「父さん」と「倒産」って、駄洒落(笑)……とニヤけながら読み始めたら、とんでもない怪作でした。阿鼻叫喚の衝撃展開、戦慄のホラー。
一話目からもうヤバい。この「父さん」、相当な危険人物だとわかります。まぁ、思わずツッコミ入れながらも、まだ笑って読めるんですよ。初めのうちは。
でもね……話が進むごとに、ヤバさがどんどんスケールアップしていくんです。
こんな人、いるわけない。でも……案外いたりして。いや、結構いるかも………? と思わせる嫌〜なリアリティ。ぞわぞわする薄気味悪さが蓄積していき、震えがくるほどの恐ろしさ。
おそらく皆さま、無理難題に四苦八苦する主人公を応援しながら読み進む筈です。しかし徐々に声援は「頑張れ」から「負けるな!」、そして「もういい、逃げろ!」、最後には「神様、たすけて!」という悲鳴にも似た祈りへと変わっていくことでしょう。
祈りの先に待っているのは、救いか、或いは絶望か……
衝撃の結末を(マジで衝撃です)、そして「父さん」の恐怖を、存分に味わっていただきたい。
家庭の事情で、アメリカに留学していた主人公・譲は、急遽日本の企業に入社することになった。
そこで出会った、一ヶ月だけ先輩の杉浦。
譲が心中「父さん」と呼び続ける杉浦は、先輩風を吹かせてあれこれ指示を出してくるが、その内容が、どこかおかしい…?
ここまで露骨じゃなくても、たまにいますよね、こういう困った社会人。
……そう思っていた時期が、私にもありました。
そのうちに杉浦の「やらかし」は歯止めがきかなくなってくる。譲は翻弄されまくる。
粉骨砕身、会社のために働き続けるも、その先に待ち受ける運命は残酷なものだった…
じわじわと、徐々に。杉浦の常人ならざる人間性が浮かび上がってきます。
その様に、読者は譲と共に驚愕し、世の不条理を嘆き、心底震え上がります。
これは、カクヨムで最も残酷な「お仕事小説」かもしれません。
ジャンルはホラーでもいいかもしれません。
あなたもきっと、一度読み出すと読む手が止まらなくなり、あっという間に「父さん」が生み出す巨大な渦に飲み込まれてしまうことでしょう。
すべての読者の心をつかんで離さない、圧倒的な魔力を放つ作品です。(現代ドラマだけど)
「怖い作品」をお探しなら、ぜひ!
「父さん」が、決して損はさせません……!
社会派企業小説のジャンルへ入るものの、内容としては或るサイコパスの物語、と言っても過言ではないと思います。理不尽極まりない言動にすべからく正当性をつけ、「それは通じないだろう」ということを全力で押し通す。これほどまでに読者に殺意を抱かせるキャラクターはなかなか存在しないのではないでしょうか。それぐらい「父さん」は最強最悪です。
あの手この手で会社を倒産させる手腕はお見事ですが、なぜその能力を仕事で使えないのか。才能がマイナスへしか向かないのがある意味勿体ない。
でも一番恐ろしいのは、こういった類の人間がおそらく世の中に一定数存在する、ということでしょう。
あなたの後ろにも「父さん」がいるかも知れません……。