3 ~seek~


 ざわざわとした、いつものこの辺に戻っている道をローレンと歩いていく。さっきまで黒いのの人払いのせいで非常に静かだった裏路地のようなコンクリートの道も、この日常の賑わいを見れば大通り並みである。

「人が多かったんだね~。この辺り」

 きゃっきゃとはしゃぎながらさっきまで俺が抱きながら走った道(実際はこの道に隣接する屋根の上だったのだが)を、先ほどとは反対向きにかけていく。

「おーい、あんまりはしゃぐなー。転んでもしらんぞー」

「大丈夫だよー。転んでもケンスケなら手を貸してくれるもーん」

 くるくる回ったりしながらやたら上機嫌に俺に向けて言う。実際転ぶかも知れないから注意したのだが、なんとなく本当に転んだら助けてしまいそうでちょっと悔しかった。

 とりあえずそんな調子で深々とフードを被った怪しい男が、日本人には見えない恐らく可愛い部類に入るであろう少女を連れて歩いていたためだろう。さっきの黒い使い魔と遭遇したこの場所に来るまでにすれ違った人達に何とも形容しがたい視線をいただいてきていたのが凄く気になった。

「さて、こっからが本番だな」

 一通りはしゃぎ終えたのか、少し前からおとなしく俺の後を付いてきていたローレンに言った。

「え?今までは探して無かったの?」

 驚きの声を上げたローレン。この少女は意気込みのための言葉というものを知らないのか。いや、言うことをいちいち純粋に受け取りすぎているだけだろう。

「そういう意味じゃねぇ。こっからは匂いを辿って行くぞ、って言っただけだ」

「知ってる。言ったことをそのまま受けとめてみただけ」

 今さっき開けたばかりのぬるくなったコーヒーを飲みながら、ケラケラ笑っている。こいつ、要するに俺をおちょくって楽しんでるようだ。

「……お前、探すの止めるぞ」

 そう言った途端、ローレンは俺に非常に冷たい目を向けてきて言った。

「……耳あて」

「……う……」

 痛いところを突かれて押し黙ってしまった俺。ローレンは相変わらず厳しめな目を向けている。

「……冗談だ。ほら、探すぞ」

 ローレンの顔が意地悪そうな満面の笑顔に変わる。そしてわざと可愛らしく俺にに言った。

「ふふふー。犬を使って探すなんて警察みたい!楽しみだね!」

 調子のいいローレンにため息を出しながら、出来るだけ無視し、鼻に全身の意識を集中する。ローレンの曲がってきた角からローレン自身の匂いを感じる。これを辿っていけばママに会えるはずだ。弱く漂っている方の匂いが、ローレンの匂いと別れたところがローレンがママと別れたところになる。そこで別れた弱い方の匂いを辿っていけばそのうち会えるという訳だ。

「よし、こっちだな。ちゃんと付いてこいよ」

「はーい」

 笑顔で良い返事をしたローレンの少し前を維持して、ローレンのママを見つけるために歩きだした。

 実際匂いを辿って道を行くことはそれほど難しい事ではない。曲がり道があったところで鼻に意識を集中してどっちの道か調べれば良いだけだ。一番問題なのは捜索の対象が移動していること。自分達と同じ方向に同じ速度で移動していたらそれこそ一生会うことは出来ない。何しろこの捜索法は近道とかが出来ないからだ。

「なぁ、ローレン」

 ちょっと気になった事があり、唐突に話を振る。

「ん?なぁに?何か分かったの?」

「いや、どっちかといえば逆だ。ママの特徴とか無いのかと思ってな。例えばそうだな……。よくやってる行動パターンとか」

 もし匂いが強くなってきたら、その時は匂いを辿るよりもその周辺を探した方が早いときもある。その時頼りになるのはやはり情報だ。その人が行きやすい場所があれば簡単に見つけられる。

