガムというオルビスと同じ種族の女性だったが融合したら逃亡してそれがきっかけで葛城翔太は十五歳でこの戦いに巻き込まれる事になったし、米軍からも目をつけられるようになった。

 「でも貴重な戦力よ」

 ベノワがわりこむ。

 「発電所へ行こう」

 香川はうなづいた。



 同時刻。

 ジェット機タイプのオスプレイが低空飛行していた。

 機内にアナベル、ホセ、カーヴァー、トゥグル、トゥプラナ、ジャウラー、ペデル、ゾル、アパムの九人が乗っていた。

 「ねえ。トゥグル。なんで牛の頭蓋骨をかぶっているの?」

 アナベルは聞いた。

 「これは部族の呪術師の証だよ。先代の部族の長からもらうんだ」

 トゥグルはどこか遠い目をする。

 「トゥプラナとジャウラーもその首飾りもそうなの?」

 アナベルが指摘する。

 「部族の長や先代の呪術師から認められてもらえる」

 ジャウラーとトゥプラナはうなづく。

 「アナベル様。護身用の武器です」

 カーヴァーは短剣と弓を渡した。

 「紋章がついている」

 気づくアナベル。

 「ヴィドが王家の墓から持ってきたそうよ。代々伝わっている武器で剣の方はゾンビや悪霊、魔物を傷つけられる。弓は光る矢が飛び出るそうよ」

 カーヴァーが答えた。

 「初耳よ。そんな武器が伝わってたんだ」

 驚くアナベル。彼女は弓を引いた。すると光が集まって矢の形になった。

 「あれは葛城翔太の持っている時空武器に似てないか?」

 ホセがささやく。

 「彼のは完全に形を変えられるけど彼女のは最初から弓ね」

 カーヴァーがうなづく。

 「あと五分でセントラルプライム郊外に到着します」

 操縦士が報告する。

 低空飛行するTフォースのオスプレイ。トンネルに侵入して着陸した。

 「ここ三号トンネルね。この道の先は四十丁目のジャンクションに着くわ」

 アナベルが気づく。

 戦車や装甲車に変身するホセ達。

 Tフォースのオスプレイはステルスモードを起動させて飛び去る。

 アナベルはカーヴァーが変身する装甲車に乗り込んだ。


 

 巨大戦車は六対の鎖を出した。どれも丸太のように太い。その鎖でのしかかる瓦礫をどかした。せつな、青い光線が左側の砲口に命中した。火柱が上がり黒煙が上がった。

 接近する群青色の大型装甲車とエイブラムM-1戦車。

 「こちらエンリコとフィン、ビックガン。これより攻撃を開始する」

 巨大戦車の車体からいくつもの発射装置が飛び出し赤い光線が何条も発射される。

 戦車と装甲車はジグザグに走行しながら光線をかわす。

 大型砲台から青い太い光線が発射。正確に命中した。巨大戦車の車体から出ている発射機が吹き飛ぶ。破損部に戦車砲と迫撃砲弾が命中する。

 巨大戦車の砲口が火を噴いた。

 ビックガンが変身する砲台に命中したが穴は開いていない。

 ズガァーン!!

 巨大戦車は丸太のような鎖を何度も振り下ろした。

 フィンとエンリコは砲撃しながらかわす。

 再び砲台からの砲撃。

 右側の砲身がへし曲がり亀裂から火柱が上がった。

 フィンは元のミュータントに戻ると駆け上り持っていた爆弾をその亀裂に押し込んだ。

 巨大戦車は内部から一瞬にして凍りついた。



 乾いた銃声が周囲に響いた。

 銃弾が飛び交う間隙を縫うように駆け抜ける香川、ギルム、リヨン、ベレッタは片腕の機関砲を連射。

 二階のバルコニーにいたリベルタ兵士と傭兵達は撃たれ落ちた。

 カルルはライフル銃を撃つ。通路や柱の後ろにいた傭兵に正確に命中した。

 海江田は地を蹴り、壁を蹴り宙を舞い早撃ちガンマンのように銃を撃つ。

 傭兵とリベルタ兵に命中。

 壁を蹴り柱の向こうにいた傭兵を飛び蹴り。もんどりうって倒れる傭兵。海江田は飛びつきナイフで胸を刺した。

 何人かの傭兵が短剣を抜いて動いた。ボンゴは傭兵の突きやなぎ払いをかわし持っていた槍で突き刺し、なぎ払う。

 フラムは呪文と唱え杖を向けた。

 どこからともなく虚空から鋭い石のつぶてが傭兵やリベルタ兵を貫通した。

 振り向く香川。

 足元にはリベルタ兵と一緒に傭兵達の死体が転がっている。

 上陸する前に確認した図面だとこの廊下を抜けた別棟が制御室だ。

 低いうなるようなかわいた音が聞こえ何かが始動する音が聞こえた。

 「テレポートアンカーが起動したんだ」

 リヨンが言った。

 

 

 

 


 

 

 

 

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