第7話 敵の本拠地への進撃 つづき

 三号トンネルを進む九両の戦闘車両。しばらく進むと大きくカーブしたジャンクションを飛び出す。道路にリベルタ兵や装甲車の機銃が火を吹いた。

 ホセ達は機関銃を連射しながら走行する。

 「ほとんど中国製ね」

 カーヴァーが車内無線ごしに言う。

 「中国の装甲車と戦車ばかりだ」

 ホセが残骸を見ながら言う。

 「でもよくこんだけの装備と兵器を集められたよな」

 トゥプラナが通信にわりこむ。

 「相当な金持ちと闇市を知っていないと購入できない物ばっかだ」

 アパムが口をはさむ。

 「でもさすが金持ち。武器商人を買収でもしないと戦車なんて購入できない。リベルタの場合は八回目のクーデターでダーラムが実権を握った。それだけでは国家として信用されていないのにコネでも使ったのか」

 ジャウラーがわりこむ。

 「時空遺物をチラつかせて取引をしたと思うの」

 それを言ったのはアナベルである。

 「あれをくれてやるから一緒にやらないかと誘ったのかな?」

 ぺデルがわりこむ。

 「そんな感じね」

 アナベルは通信装置ごしに言う。

 「じゃあ中国政府にも時空遺物をチラつかせてサブ・サンを入れたとか?」

 ゾルがわりこむ。

 「中国の場合は国内外に悩みを抱えていて政府は国民の不満が政府に向かないように必死だったからその悩みにつけこんだ」

 ラグが分析する。

 「連中はいつも強引だし、アフリカにお金をつぎ込んでいるけどそのうちに飽きて他の土地へ行くさ」

 トゥルグがそっけなく言う。

 「事実、連中は中央アジアで儲かる国へ移りつつある」

 ホセが答える。

 「周永平が言う「一帯一路」構想に海のシルクロード構想。中国船の行く所にカメレオンも現われる。強引でマナーを守らなくて嫌われているのにそいつらもいるからもっと嫌われている」