「……うーん……。あんまり無いかも。好みとかもコロコロ変わる人だから」

「何か無いか?ママの変わらないところ」

 あ、と短くローレンが声を上げた。

「いっつも真っ赤なだぶだぶの帽子被ってるよ」

 手に入ったのは捜索にはほとんど必要無い情報だった。が、何が役にたつか分からない事もある。少し考慮しておこう。

「……まぁ、いいや」

「諦めちゃった。いいの?そんなのでママ見つけられる?」

 角を左に曲がる。

「大丈夫だよ。そんな心配してなくてもすぐ会えるさ」

 ローレンは非常に納得していないのが分かりすぎるほど分かりやすい顔をしたまま、まだ大事そうに持っているコーヒーに目を落としていた。

「どうした?胃にコーヒーが落ちないか」

「……え、普通に飲めるけど……?」

 頭にクエスチョンマークをいくつも付けながら曖昧に答えている。

「何か俺の探し方に納得してないみたいだったからさ」

 さらに当惑したようにローレンは疑問を尋ねてきた。

「そういう訳じゃないんだけど、何でコーヒーが関係あるの?」

 角を右に曲がりながら、その質問に得意げに答えてやることにした。

「納得してないなら腑に落ちないんだろうなと思ったからな。腑って内臓を表してるから胃と置き換えてみた。分かりやすいだろ?」

 俺の比喩表現を用いたセンスのある冗談だったことに今気が付いたローレンは、可哀想なものを見る目で俺を冷やかに見ていた。その時の体の寒さと言ったら、雪が降っている北海道で上半身裸になるぐらいの痛々しいぐらいの寒さだったと思う。

「……ちょっと、無いよ……。それは流石に……」

 ドン引きされていることぐらい俺でも分かるが、こういう時は敢えて引かず、むしろ何事も無かったかのように振る舞うのが一番良いのだ。

「おっと、また右に曲がるぞ。ちゃんと付いてこいよ」

「……あんまり付いて行きたくない……」

 子供の純粋な感情を受けとめられてこそ大人だと思う。だからここは大人として、あんまり気にしないで行く事にしよう。

 そう決断してから早5分。ローレンは一言も喋らないし、徐々に距離を離されている。既に俺とローレンには4mの間がある。

「……あの……悪かったからいい加減引かないでくれませんか……」

「……」

 4m後ろから冷たい目が向けられている。何か無いとこの間は埋まらないかも知れない。別に子供に好かれたいとは微塵も思っていないが、あの目は、嫌だ。

 その時、この間を何とかしたいと思っていた俺の脳を、鼻がノックした。自然と足が止まる。

「……どうしたの?」

 疑いの目が無くなった訳ではないが、ローレンは俺の傍に来て尋ねてきた。

「匂いが急に濃くなった。以外と近くにいるかもしれない」

「え!?」

 ローレンの顔が急に明るくなった。

 どうやらローレンのママは割と歩き回っているらしい。我が子を心配する気持ちは……分からないが、心配で探し回らないと居られないのだろう。

 だが、捜している方からすればそれは迷惑極まりない行為である。捜す対象は動かない方が簡単に見つけられる。動いている場合、偶然出会う事も有るが、大抵の場合は行き違いになって、会えるまで時間がかかってしまうからだ。

「……こういう時のために情報が必要なんだよ……」

 捜される方が移動している事に苛立ちを隠せないでため息が出てしまった。

 そんな独り言を文句と取ったのか、ローレンが申し訳なさそうに目を伏せて謝ってきた。

「……ごめん……なさい」

「ん?いやお前のせいじゃない。謝んなくていいさ」

 とにかくさっさと見つける事が最優先だ。じゃないといつまでもついてきている少女の面倒をみるはめになってしまう。出来たら避けたい。

「よし、注意して捜すぞ。こっからは周りにも注意しながら行こう。もしかしたら途中で見つけられるかも知れないからな」

「……うん」

 ローレンはあんまり元気が無いように見えた。が、それを追求する前に匂いを辿ることを優先することにした。







 しばらく二人してキョロキョロしながら道を進んでいると、ローレンが小さく声を上げた。

「あ、ここ案内しながらママと通った」

「何?本当か?」

「うん。見覚えがある」

 そう言われて、鼻の意識を強くして進んでいく。

 そこで気付いた。それを言われた道の次の角をローレンの匂いの痕跡は曲がっているのだが、弱々しかった方の匂いは真っ直ぐに道を進んでいる事がありありと分かった。どうやらここで別れたらしい。

