年末年始は妹と

雪竹葵

第1章 大晦日

1. 大晦日の朝に

 12月31日。ぞくに言う大晦日。

 今朝の新聞によると、今日の天候は晴れ後曇り、予想最高気温は1度、降水確率は30パーセントだそうだ。折角の大晦日だというのに、何とも中途半端な天気である。

 別に俺が新聞の天気欄をチェックしたのは単なる気まぐれで、今日は外出する予定は無い。というか外出したくない。

 外は既に雪が数十センチ程度積もっているし、予想最高気温からも明らかなように結構寒い。

 それもそのはずで、ここは日本の最北端の都道府県にして日本で最大の面積を持つ都道府県、北海道だからだ。

 この他にも北海道は都道府県別魅力度ランキングでトップだったり、あらゆる農作物の生産量がトップだったりと、意外にもトップが結構多い都道府県だったりする。

 そして北海道は、冬場の室内平均気温が最も高い都道府県でもある。つまり、室内にいる限りは暖房がかなり効いているためぬくぬくできる。

 だから今日は絶対に外に出ない。俺は部屋でぬくぬくしてやる。

 そう思い、リビングのソファに腰掛けてテレビをけた瞬間だった。

「お、に、い、ちゃ、ん」

「な、ん、で、す、か」

 我が妹、結野ゆいの知咲ちさがピョンピョンしながら近づいてきて、俺の隣へと座った。何だお前、その動き可愛いな。

 ちなみに俺の名前は結野篤希あつき。親が再婚したとかそういう話は聞いたことが無いので、俺たちは血の繋がった兄妹だと思う。

「ねえ、折角の大晦日だからどこかに出掛けようよ」

「ねえ、折角の大晦日だから家でぬくぬくしようぜ」

 俺は既に心に決めている。今日は絶対に外に出ないと。

「むぅ」

 わざとらしく頬を膨らませる知咲。一々仕草が可愛いから非常に反応に困る。

「シスコンのお兄ちゃんのことだから、可愛い可愛い妹のお願い事は聞いてくれると思ったのにな~」

 絶妙な上目遣いで俺を見るな、可愛いと思っちゃうだろ。いや、もう十分可愛いけど。

「お兄ちゃん、赤くなってるけどどうしたの?」

 知咲はそんなことをいてくるが、明らかに心配しているのでは無いとわかる。何故ならば、知咲の表情が笑っているからだ。

 つまり、俺は完全に知咲の掌の上で転がされている…。

「やっぱりお兄ちゃんは可愛い妹とお出掛けしたいから顔が赤くなったんでしょ!」

 どういう理屈だ、それは。顔が赤くなることと出掛けたいという気持ちに何の因果関係があるというのか。

「俺は今日は外に出たくないんだよ。いくら知咲がか、可愛くたってもう決めたことだから」

「私のこと可愛いと思ってるのは事実なんだ、ふーん」

 恥ずかしいからそういうことを繰り返さないで頂きたい。まあ、知咲が可愛いのは事実なのだが。

「だったら、出掛けたら可愛い妹との思い出ができるとは考えないの?」

「うっ」

 なかなか鋭いところを突いてきた。

 確かに知咲と出掛けたら、事実上もうそれはデートなのではないだろうか。知咲とより仲良くできるチャンスかもしれない。

 しかし、やはり外に出るのは寒いから極力避けたい。この時期の寒さは最早寒いというより痛いという領域に近いものだからな。

 どちらが俺にとってより良い選択肢なのだろうか。

 俺が頭を悩ませていると、知咲の悪魔の一言が俺の耳元でささやかれた。

「お兄ちゃんが一緒に出掛けてくれたら、私が何でも一つお願い事を聞いてあげる」

「はい、行きます!」

 囁かれた直後、俺は反射的に返事をした。だって、可愛い妹に何でもお願い事を聞いてあげる、なんて言われてしまうとそれを拒否する理由は無いだろう?

 一瞬、知咲とアレなことができるんじゃないかと期待してしまったことは否定しない。しかし、知咲は大事な存在だからそんなことは当然するつもりは無いが。

 それでも俺の願いを聞いてくれるチャンスなのだから、このチャンスを逃してしまうのは惜しい。

 俺の返事を聞いた知咲は「やったー!」とピョンピョンしながら喜んでいた。相変わらず可愛い。

 そんな様子の知咲を見ながら俺は思う。大晦日くらい妹と出掛けてもばちは当たらないだろう、と。

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