 アパムが説明する。

 「サブ・サンやカメレオンがいなくなれば元の国際情勢に戻る。中国の嫌われっぷりは変わらないわね」

 カーヴァーがしれっと言う。

 「三十五丁目の官庁街に接近」

 ジャウラーが報告する。

 「敵が多いな」

 ホセが機関砲を連射する。

 トゥグルの二つの光が怪しく紫色に輝く。

 どこからともなくカラスやタカ、ハゲワシ、カモメといった鳥類が群れをなしてやってくるのが見えた。鳥達は躊躇することなくリベルタ兵に襲いかかる。

 「すごいエグいね」

 アパムがしれっと言う。

 「国防省へ突入する」

 ホセは戦車砲に精神を振り向ける。砲弾が発射されバリケードのバスが吹き飛んだ。

 九両の戦闘車両はバスの残骸を押しのけ駐車場に入った。


 同時刻。

 発電所の制御室に飛び込む香川達。

 部屋にいた数十人の男女が振り向く。

 リベルタ兵と一緒に首筋にタトゥがある男女が一〇人いた。

 「カメレオンだぁ!!」

 ギルムが声を上げた。

 カルルは早撃ちガンマンのような銃さばきでリベルタ兵を撃つ。弾道は曲がりリベルタ兵の五人の頭を撃ち抜いた。

 牙を剥いて女がつかみかかる。

 海江田はその腕をねじあげ足払いして転ばせナイフで胸を突き刺した。女は目を剥いて動かなくなる。

 男は片腕を機関砲に変形させて撃つ。赤い光線の間隙を縫うように駆け抜ける香川。

 香川は日本刀を抜いた。その太刀筋は男女には見えなかった。気がついた時は袈裟懸けに斬られコアに穴が開いていた。

 ギルムは制御盤のスイッチを切った。

 制御タービンの出力が落ちていく。

 「このリベルタ兵。頭に何か埋め込まれたわね」

 海江田は死んだリベルタ兵の頭についているヘッドギアを取った。こめかみに接続穴があって何かICチップが見える。

 「こんな高度な医療手術ができる医者はあまりいないわね」

 ベレッタが分析する。

 「まるでTVドラマの「ドクターX大門未知子」の世界だ」

 香川はのぞきながら言う。

 自分には医者の世界は知らないがメスの使い方といい傷の処置といい凄腕だろう。

 「カメレオンはミュータントに戻っても首筋にタトゥがあるんだな」

 リヨンが死んだ男女を見下ろす。

 「船体の光る模様は消せないし、ミュータントに戻っても首筋にタトゥか。東シナ海の中国の油田と日韓の油田プラントで乗っ取った連中がカメレオンだった」

 香川が首筋のタトゥを見ながら説明する。

 「カメレオンに乗っ取られるとそこにいた乗員もあやつり人形にされるの」

 海江田がわりこむ。

 「この死体があればカメレオンがどうやってあやつり人形にするのかプロセスがわかるかもしれない」

 リヨンは言った。


 その頃。国防省ビル

 かわいた銃声が響いていた。

 階段から下の階へ撃たれて落ちていくリベルタ兵達。

 ホセ達。は片腕の機銃で正確に上の階から撃ってくる兵士を撃ち落す。

 カーヴァーの後についてくるアナベル。

 通路にいたリベルタ兵を撃つトゥプラナとラグ。

 国防省の司令室に入る飛び込むホセ達。

 ぺデル、アパム、ジャウラーはそこにいたリベルタ兵数人を撃った。

 リベルタ軍将校が振り向いた。

 「ダーラムね」

 アナベルは口を開いた。

 「アミルとドルグはリベルタ?」

 リーが聞いた。

 「おまえは誰だ?」

 ダーラムが聞いた。

 「北のスパイだ」

 トゥルグが答えた。

 「巨大戦車はフィン達が倒してテレポートアンカーのカメレオンは香川達が倒した」

 ゾルがはっきり言う。

 「サブ・サンから物資をもらったんだろ。おまえは国際指名手配されている」

 ラグが手配書を見せる。

 「そうだよ。なあアナベル。精霊の書を持っているんだね」

 ダーラムの両目が赤く輝いた。

 弓を構えるアナベル。光る矢を放った。

 ダーラムはそれを片腕で受け止める。

 「な・・・」

 絶句するホセ達。

 アナベルはとっさに光る矢を放った。

 壁が揺らいで隠れていた人物が姿を現す。

 異様に白い肌に群青色のスーツ。

 サブ・サンと同じエイリアンだ。

 「私はトマ・イル。アナベル。君の一族はもう終ったんだ」

 ニヤニヤ笑うトマ・イル。

 「あなたのせいで一〇〇〇年前に一族は別れたのね。でもあなたのタイムラインはサブ・サン同様にないわね」

 はっきり言うアナベル。

 なぜそう思うのかわからない。サブ・サン達は大きなタイムラインは見えるが小さいタイムラインは感知できない。それに小さなタイムラインなら何個も潰れていて困っているだろう。

