10. 元日は兄と

 お兄ちゃんが部屋を出た後、私は振袖ふりそでを脱いで私服を着てから家族全員でおせち料理を食べていた。

 私の家では何故かおせちを元日の昼に食べる。たぶん朝はお雑煮ぞうにというのが定着してしまったからだと思う。

 今はかなり気分が良い。家族で食事をしていて温かみを感じられるということもあるけれど、さっきお兄ちゃんに告白されたというのがかなり大きい。

 お兄ちゃんに私のみっともないところを見られたけれど、大好きなお兄ちゃんに好きだって言われて私はそんなのどうでも良くなってしまった。

 今まで私は自分に自信が無かったから、お兄ちゃんに好かれようと可愛らしく振る舞ってきた。何せお兄ちゃんは口数が少ないし、表情もとぼしいから何を考えているのかよくわからないし。

 だから、お兄ちゃんが私のことをどう思っているかなんて正直わからなかった。お兄ちゃんも男子だから、可愛く振る舞ったら可愛いと思ってくれるとは思っていたけれど、正直それ以外で私のことをどう思っているかなんて見当もつかなかった。

 そういう訳で、お兄ちゃんに好きって言われた時はかなり嬉しかった。だって、両想いだってことを知ることができたから。

 お兄ちゃんは何を考えているのかよくわからないけれど、私が少し意地悪になるとすぐ照れて可愛い。そういうところが私は結構好きだ。

 今日はお兄ちゃんに「無理してないか?」ってかれて今までの私が可愛くなかったんじゃないか、と不安になってお兄ちゃんにひどいことを言ってしまった。けれど、それでもお兄ちゃんに好きって言って貰えた。

 大好きな人に好きって言われたのは初めてだから、もう幸せ過ぎて自分でもこの気持ちを的確に言い表せない。

 あの瞬間に、お互いの気持ちがわかるということの幸せを、私は初めて知った。


 ◇ ◇ ◇


 昼食後、私はお兄ちゃんの部屋を訪れ、ベッドに並んで座っていた。

 お兄ちゃんの部屋はかなり整理整頓されていていつも綺麗なので、私が掃除をしたことは無い。一度くらい掃除をしてアレな本やアレなゲームの箱を見つけてやろうと思っているのに、そのチャンスが巡ってこないかもしれない。けれど、いつかは必ず見つけてみせます!

「で、何の用だ?」

 いつも通りお兄ちゃんは無表情で私に尋ねてくる。

「いや~、特に用は無いんだけどね?」

 私は自分らしくにこやかに答える。好きな人の前では可愛く振る舞いたいと思うから。

「やっぱり、お兄ちゃんと一緒に居たいな~と」

 好きな人と一緒に居たい。それが今の私の気持ちだった。

「…そうか」

 折角、好きな人が隣に居るというのにお兄ちゃんは私に冷たい。もしかしたら照れているのかもしれないけれど、少しくらい温かく接してくれても良いじゃない。

 そのまま静かな時が過ぎる。いつもなら私が何かを言うから二人の時に無言になることはあまり無いけれど、両想いだってわかった今、余計にお兄ちゃんのことを意識してしまう。私はいつもお兄ちゃんとどう接していたのだろう。

 けれど、両想いだからこそ私がお兄ちゃんにしてあげられることがある。

 そう思い、私はお兄ちゃんのほおに優しくキスをした。

 それから私はお兄ちゃんに最高の笑顔で自分の気持ちを伝えた。

「お兄ちゃん、大好き」

 お兄ちゃんは驚いている。私は照れくさいけれど、笑顔を崩さない。

「そ、そうか…」

 お兄ちゃんは私から目を逸らす。たぶん照れているのだと思う。私はそんなお兄ちゃんも可愛くて好きだ。

 お兄ちゃんは何を考えているのかわからないけれど、私はお兄ちゃんが好きだ。

 私は気付いたらお兄ちゃんのことが好きだった。どこにかれたのかはわからない。

 けれど、私がお兄ちゃんが好きだという事実は変わらない。

 やっぱり私はしばらくお兄ちゃんから離れられそうに無い。

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年末年始は妹と 雪竹葵 @Aoi_Yukitake

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