5 ~epilogue~
健介と別れてから早くも3日が経過した。現在ルーとローレンは大きなお屋敷の正門から出てきているところだった。
「じゃあねウォーフデリーさん。この極東の島で暮すならしっかり身を収められる場所をちゃんと作ってよ?じゃないと私また迷っちゃうからね」
ルーの言葉に、門の内側に立っている白髪の若いコートの男は笑いを洩らした。
「はは、年下なのに俺の心配か?100年間ずーっと変化ないなアンタは」
「魔法使いは一応人間なんです~。あんたみたいな寿命がない超越種とは違うんだからすぐには変わらないよ」
ふんだ、とそっぽを向くルー。ローレンが大人気ないな、という目を向けているのがひしひしと伝わってくる。
「はっはっは。歳とったら自分を若く複製して寿命延ばしてる人間のセリフとは思えねぇな」
「うるさいな……。とにかく私はもう行くよ。次来るときまでにちゃんと身を固めときなさい」
「うーい。じゃあな。また何年後か分かんねぇけど」
そう言いながら笑顔で手を振っているウォーフデリーが見えなくなって早10分がたっている。
日本での目的を一応終えたルーはローレンと一緒に、3日前にウォーフの屋敷を訪ねるために歩いて来た道を戻っていた。
もちろんローレンの案内に頼りながらである。
だから、今の様にローレンとはぐれてしまえばあっと言う間に道が分からなくなってしまうのだ。
「レン~。レンちゃ~ん。どこ行っちゃったんだよ~」
半泣きの魔法使いは、お付きの案内役を探してうろうろすることしか出来ないようだ。ルーがわざわざローレンを造り出したのは、自分がこんなであるからというのも理由の中にあるのかも知れない。
すれ違う通行人達が不思議な表情でルーを見ていたが、そんなことを気にしていられるほどの余裕は無い。
「う~~~……。レンちゃん、ちゃんと私を案内してくれないよ……。どうしてこう、私を迷子にさせない案内の仕方が出来ないのかな……」
てくてくと歩いていくルーの頭が突然すぱーんとひっぱたかれた。
「黙れ!この馬鹿!!」
暴力と暴言を同時にぶつけるのは紛れもなく案内役のローレンだった。
「れ……レンちゃーん!探したよ~!私を迷子にしないで~」
「あんたが奇跡的な確率で迷子になるんだ!何で目を放した5秒の間にいなくなってるのさ!!」
噛み付きかねない勢いでローレンが怒っている。何で怒られているのか分からないルーはきょとんとしていた。
「……?な……何で私、怒られてるの?」
「あんたのせいで私の‘人探しスキル’が順調に上達してるからだ馬鹿!!」
子供が大人をこんな道の真ん中で叱っているという妙な光景を通行人は見て見ぬふりをしながら歩いていく。そんな人達が周りにいるのに気が付かないのは遺伝ではないのだか、そっくりだった。
「わぁ!ってことは健介に頼らなくてもレンちゃんのスキルで私を見つけてくれるんだね?」
「だからそうやって開き直るな!!あんたがこれからも迷子になり続けるなら本当にケンスケがいなくても大丈夫になっちゃうじゃん!!」
「なんだ、俺不必要?」
突然の男の声にびっくりした様子も無くローレンは振り返った。
そこにいたのは犬耳を生やした紛れもない鬼だった。
「ケンスケ!」
ローレンが声を上げた。
「いや遅くなりました。来る途中で匂いが何回かばらけてたんで…」
ローレンはぎろりとルーを睨む。睨まれている方の人間は健介に微笑みながら話をする。
「準備とか、後片付けとかちゃんとしてきた?」
「え?」
ルーの言葉に思わず聞き返してしまった健介に不思議そうにルーは訪ねる。
「してこなかったの?後片付け」
「あ……いや」
健介は申し訳なさそうに応える。
「ルーさんがそこまで人の心配できる人だと思ってなくて」
「なっ!」
「あ、それ私も思った」
「だろ?驚いちまって」
「何だよー!私、あんたたちより大先輩なんだからね!?」
「……200歳もね」
「見た目は俺より年下ですけど」
「むー!私を怒らせる気!?」
赤い帽子の女とまっしろな少女と犬耳つけた男が道の真ん中で話をしていれば嫌でも目立ってしまう。しかし、周りの人達の目を気にしている人間は、3人の中には誰もいなかった。
「……さて」
ひとしきりルーをからかった健介は、ふぅ、と息を軽く出しながら、文字通り一息入れてルーに向けて言った。
「何の役に立つか分かりませんが、これからよろしくお願いします」
健介の願いを3日前に聞き入れた魔法使いは笑顔で応えた。
「うん。気楽に行こう」
健介はローレンの方にも顔を向けた。
「これからよろしくな」
ローレンも笑顔で口を開いた。
「こっちこそ。迷子探しの時は頼むからね」
その言葉にルーが怒っている。それをローレンと健介が笑っていた。
健介の未来は、自身が考えていた方向とは違えてしまった。しかし、自分が知らなかった別の方向に進み出した。
それは間違いなのか、正しいのか。戻るべきなのかどうなのか。
答えは、澄んだ青空が知っていた。
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