seek at dogs

@shirokazu

seek at dogs

0 ~ideal~


 気がついた。

 気を失った覚えは無い。

 座っている。

 今自分はどこかに。

 自分で分からないのか?

 確かめてみる努力をする。

 案外簡単に分かった。

 なんだ、普通に椅子だ。

 前には机がある。

 会議の時とかにある長いものに近い。

 …そうだ、自分は確か。

 学校に来ていたんだ。

 そうはっきりと意識が戻ったとき、講義の終了を告げる音が耳にとどいた。

 いつのまにか眠っていたのだろうか。講義を受けていたことさえ覚えていない。

 そんな自分に男が一人近づいてきた。

「なんだよ、寝てたのか?全く、成績優秀者は余裕だねぇ」

 男は自分の友人。名前は知らない。

「まぁいいや。いつもの事だ。そうだ、これから町行かねぇか?遊び行こうぜ」

 笑いながら語り掛けてくる。そんなお願い、断る理由なんかない。連れて行ってくれるなら大歓迎だ。

「悪い。今日は先約がいるんだ」

 でも、今日はダメだ。断る理由があるから。

「くそ、先を越されていたか!あ、じゃ俺も連れてってくれ」

 男はそう言って笑う愉快な男だ。こいつと遊ぶのは楽しいだろう。

「悪い。今日の先約は仲間内じゃなくて、女性だから」

 手早く荷物を鞄にしまう。

 男はポカン、と何が起こったか分からないような顔をしている。

「女性と…って…お前まさか…!」

「じゃな。今日のことは明日にでも事細かに話してやんよ」

 勝利の笑みを浮かべ自分は男に手を振り教室を出る。

 男が騒いでいたのが聞こえた。

 ぼんやりし過ぎたか。

 早歩きとも駆け足とも違う速度で外を目指す。

 校門が見えてきた。

 大きくなってくる。

 良かった。まだ来ていなかったようだ。

 後数歩で校門を抜ける。

 そこに。

「遅いよ!すぐ出てくる、って言ってたじゃん!」

 死角から飛んできた女の声。

 驚きを隠さず声の方に目を向ける。

 そこには拗ねている自分の彼女。

 顔は良く見えない。

 名前も知らない。

「遅刻だよ!これはもう大犯罪だよ!」

 2分の遅刻は罪だった。

「愉快な仲間達を追っ払うのに必死だったんだ。2分の遅刻ですんだなら大殊勲だろ」

「あー!開きなおってる!私怒ってるんだからね!」

 顔は良く見えないが、こんなかわいい怒り方なら歓迎会を開きたいくらいだ。

「悪い悪い。お詫びに何かおごるから許してくれよ」

 女はむっと自分を上目遣いで睨む。

「それで許すと思ってるの!?」

「思ってるよ。顔にそう書いてあるから」

「え!?」

 女は顔を手で隠す。

 途端、はっとしたかと思うと、怒りの演技は続行不能と思ったのかあははと笑いだした。

「当たり。高っかいものおごらせてやるんだから!」

 何をおごらされるんだ。

「上限は5千円だぞ」

「え、そんなにおごってくれるの!?やった!」

 あ、しまった。と思ってももう遅い。女は自分の手を引きさっさと行こうとしている。しょうがないな、と諦め歩き出すことにした。

 そんな平和な日常。

 昨日と同じ。

 明日も同じ。

 ずっと変わらぬ、ただそこにあることも忘れるような平和な大学生活。

 そんなただの生活を、第三者の目で見ている‘俺’は、その自分を。

 本当に。

 素直に。

 迷うことなく。

 ただ。

 羨ましい、と思った。

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