 笑みが消えるトマ・イル。

 ホセ達は身構えた。

 アナベルは物陰に隠れる。

 トマ・イルが動いた。

 ホセ、ラグはすんでの所でトマ・イルのパンチや蹴りをかわす。

 受身をとるアパムとぺデル。

 トゥグルとトゥプラナはその蹴りを受け払った。

 ゾルはそのパンチを受け払い、リーは蹴りを入れたがかわされた。

 「動きが読めない」

 カーヴァーがすんでの所でパンチをかわす。

 たぶんを魔術を使わないで科学の力で時間を操っている。すごい高度な科学だ。

 アナベルは弓を物陰から構える。

 たぶんこの弓のせいかもしれないがトマ・イルの動きが見えるのだ。たぶん次はあの机の位置にいく。なぜそう思ったかわからないが直感である。

 九人のパンチや蹴りをその場で動かないでトマ・イルは受け払った。せつな、腕や背中に光る矢が四本刺さった。

 カーヴァーが片腕を短剣に変えてそばを駆け抜ける。

 「ぐああ・・・」

 トマ・イルは太ももを押さえた。

 すると急激に曇っていた空が晴れて陽の光が差し込み、トマ・イルに当たる。

 「わあああ!!」

 時空フィールドが破れたのか空気に触れた肌は穴が開き、トマ・イルは叫びながら塵となって消えた。

 「本当にここが合わなかったんだ」

 驚きの声を上げるホセ達。

 ダーラムは舌打ちすると動いた。彼はアナベルを羽交い絞めにする。

 「ダーラム。おまえは終わりだ!!」

 ホセは声を荒げる。

 「精霊の書の半分は私が持っている。さっそく仕上げだ」

 ダーラムはもがくアナベルを羽交い絞めにしながら笑う。

 キーン!

 すると窓の外に舞い降りてくるオスプレイ。機関砲が火を吹いた。

 ホセ達は床に伏せた。

 ダーラムは呪文を唱えて宙に浮くと窓から外に飛び出し乗り込んだ。

 オスプレイは飛び去った。



 一時間後。

 発電所に数台の軍用ジープが近づいた。

 車外に出てくるゲイリーとセード。数人のサルイン軍将校が出てくる。

 駆け寄ってくる香川達。

 「基地は奪還した。野戦司令部や野戦陣地も潰しました」

 ホセは報告した。

 「テレポートアンカーのコア部にあったICチップは外しました。全部日本製です」

 香川はゲイリーにチップを渡した。

 「アンカー自体は中国製で内部はロシア製。中枢部は日本製のチップです。たぶんリベルタにあるアンカーもコア部は日本製の中古品か最新の機器です」

 海江田は部品を置いた。

 「奴らは安く抑えるために中国製とロシア製を使ったか。なら勝ち目はある」

 セードがうなづく。

 「カメレオン戦車のコアは破壊しました」

 フィンは答える。

 「電子脳を探り、リベルタ国内にある工場を特定しました」

 エンリコが報告する。

 「傭兵は逃亡。リベルタ兵のほとんどが降伏か逃亡しました」

 ツアーロが報告する。

 「国境へ逃亡しても国境警備兵に捕まるのも時間の問題だ」

 ゲイリーがうなづく。

 「トマ・イルは倒しました。しかしダーラムにアナベル様を拉致されました」

 ホセが報告する。

 「我々、フランス軍も参加する。フランスだけでなく南アフリカとモロッコ、ボツワナ軍から部隊がリベルタに派遣される。リベルタにあるカメレオンの巣と工場を破壊。タワーを破壊してアナベル様を連れ戻します」

 アルミンが提案する。

 「地図はこの北朝鮮のスパイが持っています。工場も発電所もタワーも北朝鮮の労働者が建設しました。二年前にオファーが来て代金も支払ったから建設した。終ったのは一ヶ月前で三週間前に労働者は帰国しました」

