第3話 逃亡

くるハザリとフィン。

 二人を降ろすとツアーロは元のミュータントに戻った。

三人はマイクロバスに駆け寄る。

 「ハザリ博士。基地じゃないのですか?」

 ギルムが聞いた。

 「それよりも大変な事が起きている」

 フィンはタブレットPCを見せた。

 画面の数字のカウントダウンが続いている。

 「これは?」

 香川とギルムが声をそろえる。

 「たぶん攻撃のカウントダウン。リベルタの国境付近にある急造の空軍基地に戦車や戦闘車両が集まっています。国境の峠道を運搬トラックで運び、残りは大型航空機で運ぶと思います。そして大砲はすべてサルインに向いています」

 ツアーロは地図を出して説明した。

 「大変だ。大統領に知らせないと!!」

 わりこむヴィド。

 「すでに国防長官に知らせました」

 フィンが冷静に答える。

 「じゃあ大統領府で閣議が始まってますね」

 納得するギルム。

 「ヤバイ。カウントがゼロになった」

 ツアーロが顔が真っ青になる。

 せつな空襲警報が鳴り響いた。

 「本当に攻撃が始まるのか?」

 エンリコが疑問をぶつける。

 「ミサイル警報!!」

 フィンが叫んだ。

 「ミサイル?」

 「多数の不審機接近」

 フィンは目を半眼にして報告する。

 「え?」

 ドドーン!ドーン!

 遠雷のような音が響き、火柱と黒煙が上がるのが見えた。

 「プリマス基地とサントゥ基地に着弾。サルイン全土にある基地に着弾」

 フィンは地図を出して指摘する。

 「バカな。リベルタにそんな戦力が?」

 声をそろえるギルムとツアーロ。

 「中国の資本を軍事政権は積極的に入れて戦力を増強した。よく中国企業が大金を出したな」

 香川が感心する。

 「どうしよう。34分署と連絡が取れない」

 心配するカルル。

 「圏外になっている」

 困惑するフラム。

 「携帯の基地局がやられたのね」

 海江田がわりこむ。

 「あれを見て」

 アナベルが身を乗り出す。

 バスの窓から多数の大型航空機を通過していくのが見えた。

 「あれなら戦車や戦闘車両を運べるわね。目的地上空で戦車や車両をパラシュート降下させる」

 海江田がうなづく。

 「立体シールド装置作動」

 エンリコは腕にある制御装置を操作する。

 「アメイラにある基地にテレポートします」

 呪府を出すツアーロ。

 力ある言葉に応えて呪府が輝き、バスごと青い光に包まれた。次の瞬間、基地の駐車場に瞬間移動した。

 飛翔音がしてミサイルがバスの手前で爆発した。

 「・・・エンリコ。君すごいよ」

 フラムは目を丸くする。

 「俺のいた世界では標準装備だ」

 冷静なエンリコ。

 「行くよ」

 海江田が促す。

 ツアーロ達はバスを降りて官舎に入った。

 基地内では武器を持った兵士達が忙しく行き交っていた。

 「セード司令官!!」

 ツアーロとギルムが声を上げる。

 部下達に指示を出していたセードが振り向いた。

 「アナベル様。無事だったのですね」

 セードが破顔する。

 うなづくアナベル。

 「ツアーロ。ギルム。カーボベルデ・フランス駐留軍に行け。そこにパンサーアイのメンバーが集まるそうだ」

 セードは許可証を渡した。

 爆発音が近くで聞こえた。

 「港の貨物ターミナル、旅客ターミナル、アメイラ空港にミサイルが着弾。落下傘多数」

 フィンが報告した。

 「ここは我々がなんとかするから、君らは駐留軍へ行け」

 セードは部下に指示を出しながら促す。

 「了解」

 ツアーロとギルムはうなづく。

 「こっちです」

 ギルムは手招きする。

 香川達は官舎から桟橋へ走った。

 桟橋にある小型哨戒艇に乗り込むギルム達。

 フィンとエンリコは手首のケーブルを出して接続させた。とたんにエンジンが始動する。

 ヴィドはロープを外した。

 ギルムは舵を操作する。

 哨戒艇は離岸してスピードを上げて港湾を離れる。港から出航したのは自分達だけではなく漁船やプレジャーボートや貨物船も港から離れていくのが見えた。

 上空の航空機からパラシュート降下する多数の兵士が見える。

 「あんな兵力をどこで?」

 カルルは身を乗り出す。

 短期間で召集は可能だが無政府状態が続いてインフラも破壊されているのは聞いている。まともな兵力があるなど聞かなかった。

 防潮堤に接近する哨戒艇。

 接近してくる二隻の大型客船。一隻目は濃紺色と白のツートンカラーで船名は中国語で「ゴールデン・エラ」と書かれ、二隻目は黒色で船橋構造物は白色のツートンカラーで英語で船名は「フォーレンダム」と書かれている。その大型客船二隻と一緒に灰色の上陸艦艇が多数接近してくる。