「……なるほどな。ローレン。お前とママはここで別れたみたいだぜ」

「えっ!?ここで!?」

 予想以上に驚いたリアクションを見せるローレン。

「どうした?なんか問題でもあったか?」

 それに当惑した顔をして答える。

「私が別れたって気付いたのもっと向こうなんだけど…」

 そう言ってローレンの匂いの痕跡が残っている道のかなり奥の方を指差す。それだけ気付かないこいつもこいつだが、そんな早々と迷子になる母親も母親だと思った。

「……うん。とりあえずかなりママに近づいて来たんだ。後はこのママの匂いを辿ってけば追い付けるぞ」

「だよね!やっとママに会えるよね!」

 急にテンションが上がったのか、まだ見つかった訳でもないのに大声で喜ぶ。こんなことを言うたびにこのはしゃぎ様では先が思いやられる。

「あんまりバタバタするな。周りの人達に白い目で見られるだろうが」

「あ、そっか」

 危ない危ない、と舌を出しながら照れている。一般的にはこういうところが子供らしくて可愛いのかも知れないが、俺はあんまりそういうのは分からない。

「危ないじゃなくてアウトだ。見ろ、周りの人達が見てんじゃねぇか」

 辺りを見回すと、沢山の目がこの少女とフード男の不釣り合いさを見ている。

 そう思ったのだが、幸いにも通行人は1人もいなかった。今の騒がしいやりとりは誰も聞いていなかったようだ。

「……何だ、誰もいないか」

「誰もいないね。さっきまで沢山人がいたのに」

 そんななんでもない言葉のキャッチボールの中に、何か大切な事を見逃している気がしてローレンの方を見る。ローレンも同じような事を考えていたのか俺の方を見た。ばっちりと会ってしまった目が、2人の考えている事が同じであることを表している。

 これは、人払いだ。

「何か……感じない?」

 ローレンの言葉に反応して鼻に意識を集中させた。

 心を落ち着けて全神経を鼻に集める。こうすることで鼻が独立したもう1人の自分になり、もう1人の自分が‘臭い’を感じてくれるのだ。その独立した自分は微かな臭いを感じとっていた。‘肺を直接縛られているような悪寒’を。

「……間違いない。まだ随分遠くだが、武藤さんとこの使い魔が近づいて来てる」

 ローレンが息を飲む。さっきは何の怪我もせずに逃げることが出来たが、あんなことは稀だ。次会ったら無傷で逃げる事は出来ないだろう。ならば先にしておくべきことは自ずと分かるものだ。

「走るぞローレン!今のうちに逃げる!」

「う、うん!」

 ローレンとともに走りだす。走りだした先は偶然にもローレンのママの匂いがする方だったが、今はそんな匂いを感じている余裕はない。俺の鼻はあの黒いのを感じるためだけの器官になってしまったかのようだったからだ。

「はっはっはっ……」

 ほぼ全速力で道を駆けていく。ローレンを気にしながら走るべきなのだろうが、ローレンの速度に合わせいたら俺の体力が保たない。なんたってローレンは俺の前を走っているのだから。

「遅いよケンスケ!」

「うるせー!お前が速すぎんだよ!」

 このペースで走っていたら、あのゆっくりした動きの使い魔に追い付かれる訳が無い。なのに何故なのだろうか。だんだんと臭いが濃くなる。進行方向に臭いの元がいる訳ではない。後ろからじわじわと、水が染みてくるように臭いが体を包みこんでいく。

「ヤバイ……速い……」

 ゼイゼイと呼吸を荒くしながら言う。

「えっ!?追い付かれそう!?」

 こっちの少女は歩いている時と全く変わらない様子で聞いてくる。ホント何者なのだろうか。

「ああ……無理だな。すぐに追い付かれる」

 少女は困ったような、びっくりしたような微妙な表情で言う。

「えー!どうしよう!?ケンスケ置いてっていい!?」

「鬼かお前は!」

「鬼はケンスケだよ!しっかりして!」

「そういう意味じゃねーよ!無駄に喋らせんな!」

 誰もいない道を走りながら叫ぶように会話する。

 そんなことをしている余裕は本来無いのだが、何となくローレンと話をしていると不安が取り除かれていくような気がした。

 それでもやっぱり現実は逃がしてくれない。只今感じた臭いを、俺の鼻は‘もう間近に迫っている’と結論付けてしまった。

「くっそ……!」

 追い付かれた、と頭でもそれを理解したその時、間近に迫っている‘臭い’は、いとも簡単に二人を追い抜いてしまった。

「っ……止まれ!ローレン!」

 その声で、猛スピードで進んでいた2つの塊が急ブレーキをかけて止まった。追い抜かれたのなら進むのは少なくとも得策じゃない。これから取れる対策としては反対方向に走るか、追っ手を打ち負かすか。その2つだけ。

 1つ目は実現不可能だ。あの速度では捕まるのは時間の問題。どうせ逃げてもまた回り込まれる。

 だからと言って2つ目はもっと絶望的だ。いくら使い魔といえど、一応普通の生活をしていた人間に近いものである俺が刀を持ったプロの殺し屋に勝てる訳が無い。

「どうしたの……!?まさか……」

「ああ……悪いがそのまさかだ。追い抜かれた。今……奴は前にいる」

 反射的に前に向き直ったローレン。それにつられて俺も前を向いた。そこに、黒い長いローブをその身に纏った、フードを取り顔をあらわにした、さっきとは違なる、普通の人間のような使い魔が現れた。