 カルルはリーを指をさした。

 「この戦いが終ったら国外追放だ。そしてハーグにある裁判所に送ってやる」

 ゲイリーは睨んだ。

 「それはできないと思うわ。北朝鮮はまた別のスパイを送り込む」

 リーは声を低めた。

 「こいつを連れてリベルタ国内に行くぞ」

 アルミンは声を張り上げる。

 「アゾレス空港の滑走路が使用可能です」

 ツアーロが報告する。

 「では準備でき次第出発だ」

 アルミンは言った。



 リベルタの首都ベーチェ

 首都近郊の基地に着陸するオスプレイ。

 手錠をかけられたアナベルと一緒にダーラムが出てくる。

 駆け寄ってくるリベルタ軍将校。

 「アミル、ドルグ。敵が来る。迎撃だ」

 ダーラムは声を荒げる。

 「了解」

 ドルグは答えると部下達に指示を出す。

 「フレイはどこだ?」

 ダーラムが聞いた。

 「彼は中央アフリカに武器を調達しに行くと言って国外へ出ました」

 アミルが答える。

 「しょせんは武器商人か。まあいいさ。ストーンサークルへ行くぞ」

 ダーラムは部下に指示を出した。彼はアナベルの腕をつかんで再びオスプレイに乗る。

 上昇して飛ぶオスプレイ。

 窓からのぞくアナベル。

 首都といっても低層ビルが林立している。そんな背の高いビルはない。粗末な小屋が多いスラム街が広がる。

 「ダーラム。あなた政治家失格ね」

 アナベルははっきり指摘した。

 「利用するものは利用する。適材適所だよ」

 肩をすくめるダーラム。

 「そういうのは適材適所なんて言わない。あなたは捨てただけ」

 「ガキが黙れよ」

 「トマ・イルは死んだわよ。この世界で生きられないエイリアンと組んでどうするつもりだった?」

 アナベルは核心にせまる。

 無視するダーラム。

 アナベルは窓の外を見た。

 ストーンサークルがある方向に大きな工場と研究施設が建っているのが見えた。

 「トマ・イルの口車に乗って時空の揺らぎを造る施設を造ったんだ」

 アナベルが気づく。

 たぶん発電所でエネルギーを造りだし工場に魔鉱石を使った時空の揺らぎを造れる施設で研究所は司令室がある。映画「ターミネーター」で見たが、最新作ではシュワルツネッガー扮するT800はサラ・コナーと一緒に活動していてレジスタンスのカイルがタイムスリップしてきた時に助けられ、サイバーダインとの戦いに巻き込まれるのである。サイバーダインはすでに電磁場のある研究施設を建設したが最新型ターミネーターが襲ってくるというストーリーだった。

