第2話 危機

その夜。王立研究所。

 エンリコは服を脱いで制御チョッキをの留め金を外した。

 ギシギシ・・メキメキ・・

 体内から金属がきしむ音が聞こえた。もう慣れている。自分には生身の部分はないし、大部分は生きた機械が占める。金属生命体とのハーフである。ハーフになったのはこの世界に迷い込む前のものだ。

 「君もフィンも似たような感じだね」

 白衣を着た浅黒い肌の男性が声をかける。

 互いに顔を見合わせるフィンとエンリコ。

 「ハザリ博士。帰っていたんですね」

 フィンが声をかけた。

 「火災調査団メンバーが有名だけど君の場合は異世界の儀式でそうなった珍しい例かな」

 ハザリはMRI画像をのぞく。

 「南太平洋メンバーと日本にもメンバーがいて全員消防士」

 エンリコが口を開く、

 きっかけは東京の魔物出現事件で巻き込まれた女性消防士は片腕を失い、病院で気がついたら生きた機械の腕を移植されていた。その腕は彼女の体を造り替えて金属生命体のハーフにした。

 「隠れていてもレーダーに映っている」

 フィンは振り向いた。

 「やっぱり」

 アナベルは物陰から出てきた。

 「お父様とお母様は南アフリカのプレトリアで行われるアフリカ連合会議に出席するために飛行機で行った。パンサーアイの召集が目的よ」

 アナベルはストレッチャーに座る。

 「アナベル。君は俺が怖くないのか?」

 エンリコは聞いた。

 「普通にフィンを小さい頃から見ているしマシンミュータントは周囲にいるから怖くないし普通だし」

 アナベルは臆することなくエンリコの胸を触る。なんともいえない肌触りでイルカというより硬質ゴムを触っている感じだ。

 「俺の体はナイフで刺されたぐらいでは傷がつかない」

 エンリコは重い口を開くと鋭い鉤爪で胸を引っかいた。深くへこんだだけで傷もつかなかった。

 「時空侵略者が侵入すると侵攻してくるのは本当?」

 アナベルは疑問をぶつける。

 「歴史が証明しています。彼らの口車に乗った国は衰退の道をたどります。日露戦争を起こしたロシア帝国はその後のロシア革命で滅亡。第二次世界大戦でナチスドイツはなくなりました。現在の中国の海警船は信用されていないし、中国資本は敬遠される。杞憂であってほしいのですがね」

 ハザリは難しい顔をする。

 「米軍は?」

 「米軍はアフリカには興味ないですね。自分達に脅威が及んでいないと興味も示さない。日本の先島諸島の戦いでも同盟国なのに参戦しなかった。日本は特命チームと一緒に中国軍とカメレオンを追い出した。ならアフリカ諸国も自分達でできる所からやらなければいけない」

 ハザリは説明した。

 アナベルはうなづいた。


 その頃。隣国リベルタ

 部屋に黒人男性が三人と白人男性がいた。

 「ダーラム将軍。政権を奪還できておめでとう」

 白人男性は白ワインを出した。彼は四つのワイングラスに注いだ。

 「フレイ。君が優秀な人材を紹介してくれたおかげだ」

 ダーラムと呼ばれたヒゲを生やした軍人はワインをひと口飲む。

 「これで八回目のクーデターですね」

 二人目の軍人が口を開く、

 「アミル。前の政権はよぼよぼのジジイに実権を握られていたが何もできなかった。結局は国をまとめられてない」

 しれっと言うダーラム。

 政権が不安定なのは知っている。これまで部族間の争いからの内戦が二回もあった。他国からは失敗国家というレッテルがついて失敗国家ランキングの五位までの常連であるのはわかっている。

