エピローグのようなもの

 そして、サン◯リ当日。

 紅坂朱音、初の即売会デビューはもちろん島中配置。

 その画力と構成力と作品に対する情熱は、『え?なんでこんな化物が島中配置なの?』周りのサークルから思われるぐらいで。

 無名だから、誰にも把握されてないから、人が来るはずもない。

 そして、彼女の本を手に取った、ある人物の目に止まって……。


「あの……私、六星社で編集をしております羽木と申しまして……。恐れ入りますが、紅坂朱音様は……いらっしゃいますでしょうか?」

「あの、紅坂朱音は私ですが……」


 当時は、弱小出版社の六星社の編集者に声をかけられたことで、茜の世界は一変していき……。

 これから紅坂朱音に波瀾万丈の日々が訪れ、大切な『仲間』を失うわけだけれど、それはまたどこかで。


       ※ ※ ※


「縁起でもないことを言わないでください」


 千歳はアニメーション事業部に戻ると、山科部長に事の成り行きを報告した。

 ほんとに縁起でもなかった。

 アニメ化で、彼女たち三人の関係を壊す訳にはいかない。

 紅坂朱音が、初めてのアニメ化で自分の仲間を失ったように。


 ただ、二人は紅坂朱音と共に歩むことはない。

 不本意なアニメ化によって変わってしまった紅坂朱音についていけないだけだった。


 町田苑子は、紅坂朱音本人とその方向性に。

 竹下千歳は、大切な仲間を一変させたアニメ業界に。


 千歳は、紅坂朱音の使い勝手のいい手駒だからというわけじゃない。

 話がわかる相手だからというだけじゃない。

 優秀なアニメプロデューサーといわけでもない。

 これは千歳が、紅坂朱音のようなもう二度と、茜を朱音にはさせないための仲介役。


 もうあの時の『仲間』失いたくはない。

 創作の化身になってしまったことに。

 クリエイターだけの幸せを望むなんてことは、ないように……。


 それは、『純ヘク』を手掛けるどこかの誰かと全く一緒の考えかただった。

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