 無言のままのダーラム。

 「あなた自分が何をやっているのかわかっているの?ターミネーターのスカイネットと同じ事をやっているのよ」

 アナベルは目を吊り上げる。

 「それがどうした。我々の一族の家訓は「利用できるものは利用する」だ」

 ダーラムは言い捨てた。




 同時刻。

 リベルタ領空に入る一〇機の戦闘機。

 ツアーロ、マドレス、ライエン以外は南アフリカ軍とナイジェリア軍の戦闘機である。全員コクピットに二つの光が灯っている。

 国境の山々を越えるとエッフェル塔や東京タワーに似たタワーが何棟も見えた。

 「あのスパイが言ったとおりだな」

 ライエンが指摘する。

 あのスパイはウソは言ってなかった。

 「あのタワーに向かって撃て」

 マドレスが指示を出す。

 一〇機の戦闘機はミサイルを発射。正確にタワーの足元で爆発した。基礎と柱から火花が散り、傾いて轟音をたてて倒れた。

 「二時方向から敵機接近」

 ツアーロが報告する。

 全機が散開する。

 「ミグ21とミグ23だ。普通の戦闘機だ。どうやらミュータントはいないらしい」

 ライエンが気配に気づいた。

 「そこまでは集められなかったのね」

 マドレスは敵機の後ろにつくとミサイルを発射。撃墜した。

 「米軍は結局参加しないですね。無線を聞いているハズなのに」

 ツアーロはバルカン砲で敵機を撃墜する。

 「アメリカは自分に危険が及ばないと見向きもしない」

 ライエンは急に減速。敵機の後ろにつくとミサイルを発射。撃墜した。

 「スレイグは元違法なハンターで若い時は古代遺物を収集していた。南太平洋の異変でも特命チームを米軍を使って追跡していた」

 マドレスが説明する。

 「じゃあこの戦いが終ってパンサーアイが具体的に活動すれば米軍を使って追いまわすのでしょうか?」

 ツアーロが疑問をぶつける。

 「その時は追い返すしかない」

 ライエンが言う。

 「敵機全機撃墜」

 ナイジェリア軍の戦闘機のミュータントが報告する。

 「首都ベージェ基地を空爆したらカメレオンの巣がある基地を攻撃だ」

 ライエンが地図を目配せしながら言った。


 同じ頃。輸送機。

 「ライエンのチームからの報告でウオーデンクリフタワーは八基破壊成功です」

 フランス人兵士が報告する。

 機内にいた香川が振り向く。

 カルル、フラム、ボンゴ、海江田、ベレッタ、リヨンが地図をのぞく。

 「客船と戦闘艦のミュータントは二機目の輸送機に乗っているのね」

 カルルは窓からのぞく。

 「あの女スパイによるとベージェのストーンサークルに大規模な施設を建設を頼まれたらしい。それによると電磁場を作り出す施設で魔鉱石を使った発電ですね」

 フラムが図面に首をかしげる。

 「時空の揺らぎを一時的に造りだす装置だよ。スイッチは「精霊の書」で量子コンピュータを円陣に組んで、発電所がそばにあるのはそのエネルギーを電磁場に変換するため。コア部は日本製の製品だと思う」

 フィンは説明する。

 「日本製の製品はすごく性能がよくて中古でも性能がよく長持ちするからアフリカじゃあ重宝されているの」

 カルルが腕を組む。

 「中古は安いけど新品は高値だ」

 エンリコがわりこむ。

 「ビックガンは三機目にいるの?」

 海江田が聞いた。

 うなづくエンリコ。

 「戦車と装甲車のミュータントは四機目ですね。ナイジェリアと南アフリカ軍の特殊部隊と一緒にカメレオンの巣があると思われる工場をビックガンと一緒に破壊ですね」

 ボンゴが聞いた。

 「巣をなんとかしないとアフリカ大陸はあっという間に乗っ取られる」

 香川がうなづく。

 「それにしても粗末な小屋が多いですね」

 フラムが疑問をぶつける。

 「地方都市は発展していない。それが首都であってもスラム街がそばにある。ダーラムは住民はほっといて自分の野望を実現させようと優先した」

 リーが答える。

 「それをおまえが助長したんだ」

 しれっと言う香川。

 窓の外を見ると三機目と四機目の輸送機が別れるのが見えた。

 「間もなくベージェ郊外にある研究施設上空です」

 機内アナウンスが入った。

 パラシュートを背負う香川達。

 後部ハッチが開いて香川達は飛び降りた。



 オスプレイは駐車場に着陸するとダーラムはアナベルの腕をつかんで研究所に入った。

 受付を抜けて長い廊下を進む二人。

 通り過ぎるリベルタ人関係者はヘッドギアをつけられ目が虚ろである。研究者と一緒にいるのは首筋にタトゥがある男女達だ。誰だかわかる。カメレオンだ。

 別棟の工場に入る二人。

 東京ドームのようなドームでハップル天文台のように天井が開閉式である。真ん中に電磁場を作り出す装置が鎮座している。量子コンピュータが円陣に組まれる真ん中に電磁場を作り出す大型機器がある。壁にもベルトコンベヤーや大型機械が並ぶ。

 ダーラムはアナベルのバックから半分の精霊の書を取り出し、自分のアタっシュケースから半分の精霊の書を出した。

 「発電開始します」

 館内アナウンスが入った。

 ヴィーン。キーン!

 甲高い音が響いて電磁場に稲妻が放電を始めいくつかのアームが回り始めた。

 ダーラムは精霊の書をくっつけた。精霊の書が宙に浮いて稲妻を伴いながら修復されて分厚い本に戻った。

 「自分で何をやっているのかわかっているの?」

 アナベルはダーラムに飛びついた。

 ダーラムは腕をつかみ押しのけた。

 床にひっくりかえるアナベル。

 「カメレオンの部隊を呼ぶ。そしてビジネスをクイーンとするんだ」

 ダーラムは笑みを浮かべる。

 天井が開いて赤い光線が空に向かって放出された。

 その時である。どこかで爆発音が響いた。

 アームの回転数が落ちて光線がやんだ。

 「どうした?」

 ダーラムが叫んだ。

 「敵襲です!!」

 職員がライフル銃を手に持って叫ぶ。

 かわいた銃声が響いた。

 

