年末年始

年末年始

　急に離島に行こうなどといわれても困る。この繁忙期にチケットがあるのかもわからないし、船や飛行機などの移動手段が思い立った時点でないこともある。その島は現在のところ浜岡市に属し、日本海に位置する。浜岡氏とは架空の地方公共団体であり、その島は架空である。その島に行くには基本的には船を利用する。新開―浜岡フェリーという。新開―浜岡フェリーは一週間に４往復する。物資なども運ばれるが貨物用の船の便も営業。このタイミングで大しけなどが起こると島民の生活に深刻な悪影響が出る。

　この時期は特に日照時間が少なく、雷なども多い。近くに石炭火力発電所があり、東日本大震災の際には積極的に活用され近隣の大消費地に電力を供給した。とはいえ、この島には16の寺があり、うち11において、後継者の不在などの経営上の深刻な問題が発生している。他に、宗教施設としては12の神社と１のモスク、１のシナゴーグ、１のアルメニア正教の教会、１のギリシア正教の教会、などがあるが、モスクに関しては、住民の宗派の数に対して数が足りないことなどから、現在増設が検討されている。なお、神社のうち２つは後継者不在のため、来年３月をもって閉鎖となる。県外にまで募集したが、有資格者が全国各地で不足している上、不便な離島であるとのことから、希望する人間もおらず、閉鎖される。なお、これらの神社の管理する墓地などは近隣の神社か寺へ引き継がれることが今年度５月に決定しており、市民生活にも密接にかかわる事態であることから、市の広報などでも盛んに取り扱われた。なお、現在この浜岡氏（架空）では、寺社の後継者不足に関して、自治体としても対処を支援する方針をとっており、住民の宗教生活を支える観点からも、積極的な寺社の後継者の誘致が行われ、今年の７月と11月には市民会館（分館）での説明会が行われた。

　これらの寺社の中で、歳末名物の除夜の鐘の演奏を行うのは、８の寺である。残りは、つきてがいないなどの理由から行わないが、２つの寺では、宗派の教義上の理由で鐘をつかない。なお、お勧めは八坂神社で、別に除夜の鐘はつかないが、初もうでに人気が高く、市外からもわざわざフェリーで訪れる人がいるほどで、特に縁切りと学業成就にご利益があるとされ、フェリーは毎年年始に初もうで臨時便を運航させている。

　そんな離島の事情とは何ら関係なく、私はお雑煮を作ろうとしているが、まるでそれに関心がないので、作成が難航している。さしあたり、塩とドライトマトを混ぜ合わせるところまではできたが、そこに加える月曜日の朝の光の解凍に時間がかかっており、しかも解凍は秋水での自然解凍が望ましいとのことから、鬱陶しいことこの上なく、そもそもお雑煮にまるで関心がないので、作っても多分絶対に食べない。だからといって、別に民生委員でもないし、そもそも近所付き合いが希薄どころか皆無なので、周囲の人間は、早煮新聞が溜まっていることから私の死亡を疑う、などまずしないし、そもそも、新聞をとっていない。いやそもそも、郵便物を頻繁に回収する習癖がないから常に生きているか死んでいるかわからないし、だからお雑煮を作る必要もまるでないと思う、というのは、お雑煮というのは年始に、今年も死なないで迎えられたことを死神に感謝する行事だが、私は常に自分の存命が不確かだからだ。

　とはいうものの、先ほどまで何の関心もなく見ていた映画の中でゲオルクはワシーリーの離断した頭部を掴んで即座に後続のフョードルに投げつけるとフョードルはすぐさま鋭い口笛を吹いてカザマとアルフレッドを呼び寄せその鉄の塊に素早くくさびを打ち込み瞬く間に機能停止させたが今度は昆虫のような肉食獣がその鉄の塊の隙間から見る間に５，６体湧き出してきて彼らに襲い掛かり、健闘していたカザマが無残にも肝臓をむさぼられながら犠牲になったのだが、その首を背後からアルフレッドが巧みに切り落としたのでゲオルクは他の２体に集中することができたのだが、今度は路線自体がかねてよりの熱波で緩んでいたことから非常に足場が悪くなってきており、その場に駆け付けたミハイルが近寄れない程だったのだが、そこに現れたサミュエルが慌てて重油を辺りに撒き散らして火を点けたためにその辺にいた生物はそのえたいのしれない肉食獣もろとも一斉に犠牲になり、加えて倍加した熱で路線がとうとう途絶して崩れ落ちたのだが、それを見ていたサミュエルもまたこの事態の余りの混乱ぶりに気が狂いそうであり、警察に通報することも忘れてよく焼けたゲオルクを貪り食い始めたのだが、それはゲオルクが彼の親友だったためにどこにドッグタグを埋め込んでいるのかがわからなかった為であり、その上でサミュエルは慌ててフョードルとアルフレッドの焼死体から左手と切り取ると背嚢から金属製の箱を取り出してその中に左手を収め、そうこうしているうちに私はもちをのどに詰まらせたので救急車を呼ぶこともできずにお雑煮による窒息で死亡した。