 「将軍。ドルグが連れてきたアレは時空侵略者ですね。それもサブ・サンの仲間だ」

 アミルが怪しんだ。

 「わかっている。まず国を安定させる。経済が潤えば生活もまともになる」

 ダーラムはうなづく。

 「本気か?」

 フレイが少し驚く。

 「だから中国資本を受け入れた。トマ・イルだそうだ」

 ダーラムは紹介した。

 黙ってしまうアミルとフレイ。

 同じテーブルに異様に肌の白いエイリアンがいる。紫色のピッタリフィットしたサイバネティックスーツに身を包んでいた。

 「私は商売を成功するにはトマ・イル殿の力を借りてもいいと思ったからだ」

 ドルグと呼ばれた男は口を開いた。

 「なかなかの賭けだな。賭けは好きだ」

 フレイは腕を組んだ。

 「本題に入る。「精霊の書」という時空遺物がある。今から五十三年前に時空の亀裂が現われた。それを感知したのが葛城茂という日本人だ。彼は隣国のコンフェル一世と一緒に異変を調査した。成り行きで「パンサーアイ」が結成された。このチームはアフリカ大陸で異変があると歴史上何度も結成されてきている。パンサーアイのメンバー達はその亀裂から現われた異世界の部隊と戦いそれを追い返し、精霊の書を使って閉じた。四〇年前も異変があったがその時は砂漠の星という時空遺物が使われている。それを使い国を立て直すのだ」

 ダーラムははっきりと言う。

 「俺が探すのは精霊の書か?」

 フレイが聞いた。

 「そうだ。コンフェル一世には息子がいた」

 うなづくダーラム。

 「そいつの息子ファルコ二世は二年前に病死。今はその息子のフェデリコが国王で三人の子供がいて三人のうちの一人は女でアルビノだ」

 フレイはタブレットPCを見せた。

 「アルビノはいい値段になる」

 ドルグは破顔する。

 「ただのアルビノじゃないぞ。時空の亀裂が見えるそうだ。時空遺物を扱えるのはその能力者だけだ。葛城茂のひ孫である葛城翔太は時空の亀裂を閉じられる能力を持つが特命チームに入っていて常にマシンミュータントのお守りがいる」

 フレイが写真を出した。

 「聞いているぞ。衛星TVで。日本と中国が戦った。そこで特命チームが召集された。だから邪魔されないうちにやる。といっても日本からリベルタまで一万三千キロだ。少しは時間はあるし、すぐには来られない」

 ダーラムは自信ありげに笑った。

 

 翌日。王立研究所。

 フラム、カルル、ツオーロが入ってきた。

 「こんにちわ」

 驚くアナベル。

 ヴィドは人数分の紅茶を持ってくる。

 隣りの部屋からハザリ、エンリコ、フィンが入ってきた。

 「そちらの方は?」

 カルルが聞いた。

 「ハザリ博士。Tフォースに勤務している技術者です」

 ヴィドが紹介した。

 「アナベル。お兄さんとお姉さんは?」

 フラムが聞いた。

 「スイスの大学に留学中だからいない」

 アナベルが答えた。

 「そうなの。でも協力者は多い方がいいわ」

 納得するカルル。

 「もちろん協力します」

 名乗り出るハザリ。

 「電波を出す物をひと通り調べた。ラジオからアマチュアラジオ、盗聴電波にネットに異常はなかったんだけど通信電波を探った。サブ・サンやカメレオンが使う周波数に合わせたら妙な電波が入っていた」

 フィンはデスクPCのデータを見せる。

 「電波はいくつかの国を経由して偽装していたけど中国だった。でも中国軍は動いていないからカメレオンとサブ・サンの仲間が動いていると見ている」

 エンリコはタッチパネルを操作する。

 「ビンゴじゃん」

 フラムとカルルが声をそろえる。

 フィンはスイッチを入れた。

 ”聞いたか?司令部から指令だ。十八小隊と戦車部隊は演習場所に集結せよ”

 ”演習はひさしぶりだな。クーデターで軍事政権に変わって具体的な指令が来た。ただ最近は妙なアンテナが増えたな”

 ”上層部に異様に肌の白い奴がいるらしい。そいつは中国内部にいる奴の仲間だそうだ”

 ”中国人が入って来ているのはそのせいか。おかしなことにならないといいな”

 ”同感”