 「やばい。捕まる」

 真っ青になるツアーロとギルム。

 「ステルスモード起動」

 エンリコは腕にある制御装置を操作する。すると低い音とともに周囲の色に溶け込む。

 「あれだけの上陸部隊をよく集められたな」

 感心する香川。

 「リベルタは内陸国なので海軍はありません。手助けした仲間がいると思います」

 ギルムが怪しむ。

 上陸部隊は何もなかったように通過する。

 「見えていないようね」

 海江田が声を低める。

 「今、攻撃されたら敵に見つかる」

 香川は舵を持ちながら見回す。

 エンリコのステルスモードのおかげである。ここは立て直すしかないだろう。

 哨戒艇は防波堤を抜け外海に飛び出した。



 その頃、南アフリカのプレトリアル

 プレトリアルは南アフリカの首都である。首都の会議場にアフリカ連合の代表が顔をそろえていた。

 アフリカ連合はアフリカ五五の国・地域が加盟する世界最大級の地域機関である。アフリカの一層高度な政治的・経済的統合の実現と紛争の予防・解決に向けた取組強化のために,二〇〇二年七月に一九六三年に発足のアフリカ統一機構から発展改組されて発足した。

 「フェデリコ陛下。パンサーアイを召集するというのは本当かね?」

 ケニアの代表がたずねた。

 「いくつかの兆候があったから召集した。時空侵略者や彼らが連れてきたカメレオンは太平洋だけの問題ではありません。アフリカでも起こりつつあります」

 冷静に答えるフェデリコ。

 「アフリカの各地で白い動物が目撃されているがあれが前兆であると?」

 アンゴラ代表が聞いた。

 「日本でもキジムナーという精霊が現われ、南太平洋では違う種類の白いフクロウが何羽も現われた。アフリカでも起きている。キリンの親子は遺伝のせいでも白いライオンやマウンテンゴリラは説明できるかね?」