 

 同時刻。

 三個のパラシュートを開いた大型装甲車が地面に着地する。それに続いて九人の男女の兵士達が着地した。

 ホセ達は緑色の蛍光に包まれて戦車と装甲車に変身する。

 大型装甲車の蛍光に包まれて十八輪の装甲タイヤがある砲台に変身する。

 工場から飛び出す戦車と装甲車。車体に光る模様がある。カメレオンである。

 「撃てぇ!!」

 ホセが叫んだ。

 ビックガンが変身する砲台から青白い太い光線が放出された。

 ドドーン!!ゴゴ・・!!

 火柱が何度も上がり爆発音が響く。

 正面にいた光る模様をつけた戦車が何両も吹き飛んだ。

 周辺の緑地にパラシュート降下する特殊部隊の兵士達。

 迫撃砲が敵装甲車に命中する。

 残骸を押しのけるホセ達。

 ぺデルとホセは戦車砲を発射。光る模様をつけた装甲車を吹き飛ばす。

 工場内部に入るホセ達。

 作業用バルコニーにいた首筋にタトゥのある兵士達を撃つ特殊部隊隊員達。

 奥の扉から飛び出す男女達。

 機関銃を連射するホセ達。

 撃たれバルコニーから何人も兵士が落ちていく。

 格納庫から飛び出す光る模様をつけた戦車と装甲車。

 ビックガンは格納してある迫撃砲を何基も出すと次々に発射。正確に光る模様をつけた戦車と装甲車に青い光弾が命中した。

 ホセは戦車砲を発射。ドアが吹き飛び内部があらわになる。

 「金属卵だ」

 「孵化場だったんだ」

 ホセ達が声をそろえる。

 陳列棚にズラリと並ぶ直系一メートルのメタリックに輝く卵。壁には大型の機械が並び温度は均一に保たれている。二重構造の壁が見えていた。

 「あの構造だと真空に近いわ。NASAの訓練場に近い構造よ」

 カーヴァーが指摘する。

 「巨大戦車がクイーンだったというのを見ると他にクイーンはいない」

 ジャウラーがわりこむ。

 「なら吹き飛ばすまで」

 ホセは元のミュータントに戻った。

 カーヴァー達もミュータントに戻って特殊部隊の隊員達と一緒にバックから爆弾を出す。

 孵化場に入って柱や大型機械、棚に爆弾をくっつけた。

 ホセ達と隊員達は工場から飛び出した。

 背後で爆発音が連続で響いた。



 同じ頃。

 香川は日本刀を抜いた。その太刀筋は職員達には見えなかった。五人の職員は袈裟懸けに斬られ倒れた。

 カルルはバルコニーにいた職員を撃つ。撃たれ職員達は落ちていく。

 イレーヌ、イザベラ、ベノワは精霊の書に大股で近づき掌底を向けた。

 ダーラムは身構え両方の掌底を向ける。四人の周囲に強風が巻き起こり精霊の書から稲妻が放出される。

 予備電源があるのか再び電磁場に稲妻が走ってアームが回転を始めた。

 フラムと海江田はバックから爆弾を出して大型機械にくっつける。

 ボンゴは槍を身構えると首筋にタトゥのある女を突き刺した。

 フラムは腕をつかまれタトゥのある男に投げ飛ばされ床に投げ出された。

 男は馬乗りになると腕を振り上げた。せつな刃が背中から胸に貫通する。男は目を剥いて倒れた。

 その背後にパブロが立っている。

 カルメンやコリント、マービンといったミュータント達がタトゥのある男女と応戦しているのが見えた。

 海江田はスイッチを入れた。火花が散り大型機械が四散した。接続プラグも切断されたのか上空に伸びる赤い光線がやんだ。

 ダーラムの両目が赤く輝き頭から雄牛のような角が生え、皮膚の色が灰色に変わり、背丈も三メートルに伸び、筋骨隆々の体になり鎧に覆われる。

 「エイリアンだ!!」