 通信はそこで途切れた。

 「国防省に送信しました」

 フィンは冷静に言う。

 「それはミーティングルームでも聞いた。無線も傍受していて戦闘部隊がリベルタ国内の演習場に向かっている」

 ツオーロが地図を出した。

 「本当のようね」

 カルルが腕を組む。

 「南アフリカにいるフェデリコ陛下にも届いているだろうし周辺国も知ったと思う」

 ツオーロがうなづく。

 「リベルタの軍事政権は何を狙っている?」

 ハザリがわりこむ。

 「たぶん「精霊の書」か「砂漠の星」と呼ばれる時空遺物ですね。コンフェル一世は葛城茂元長官と一緒に隠したらしい」

 フラムが首をかしげる。

 「聞いた事があります。時空の亀裂を出現または世界を支配できるという伝説もある。でも無政府状態が続いていた時期もあって情報も入らないのにどうやって知った?」

 ヴィドが首をかしげる。

 「防諜部の話ですがこの外国人がガボンから入国してリベルタに入ったらしい」

 ツオーロが声を低める。

 「誰?」

 「フレイ・ロックハート。FBIのブラックリストに載っている。武器商人でミュータント狩りやアルビノ狩りのリーダーよ。兄弟はバロンとゼノン。アメリカ政府の高官でバロンはスレイグの側近」

 カルルが答えた。

 「あのうそつき大統領の側近でその弟はロクでもなかったのか」

 フラムが納得する。

 「いずれにしてもリベルタに侵入した事はアフリカ諸国は知る事になった。でもどうやってリベルタ国内に入る?」

 ツオーロはうーんとうなる。

 「それはいいけど精霊の書の手がかりがあるの?」

 アナベルがわりこむ。

 「何か隠したというウワサがありますのでコンフェル一世とファルコ二世の墓所に行きましょう」

 ヴィドは提案する。

 「どこですか?」

 身を乗り出すアナベル達。

 「モック島です」

 ヴィドは地図を出して孤島を指さした。


 一時間後。

 岩だらけの小島に接近する二隻の巡視船。

 「本当に手がかりがあるのでしょうか?」

 「サーグ」の船橋ウイングから身を乗り出すツアーロとカルル。

 「フィン。不審船は?」

 海江田は聞いた。

 「四十キロの海域に不審船の船影はありません」

 フィンは周囲を見回す。

 「この島は別名「王家の島」と呼ばれています。歴代の王が葬られています」

 ヴィドが説明する。

 「盗掘を避けるためですか?」

 海江田が聞いた。

 「それもありますがコンフェル一世が葬られた時に何か埋めたという話を聞きましたのでそれを確かめるためですね」

 ヴィドは説明する。

 「何か手がかりがあればいいですが」

 ツオーロは言った。

 「サーグ」が島の粗末な桟橋に接岸した。

 上陸するアナベル達。

 元のミュータントに戻るギルム。

 周囲は七百メートル。島はゴツゴツした岩に雑草が生い茂りとてもそんなお墓があるとは思えなかった。

 背丈ほどもある雑草をかき分け進むと四メートルはあろうかという岩が鎮座している。

 ヴィドはバックから歯車を出すと歯車型の溝にはめてハンドルを回した。分厚い岩が重々しい音をたてて開いた。

 「すごい・・・」

 絶句するカルル達。

 教会の礼拝堂がありその奥に扉がある。

 ヴィドの案内で礼拝堂を横切り、階段を降りていくカルル達。しばらくいくと納骨堂に入った。

 「ライト」

 ヴィドは呪文を唱えた。力ある言葉に応えて周囲を明るく照らす。そこはカビ臭い匂いが漂い、棺桶が並んでいる。壁には歴代の国王の肖像画が描かれていた。

 「不気味だな」

 つぶやくギルムと香川。

 「この杖は24金ですね。本物ですね」

 フラムはツボや杖を拡大鏡で見ながら言う。

 「あれ?おじいさんの壁画だけ左手に琥珀玉で右手は指をさしている」

 アナベルは壁画に描かれた指さした方向を見る。曽祖父の棺桶を触りながら装飾の中にレバーを見つけた。それを手前に引っ張ると箱が床に転がった。彼女は箱を拾うとフタを開けた。中に直径五センチの琥珀玉が二つ入っていた。