 フェデリコは聞いた。

 黙ってしまうアンゴラ代表。

 「それはともかくカメレオンは水棲型エイリアンで船舶と融合している。空母打撃群や巡視船の部隊が確認されている」

 ボツワナ代表がわりこむ。

 「アフリカには日本のような海軍力はありませんぞ」

 シエララオネ代表が声を強める。

 「だからここは協力して追い払おうとしている。パンサーアイの力もいる」

 語気を強めるフェデリコ。

 「パンサーアイが召集されるのは半世紀ぶりだ。どのように集めるのかが問題だ」

 ガーナ人の議長は腕を組んだ。

 その時である部屋のドアが乱暴に開いて秘書が飛び込んできた。

 「何事かね?」

 議長が聞いた。

 「TVをつけてください」

 秘書が息を整えながら促す。

 係員が正面スクリーンをつけた。

 四車線ある道路を進軍する巨大戦車と子分のようについてくる取り巻きの普通の大きさの戦車群が見え、あっちこっちで火の手が上がる映像だった。

 「街が・・・」

 絶句するフェデリコ。

 どよめく代表達。

 「なんだあのバカでかい戦車は?」

 驚きの声を上げるセネガルの代表。

 「砲身が三門ある戦車なんて見たことない」

 アルジェリア代表が声を震わせる。

 港の映像に切り替わり多数の上陸艇から降ろされる戦車と戦闘車両。上空を舞う戦闘ヘリや車両、戦車にはリベルタの紋章がついていた。

 「リベルタ代表!!宣戦布告なしですね」

 目を吊り上げるフェデリコ。

 「私は政府から何も聞いていない!!」

 声を荒げるリベルタ代表。

 「政府なんて最近までないに等しいではないか!!」

 「それは二年前までです!!軍事政権ができています」

 反論するリベルタ代表。

 どこからともなく失笑がもれる。

 「我々と同じ状態と言う事ですね」

 ソマリア代表がしれっと言う。

 「貴国とは違う」

 ムッとするリベルタ代表。

 「ではどうやってあれだけの兵力と車両を集めた?あのバカでかい戦車は?」

 ソマリア代表は画面を指さす。

 「暫定政権が出来て短期間でどうやって政権をまとめて人材も集めたのかね。その秘訣があったら聞きたい」

 チャド代表がわざとらしく聞いた。

 「私は何も聞いていないし、そんな動きがあるなら警告している!!」

 バン!とテーブルをたたくリベルタ代表。

 「いずれにしても国連には知られたし、パンサーアイも呼びかけに応じてやってくるだろう」

 議長は少し考えながら言った。



 その頃。サルインにある議事堂

 閣議室に大統領、首相といった閣僚達が顔をそろえていた。

 その部屋に数人の兵士を伴って入ってくるリベルタ軍将校。

 「アッシジ大統領。ウォラー首相。お目にかかれて光栄です」

 あいさつをする男性将校。

 「君は誰かね?」

 アッシジ大統領はたずねた。

 「ダーラム・エメシスラ・ウル・べネディクト。リベルタの大統領になったのだよ」

 笑みを浮かべるダーラム。

 「エトス大統領はどうした?」

 ウォラー首相が聞いた。

 「あのジジイなら国外追放した」

 しゃらっと答えるダーラム。

 「べネディクトと名乗ったが知り合いか?」

 ゲイリー国防長官がたずねる。

 「あなた方はフェデリコ夫妻から何も聞いていないのかね?私の一族とフェデリコ夫妻の一族は一〇〇〇年前に別れたのだよ。フェデリコ夫妻の一族が穏健派で私の一族は強硬派であり死刑執行人だった」

 自慢げに言うダーラム。

 どよめく閣僚達。

 「宣戦布告もなしでやってきたが国連にはもう知れ渡った。国連安保理も始まるだろう」

 アッシジ大統領が声を低める。

 「本日、わがリベルタ軍はサルイン全土を完全に占領した事を宣言する。もし我々に逆らう者がいれば市街地に展開する友軍が攻撃する」

 ダーラムは声を荒げた。

 「友軍が聞いてあきれる。中国製の兵器ばかりではないか?時空侵略者とカメレオンをリベルタに入れたか?」

 「その兵士も展開する車両にいる兵士も傭兵であろう」

 財務大臣と国務大臣がしれっと言う。

 笑みが消えるダーラム。彼はスイッチを入れて正面スクリーンをつけた。

 「最初の命令を下す!この日本人二人とアルビノの王女はどこだ?」

 ダーラムは声を荒げた。

 スクリーンに香川と海江田、アナベルの顔写真が出る。

 「その日本人は海上保安庁から派遣されている現職の保安官だ。彼らを殺害すれば日本政府が黙っていない」

 外務大臣がわりこむ。

 「殺さないし人質だ。交渉も進む」

 しゃらっと言うダーラム。

 「王女様をどうするのかね?」

 ウォラー首相が聞いた。

 「時空侵略者とカメレオンをリベルタ国内に入れただけではなく時空の扉を開けるのかね?そこまで貴国は落ちたのか」

 語気を強めるTフォースサルイン支部長。

 「質問は許さん!!

 ダーラムは目を吊り上げる。

 「二人の日本人と一人のアルビノの少女をそんなに恐れるのかね」

 ゲイリー国防長官が声を低める。

 「見つからなくて困っているのだろう。我々は降伏したわけではないぞ」

 くだんの支部長がすごむ。

 「知りたければ探せばいい」

 ゲイリー長官が声を荒げる。

 「愚か者め!!この二人をただちに処刑しろ」

 ダーラムは叫んだ。


 

 議事堂の外に連行される支部長とゲイリー。

 外の広場にすでに一〇人もの兵士が集められている。いずれもサルイン軍の兵士である。

 「ゲイリー長官。これはグラーキのマントです。私は自爆しますのでカーラ運河要塞へ逃げてください」

 サッとマントを渡す支部長。

 「そこのおまえ。この部屋に入れ」

 連行していた兵士が指さす。

 支部長は倉庫だった建物に入った。せつな閃光とともに爆発。爆風で周囲にいた数人のリベルタ兵士達が吹き飛んだ。

 身を起こすとゲイリーは渡されたマントを羽織った。多数のリベルタ兵が駆けつけてきたが誰も気づかずに走っていく。

 ゲイリーはその場から立ち去った。


 