 フラムとカルルが驚く。

 閃光とともに四人は爆風に吹き飛ばされ壁にたたきつけられた。

 「鍵穴だ」

 アナベルがあっと声を上げた。次の瞬間には駆け出していた。

 なぜかわからない。直感で自分ならまた半分になると思っただけ。

 香川も走り出す。

 「何をやる?」

 「王家の鍵を差し込むだけ」

 アナベルが答える。

 「わかった」

 香川は飛びかかってきたタトゥのある男を日本刀で切り捨てアナベルを抱えてテーブルを蹴りつかみかかってきたタトゥの女の頭を踏み台にしてジャンプ。

 ダーラムも跳ね起きてジャンプして手を伸ばした。

 アナベルは王家の鍵を出して精霊の書の表紙の鍵穴に差し込んだ。

 精霊の書の周辺に浮かんでいた割れ目が消えていき、強風も稲妻がやんだ。

 続いての閃光と爆発。

 香川はとっさにアナベルをかばう。

 爆風にフラム達は吹き飛ばされた。

 散らかるテーブルとイスを押しのけるカルル達。

 瓦礫をかきわけ柱をどかすパブロ。

 瓦礫をどけて這い出してくるイザベラ、イレーヌ、ベノワ。

 海江田やパブロ達も出てくる。

 「地球人め」

 ダーラムは梁をどかした。

 香川は頭を押さえ起きた。

 アナベルも目を覚ます。

 床に半分に分かれた精霊の書があった。

 「精霊の書が・・・」

 そこには人間姿のダーラムはいない。赤く輝く両目で角を生やし、灰色の肌の身長三メートルの鎧を着用した筋骨隆々のエイリアンがいるだけだ。

 「ダーラムおまえエイリアンだったんだ」

 香川や海江田は身構えた。

 「よくもビジネスを邪魔したな。クイーンと商談をしようとしたのに台無しだ」

 虚空からバトルアックスを出すダーラム。大きな斧は二メートルある武器だ。

 ダーラムが動いた。

 香川は日本刀で斧を弾き、蹴りをイザベラは受け払い尻尾をイレーヌはかわした。

 ダーラムは両目から赤い光線を発射。

 海江田とフラムは飛び退く。

 ダーラムは両目から光線を再び発射。

 パブロは呪文を唱えた。半透明なバリアによって弾かれた。

 ダーラムは大斧を振り下ろす。せつな衝撃波が広がる。

 コリントとカルメン、マービン達は飛び退きかわす。

 アナベルは弓を構えると矢を放った。光る四本の矢はダーラムの腕や背中に命中した。

 くぐくもった声を上げるダーラム。

 とっさに斧をもった腕を斬りおとす香川。

 のけぞるダーラム。

 「ダーラム。時空管理局があなたを見つけたみたいよ」

 アナベルはビシッと指をさした。

 「バカな!!」

 ひどく驚くダーラム。

 「王家の弓はいわば目印になっているし、さっきは時空の揺らぎを発生させたから時空管理局があなたを連れて行くわ」

 アナベルは目を吊り上げる。

 「そんなハズはない。痕跡は消した」

 ダーラムが動いた。

 アナベルの目の前に現われた。

 フランコの飛び蹴り。それを受け払うダーラム。彼は逃げ出すアナベルの足に触手を巻きつけた。

 「嫌!!」

 もがくアナベル。

 イザベルはそこの消化栓を開けてと一緒に入っていた斧を振り下ろした。彼女はアナベルを抱えて飛び退いた。

 すると虚空から稲妻とともに時空の割れ目が出現。ダーラムにワイヤーが巻きついた。

 「バカなああぁ!!」

 ダーラムはその割れ目に吸い込まれ、時空の割れ目は消滅した。



 

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