 「この歯車はなんだろう?」

 アナベルはファルコ二世の棺にある歯車を回した。すると棺の側面から箱が落ちた。

 「地図だ」

 アナベルは地図を広げる。それはアフリカ大陸の地図である。サルインの中心部に星印がついている。

 「まずここへ行って」

 アナベルは博物館を指さした。


 セントラルプライム博物館。

 「けっこうでかい博物館だ」

 香川はパンフレットを見ながらつぶやく。

 「日本でいうと上野にある東京国立博物館と美術館のようなものね」

 海江田は地図を見ながら言う。

 博物館に入るアナベル達。

 「本物は地下の保管庫ですが本当に危険な物は国外に持ち出されているか、どこかに隠されたというウワサがあります。あくまでもウワサです」

 ヴィドは口を開く。

 「それは日本でも同じだ。かならずどこかにあるさ」

 香川は展示品を見ながら言う。

 アナベルは周囲を見回す。

 なんかたくさんのささやく声が聞こえる。そのささやく声は装飾が施されたツボから聞こえる。

 ツボのオブジェをつかんで何回か振るアナベル。何回か振ると鍵が落ちた。

 「何これ?」

 カルルが拾う。

 「それは王家の鍵。時空遺物であらゆるドアや扉の鍵を開けられる。灯台でも刑務所のドアもあらゆる鍵穴や形状に変化できる。長らく行方不明になっていたのです」

 ヴィドは破顔した。

 「形状を変わるって時空武器と同じね」

 「きっと未来人だ」

 納得する香川と海江田。

 フィンとエンリコは片腕を銃身に変えて振り向きざまに撃った。

 天井から二人の兵士が落ちた。

 カルルは銃を抜いた。早打ちガンマンのような手つきで的確に撃つ。柱や物陰に隠れていた兵士が倒れた。

 香川はナイフを投げた。

 バルコニーから兵士が落ちた。

 駆け寄るツオーロ、ギルム、海江田。

 「こいつら誰だ?」

 香川とエンリコがのぞきこむ。

 「リベルタの兵士です。長らく無政府状態で動きがなかったのですが軍事政権ができたのは本当のようですね」

 フラムは冷静に言う。

 「おそらくミュータント部隊ですね。二回の内戦と七回のクーだターでミュータント部隊の隊員は大半が死亡したのを聞いています。たぶん人材を募集したんですね」

 ツアーロが納得する。

 「それに兵器も旧式なのが多いというのを聞きました。この銃はカラシニコフですね」

 ギルムは兵士が持っていた銃を見ながら指摘する。

 「ロシアが介入しているとか?」

 香川が聞いた。

 「ロシアはシリアとイラクの攻撃に忙しいしアフリカに興味があるとは思えない」

 フラムが首を振る。

 「中国でしょうね。この帽子はメイドインチャイナって書かれている」

 カルルは兵士がかぶっていた帽子の裏にあるタグを見せた。

 「これではっきりしたかも。リベルタはあらゆる物が不足しているから中国から資本を入れて物資も調達した。このミュータントも傭兵でしょうね」

 海江田は推測する。

 「この間まで無政府だったのを短期間でまとめるのは無理ですね。ソマリアが典型的な例です。暫定政権があっても国連も他国も国とは認めていない」

 ヴィドが首を振る。

 アナベルは虫メガネで二つの琥珀玉をのぞく。ストーンサークルが刻まれている。

 イギリスにあるストーンヘンジの小型版がここにもあるのは知っている。

 「そうなるとリベルタの通信を傍受したくなりますね」

 考えながら言うハザリ。

 「ハザリ博士。基地に来てくれますか?フィンにも手伝ってもらいます」

 ツオーロがひらめく。

 「研究所の機材を運ぶのを手伝ってくれますか?」

 ハザリがうなづく。

 「香川さん。ヴィドさん。万が一ですが・・・何か起こったらアメイラにある基地に合流です」

 ツオーロが言う。

 香川とヴィドはうなづいた。

 