 アメイラを出て何時間が経ったのだろうか。

 海をじっと見ているアナベル。

 長らく無政府だった隣国が攻めてきた。父と母は南アフリカにいて兄と姉は大学でスイスにいる。そして自分はフランス駐留軍に行く。パンサーアイが集まっているかもわからないし先もわからない。

 「ステルス装置を充電しないといけないな」

 エンリコがつぶやく。すると透明な膜が剥がれ哨戒艇が現われる。

 海図と海を見比べるギルム。

 「双子の岩があればそこが出入口です」

 ツアーロが指さす。

 その海域に二つの岩礁が見えた。広さは五メートルある。

 哨戒艇はその岩礁の間を通過した。

 地図を見る香川。

 サルインを出て北上して大陸沿いに進んでいる。たぶんセネガル沖である。

 すると濃い霧が周囲に立ち込める。

 「電波妨害です」

 ツアーロが身構える。

 「一〇隻の艦船が接近」

 フィンが報告した。

 香川、ギルム、エンリコ、フィンは片腕を機関砲に変えた。

 銃を構えるハザリ、海江田、カルル。

 短剣を抜くフラムとヴィド。

 物陰に隠れるアナベル。

 濃密な霧の中からぬうっと艦船が現われた。

 「フランス沿岸警備隊である。そこの不審船止まれ」

 巡視船が前に出た。

 巡視船が五隻とフリゲート艦と駆逐艦が五隻である。そのうちの一隻の船橋に二つの光が灯っている。

 「我々はサルインの第三王女をつれてカーボベルデフランス駐留軍と合流するように頼まれました」

 許可証を見せるギルム。

 別の巡視船の船橋から出てくるフランス人保安官。

 「サルインで起きている事は知っている。基地まで案内する」

 その保安官は言った。



 一時間後。フランス駐留軍基地

 カーボベルデ・フランス軍は、一九七四年にセネガル共和国との間で交わされた防衛協定に基づきフランス共和国が現地に駐留させているフランス軍。統合司令部はダカールにある。カーボベルデ駐留フランス軍は海外フランス軍司令官の責任下に置かれ、司令官はフランス統合参謀総長の直轄下にある。陸海空の三軍将兵は約一二〇〇人、この他に文民職員やセネガル人技術者から成っており、フランス軍のアフリカ大陸における事前配置戦力の一角を形成し西アフリカにおける各種作戦の支援拠点となっている。海外フランス軍司令官は常設および臨時統合部隊を指揮下において訓練を施し介入能力を維持し、主に国際的な軍事作戦やその準備、後方支援などにあたる。

カーボベルデ駐留フランス軍は統合任務部隊を用いて、セネガルとの防衛協定に基づき主にセネガル軍との軍事協力や西アフリカ諸国との間で各種活動に従事し、特にセネガルが外敵からの攻撃に曝された場合は共同で防衛に当たる。軍民協力、陸上と海上での共同による捜索救難、西アフリカ諸国経済共同体による西アフリカ待機旅団司令部に対する指揮支援、これに参加している数カ国軍に対しての幕僚訓練を実施している。