 博物館から出てワゴン車に乗るヴィド達。

 環状列石のパンフレットを見るアナベル。

 「なんでアメイラにある基地で合流?」

 カルルが聞いた。

 「有事の際はそこに合流する事になっています。カーラ運河を挟んで南部と北部に別れている。地下シェルターや地下滑走路、基地があり司令部もあるんです」

 重い口を開くギルム。

 「なんか聞いた事がありますね。アメイラに海軍基地と沿岸警備隊基地が隣接していて山の中に地下滑走路があり非常時は司令部が機能するようになっている」

 フラムがふと思い出す。

 「概要は僕もあまりよくわからないのですがウワサです」

 ギルムは困惑する。

 「何も起こらなければそれでいい」

 香川が言った。

 彼らを乗せたワゴンは首都郊外にある橋を渡る。

 「この川は?」

 地図をのぞく海江田。

 「ザビ川。ここを渡るとアッサブ州に入ります。街の郊外にこのストーンサークルはあるいます」

 ヴィドが答えた。

 「古代遺跡でずっと昔からあります」

 フラムがわりこむ。

 「それにしてもヨーロッパチックな建物が多いな」

 香川が疑問をぶつける。

 セントラルプライムやその近隣の都市は近代的なビルが立ち並ぶが郊外に行くとフランスやイギリス風の建築物が立ち並ぶ。

 「イギリスよりフランスの影響が濃いですね。植民地にならずにすんで王家は存続した。時空の亀裂が見える者が王家にいたからフランスは協定を結んだというウワサがあります」

 ヴィドは説明した。

 「だから公用語がフランス語と英語ね」

 納得する海江田。

 フランス語と英語の他にも数十の部族の言語がある。たいがい英語とフランス語がこの周囲には飛び交っている。

 ワゴン車は駐車場に入った。

 古代遺跡に足を踏み入れるアナベル達。

 「サントゥーの遺跡か。謎のストーンサークル」

 香川がパンフレットを見ながら言う。

 サッカー場程の大きさのストーンサークルがある。造られた年代は不明でかなり大昔からあるという。

 「精霊がいっぱいいる」

 つぶやくアナベル。

 「え?」

 どこからともなく現われるヒョウ。しかも毛色は真っ白である。

 「ライオン?」

 香川と海江田が声をそろえる。

 「ヒョウですね。黒ヒョウの突然変異かもしれない。普通のヒョウのように斑点がないのは珍しい」

 フラムはうーんとうなる。

 「精霊が私達にわかりやすい姿で来ている」

 アナベルが冷静に言う。

 舞い降りてくる白いハゲワシ。

 「これも興味深い」

 つぶやくフラム。

 「精霊が見える者よ。この大地に危機が近づいている」

 白いヒョウが口を開いた。

 「精霊の書ですか?」

 フラムがたずねた。

 「それもある。時空侵略者が入り込んだ」

 白いハゲワシが口を開く。

 「サブ・サンの仲間か?」

 香川が聞いた。

 「その仲間はお供を連れて入り込んだ。その時空侵略者を利用しようとしている者達がいる」

 白いヒョウが言う。

 「時空の扉を閉じよ。遺物を渡してはならない」

 白いハゲワシがわりこむ。

 白いヒョウとハゲワシはかき消すように消えていった。

 「お供ってカメレオン?」

 アナベルが聞いた。

 「そうかもしれない。カメレオンの陸上部隊は聞かない」

 首をかしげる香川。

 南太平洋の異変では上陸部隊が現われ、戦車もどきが現われた。全部、空母「波王」の卵から生まれた物であるというのをTフォースや自衛隊のレポートや資料を読んだ。

 「利用する者が中国以外にもいるのか?」

 エンリコが聞いた。

 「利用したい連中は確かにいる。それと引き換えに侵入された国は衰退する」

 海江田が答えた。


 同時刻。空軍基地

 司令室でハザリは女性オペレーターと一緒に機器を操作していた。

 フィンは手首からケーブルを出して接続してメインコンピュータから侵入する。

 「ハザリ博士。スーパーコンピュータを経由させたんですね」

 モニターを見ながら言うツアーロ。

 「量子コンピュータだ。研究所のホストコンピュータから本部の量子コンピュータに接続している。衛星や傍受もできる」

 ハザリがタッチパネルを操作しながら説明する。

 「すごいですね」

 感心するツアーロ。

 「衛星からの映像です」

 オペレーターが画像を切り替えると鉄道の貨物車からクレーンで降ろされる戦車が映っている。

 「リベルタは最近軍事政権に変わったというのを聞いたのですが短期間にこれだけの戦車をそろえられるのでしょうか?」

 女性オペレーターが疑問をぶつける。

 「戦車は中国製で戦闘車両のミュータントも混じっているようです。戦闘ヘリや戦闘機もたぶん形状からして中国製かロシア製で多数のミュータントも混じっているようです」

 フィンが分析する。

 「二回の内戦でインフラはほぼ破壊され、しばらく無政府状態が続いていたのを短期間ではまとめて整備して人員もそろえるのは無理だと思います。それにこの妙なタワーがいくつも建っています」