会議室に入ってくるフランス人将校。

「私は海外フランス軍司令官のアルミンである。サルインで起こった事は知っている」

中年の将校は名乗った。

「ではさっそく反撃をしたい」

ツアーロとギルムが声をそろえる。

「私も街がどうなったのか知りたいし刑事仲間とも連絡が取りたい」

カルルがわりこむ。

「パンサーアイが集まっているというのを聞いた」

フラムが口をはさむ。

「君らは何も知らないのかね?」

アルミン司令官はテレビをつけた。

「・・・速報が入りました。リベルタが布告なしでサルインに侵攻しました。リベルタ軍によりほぼ全土占領。数千人の難民がコンゴ、赤道ギニア、ガボンに押し寄せています」

セネガル人のリポーターが声を上げる。

画面には国境にやってきている避難民達を映し出す。みんな持てるだけの荷物を持って国境に押し寄せている。

画面が切り替わり街に大通りを進軍する巨大戦車と普通の戦車を子分のように引き連れてやってくる。

「なんだあのバカでかい戦車は?」

声をそろえる香川とツアーロ。

「砲身が三門なんて戦車初めて見た」

絶句するギルム。

巨大戦車が三門の砲口が火を噴く場面があった。発射されるのは赤い光線で発射の爆風で周囲の窓ガラスが全部割れて土ぼこりが舞った。

「この攻撃でアメイラ基地、沿岸警備隊本部は壊滅。他の基地も初日の攻撃で壊滅したと見ている」

衛星画像を見せるアルミン司令官。

絶句するツアーロ、ギルム、カルル。

「この巨大戦車はたぶん波王の卵が生まれたと思う。迷彩模様が幾何学模様です」

あっと声を上げるフィン。

「本当かね?」

身を乗り出すアルミン司令官。

「地球の大気や重力が合わない彼らは子供を産めない。なら体内で孵化させて戦車と融合させた。戦車は中国に造らせた」

エンリコが冷静に指摘する。

「波王は陸上部隊を初めて作ったようね」

海江田が身を乗り出す。

「この攻撃と一緒にリベルタの上陸部隊がやってくるのを見ました。その部隊と一緒にこの客船が上陸部隊を乗せていました」

スマホで撮影した客船の写真を見せる香川。

「初耳だ」

うーんとうなるアルミン司令官。

「戦いの舞台は海から陸になったのか。奴らは陸に巣穴を造るかもしれない。リベルタからやってきたなら巣がある。今、リベルタに攻撃をして基地を破壊すべきです」

黙っていた香川が口を開く。

「そうはいってもね。あの戦車がどういった攻撃をするのかが予想がつかない」

アルミン司令官は難しい顔をする。

「それは日本も同じだった。尖閣諸島の戦いでは米軍は参戦しなかった。自衛隊と特命チームは手探りで戦った。そこでわかったのは波王と対抗できるのはオルビスの種族とマシンミュータントだけ。ならフィンとエンリコはあの巨大戦車と戦える」

はっきり言う香川。

「私と香川は特命チームとは別のミュータント部隊でカメレオンと戦った」

海江田は名乗り出る。

「有事の際はミュータントが兵士と一緒に最前線に駆り出されるのは自衛隊も一緒か」

納得するアルミン。

「ミュータントもマシンミュータントも扱いは七〇年前と変わらない」

うなづく香川。

「あなた方二人は日本に帰国する事もできるがいいのかね?」

難しい顔をするアルミン。

「いつだって帰れる。それに俺と海江田は経験者であいつらの弱点や生態をある程度見ている」

食い下がる香川。

「私は先島諸島にいたカメレオンの戦闘兵士と戦った事があります」

海江田はうなづく。

「それは心強いです」

ツアーロとギルムがわりこむ。

「リベルタ軍の最高司令官はこいつだ」

アルミンは写真を見せた。

「誰?」

アナベル達が身を乗り出す。

「ダーラム・エメシスラ・ウル・べネディクトと名乗ったそうだ。クーデターを二年前に起こしてエトス大統領を国外追放して自分が大統領になった」

アルミンが答えた。

「おじいさまから聞いた事がある。私達一族に穏健派と強硬派で死刑執行人がいたんだけど一〇〇〇年前に別れた。ダーラムが強硬派で死刑執行人で私達は穏健派。穏健派と違い、時空侵略者を手を組みたいとか時空遺物を利用したい連中に取引を仕掛けるの。あのナチスドイツのヒトラーに時空侵略者と手を組ませたのも彼らでナポレオンといった為政者に取引を持ちかけているし、自分達も利用しようとしている」

アナベルが重い口を開いた。

「私もフェデリコ陛下から聞いた事があります。中国政府にサブ・サンを紹介したのはダーラムの一族ではないかとウワサがありました」

ヴィドがふと思い出す。

「そうするとつじつまが合う。先島諸島の戦いで負けたからアフリカの失敗国家に目をつけた。都合よくあった。それがリベルタで丁度よかった」

香川が推測する。

「でもリベルタだけでなくアフリカには失敗国家はけっこうあるわよ」

カルルが言いよどむ。

「ソマリアには時空侵略者が入って来ないのは欧州に近すぎて米軍や自衛隊の艦船が海賊対策でいるからだ。ならしょっちゅう政権が変わるかクーデターがいつも起こる失敗国家なら多少無理しても来ない」