 ツアーロが指摘する。

 画面には線路が敷かれ、貨物車が戦車を載せて走行している。空港も滑走路を修理して貨物機が多数駐機していた。

 「これが二年前です」

 オペレーターが写真を見せた。

 そこには鉄橋は破壊され線路も途中でなくなり空港も建物も滑走路も破壊された写真や廃墟の街が映っている。映したのは難民を支援する国連の団体である。

 「短期間で復興させた責任者は凄腕ですね」

 ツアーロが驚きの声を上げる。

 「参考にこの写真は持っていっていいですか?」

 ハザリが聞いた。

 「いいですよ」

 オペレーターがうなづく。

 「妙な音が混じっています」

 フィンはタッチパネルを操作する。ノズルを回すとジジジ・・・というノイズが入った。

 「どこから?」

 ツアーロとオペレーターが身を乗り出す。

 「ラジオの音楽番組なんですが音を取り除いたらありました。TV番組に妙な電波は混じってません」

 フィンが冷静に答える。

 「中国軍は日本との開戦前に漁船を使っていた。それと似たような事をしているね」

 ハザリが推測する。

 「このノイズは三〇分後に終ります」

 フィンが報告する。

 「国防省に報告します」

 ツオーロがうなづく。 

 「お願いします」

 オペレーターが書類を渡す。

 「国防省に案内して」

 ハザリが促す。

 「案内します」

 ツアーロが促した。




 十五分後。

 ハザリ、フィン、ツアーロは国防省に足を踏み入れる。職員が行き交う中をすりぬけ、長官室に入った。

 「サントゥー基地から聞いたが本当か?」

 書類から目を上げる長官。

 「ゲイリー長官。二年前までリベルタは無政府状態でした。それがこの二年で復興しているようです」

 ハザリは二年前と現在の写真を見せた。

 「鉄道網と空港も修理して整備して妙な鉄塔をいくつも建てているが都市の復興はまだのようだね」

ゲイリーと呼ばれた長官は指摘する。

衛星写真にはバラック小屋ばかりの街に立派な鉄塔が何棟も建っている。

「軍事政権ができたのは最近で短期間でここまで復興するのはよっぽどのカリスマか凄腕の人材を入れた事になります」

ツオーロが推測する。

「二回の内戦と何度もあるクーデターで優秀な人材は周辺国に逃れたか難民になったというのを聞いている。周辺国でウワサがあって中国人技術者や中国資本を受け入れてインフラ整備をしているというのを聞いているが本当のようだ」

ゲイリーは納得する。

「ここにある戦車や車両、戦闘機、武装ヘリは中国製かロシア製です。それらは国境に集結しつつあります」

ツアーロは地図を指さした。

「中国政府は動いていないのでたぶんサブ・サンの部下がいると思われます」

ハザリが推測する。

「それは傍受した通信を聞いた。彼らはどうやら失敗国家を使うことにしたようだ」

結論を出すゲイリー。

「それと妙な電波が混じっているのを捉えました。ラジオの音楽番組の電波に混じってカウントしています」

フィンはタブレットPCを見せた。

妙な波形と一緒にカウントが入っている。カウントダウンはあと五分である。

「時間がないな。レイ。空襲警報を出して襲撃に備えろ」

ゲイリーは従兵に指示を出した。

「了解」

レイと呼ばれた従兵は退室した。

「ツアーロ。アナベル様を安全な場所に運ぶんだ」

ゲイリーは声を低める。

「了解」

うなづくツアーロ。

「アナベルがどこにいるかわかる」

フィンがGPSを出す。

「じゃあそこに」

ツアーロとハザリは言った。

 


 

 

 

 

 


 

 

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