アルミン司令官が推測する。

「その企みは成功で兵力を増強できた」

結論を言うツアーロ。

「私はあの戦車も兵士も追い出したいです。協力できますか?」

思い切って言うアナベル。

「君は何を言っているのか分かっているのかね?君はまだ十六歳だ」

笑みが消えるアルミン司令官。

「成人の儀式はすませたし、普通に公務はしています。成人の儀式を済めば社会人として認められます」

はっきり言うアナベル。

「フランスではありえない」

「いや日本でもありえない」

反論するアルミンと香川。

「でも特命チームを呼ぶには日本とここは一万三千キロは遠いわね」

ため息をつく海江田。

「それはそうなんだが日本では衆議院総選挙をやっていて三宅総理は選挙応援で官邸にはあまりいない。それに特命チームは南太平洋の調査でいない」

困った顔をしながらスクリーンを切り替えるアルミン。

そこには候補者の選挙応援をする三宅総理や街頭演説をする候補者の姿があった。

「のんきね。でも特命チームが不在じゃしょうがないわ。私達でやるしかないわ」

それを言ったのはアナベルである。

「従ってこのニュース速報はアフリカ大陸だけでアメリカや欧州、アジアでは放送されていない。アフリカだけの出来事だと思われている」

アルミンは腕を組んだ。

「私は作戦に参加したいわ」

カルルが真剣な顔になる。

「カーラ運河には運河要塞という古代遺跡があります。その麓のコルツ山に地下司令部があり非常の際はそこになります」

ツアーロは重い口を開く。

「都市伝説じゃなかったんだ」

フラムとカルルが口をそろえる。

「スタンレー川をはさんだ隣りの州にも同様の地下司令部はあります」

ギルムは地図を出して指でさしながら説明した。

「まるでスイスだな。スイスは国策として地下シェルターや地下基地を備えている」

感心するアルミン。

「お父様やおじいさまから聞いた事があるんだけれど常々、時空の遺物を利用する連中の脅威に有事に備えなければならないと言われた」

遠い目をするアナベル。

その時は冗談だろうと思っていた。でもそれは現実になった。今度は自分達が守らなければいけない。

「でも不思議よね。葛城翔太君は十五歳で事件に巻き込まれたし、智仁さまは十六歳で合流した。精霊にあらかじめ選ばれている感じね」

海江田は腕を組む。

「尖閣諸島の戦いでは成り行きで仲間が集まってきた。今回はどうなんだろう?」

香川がうーんとうなる。

パンサーアイは集まってくるのかそこもわからない。

「ダーラムはたぶん「精霊の書」という遺物を探しに来ると思います。その遺物は時空の亀裂を造れたり閉じる事もできます。先人達がその手がかりを隠したというのを祖父から聞きました」

話を切り替えるアナベル。

「古代遺跡はアフリカにもたくさんあるわ」

カルルがわりこむ。

「セネガルとガンビアにまたがる環状列石遺跡とケニアのエンゲティ遺跡に行って。精霊が呼んでいるから行く」

当然のように言うアナベル。

「君ねえ。精霊が呼ぶから行くというが確証がない」

あきれかえるアルミン。

「そこの所が翔太君と智仁さまに似ているわね。時空遺物の恐ろしさを知っている先人達はいくつか手がかりを残して隠した。時空の異変が見える者でしかパンくずを追えないようにしたのね。それを精霊達に託した。日本では沖縄の物の怪のキジムナー。南太平洋のパラオでは白いフクロウという形で精霊はわかりやすい形で出現した。行くのはいいけどパンサーアイが来ればいいけどね」

海江田が納得するように説明する。

「それに翔太君や智仁さまの他にもう一人いる。それが第五福竜丸だ。彼女は最近になってTフォースの技術者枠で復帰した。でも彼女は重度の障害者だから呼ぶのは無理だしたぶん特命チームと一緒に調査に行っている」

さじを投げた医者のように言う香川。

「おじいさまから彼女の事は聞いた事があるしネットでも知っている。おじいさまから聞いたのは彼女にはあだ名があって「稲妻の事代丸」「稲妻の福竜丸」「光を操るはやぶさ丸」とか呼ばれていた」

思い出しながら言うアナベル。彼女はタブレットPCでTフォースのホームページを見せた。画像にはゴミ捨て場に捨てられた木造漁船や投書の写真が載っている。

「重度の障害者である彼女は介助人やそれ専用の装置も必要で精霊の力は彼女では耐えられない」

香川がわりこむ。

「でもいつか彼女に会ってみたいな」

アナベルが写真見ながら言う。

「この戦いが終ったら日本に連れて行ってやる」

香川が言った。

 

 

 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る