 臭いは、さっきよりも濃い。

「……あぁ……道理でさっきより速いわけだ」

「……武藤さんも本気になったみたいだね……どうしようか……」

 2人で前にいるさっきとは違う使い魔を眺めながら言葉を交わす。正直な話、こうなってしまうと自分自信の正しい行動は何であるかが分からなくなる。逃げるべきか、抵抗するべきか、無抵抗のまま何とかなることを祈るべきか。

 そんな事を考えていたのだが、金色短髪の、使い魔にしては優しそうな、それでもほっそりとした顔立ちをした黒いのは俺達の姿を確認すると言った。

「ふーん。この状態でも楽しくお喋りか。随分余裕があることだな」

 急に語り掛けてきた使い魔は先ほどのようないやな音ではなく、しっかりした日本語の発音をしていた。

「……何だ、今度の使い魔は喋れるのか。それなら交渉次第では逃がしてくれたりするのかな……」

 その言葉に冗談だと分かりきった怒り方を見せた。

「たわけ、何調子いい事を言ってんだ。それに次のじゃなくて使い魔としては俺が最初だ。あのノロマが次だからな」

 ぷりぷりと怒りながら陽気に喋っている使い魔はまるで戦意を見せないが、俺の鼻はさっきからずっと俺に呼び掛けてくれている。あれは危険だ、関わるな、すぐに逃げろ。と。

 それでも、俺の脳はそんなこと気にしていないかのように話を続ける。

「……しかし、今回見つけるの早くないか?今までは何とか逃げおおせたら最低でも2ヶ月は現れなかったのに」

 使い魔は飄々と答える。

「ああ、あのノロマは効率悪いからな。自分で見つけないとダメなんだ。でも俺は‘異端者の方に自然に動く’からな。見つけるのは当たり前のことなんだよ」

 俺は、ふ、と一度笑う。会わないと発見出来ないという使い魔に6度も遭遇している自分の運の悪さを笑った訳ではない。

「随分お喋りだな。そんなことまで話していいのか?」

 その言葉にむ、と困った顔をして反応した黒い使い魔。だがそれも一瞬のこと。すぐに言い返してきた。

「本来はダメだ。でもお前達だって、冥土への土産話は必要だろう?」

 そう言ってニヤリと笑う使い魔は、黒いことを考えている大人のようだった。

 浮いていた刀が右手の方に移動する。それを掴むと、使い魔はこの状況を楽しむように口を開いた。

「さぁ、サバイバルゲームを始めようぜ」

 使い魔の顔を見て、これから楽しい事が起こることを待ちきれない子供のようだと思った。







 自分の視界の中にいるモノを凝視する。鼻からの命令で逃げ出そうとする体を脳で強く抑えつけ、手をポケットの中に滑り込ませる。ポケットの中には飛び出し式のナイフ。それをしっかりと掴む。

 今まで走っていたためか、それともあの黒い使い魔が視界に入っているからか、額に汗が流れていた。

 雲1つ無い青空。それほど熱さを感じない日光。昔のままの瓦や木の建物の匂い。地面から溢れてくる近代的なコンクリートの匂い。離れているのに、まるで直接嗅いでいるかのようにまとわり付いてくる臭い。肺を直接縛られているような、息苦しくなる臭い。

 そのどれがどう作用したのかは分からないが、自分でも驚くほど冷静にローレンの前に腕を持ち上げていた。

「……下がってろ。んで、隙があったら全速力で逃げろ。お前だけなら逃げ切れるかもしれない」

 その言葉にローレンは心配した顔で俺を見上げた。そして、ぼそぼそと言った。

「……ケンスケは……どうするの……?」

 おそらく、ローレン自身もその答えは分かっている。分かってはいるが聞かない訳にはいかなかったのだと思う。

「俺はあいつの足止めをする。もちろん、隙が出来たら俺も逃げるさ」

 その言葉に口を開きかけたローレンは、何かを理解したように口をつぐんだ。実際理解したのだろう。俺の言葉は強がりであり、俺は逃げられないという現実を、俺自身が理解していることを。

「……何で……?」

 一度つぐんだ口から漏れるようにして、今にも泣きそうな声が聞こえた。

 冷静さを失っているためか、ローレンの言葉の意味が理解出来ない。とりあえずタンカを切った使い魔はまだ動く気配を見せない。しばらくは話が出来そうだった。

「……ん?」

「……何で……助けてくれるの?ケンスケ、子供嫌いでしょ……?」

「いや……何でって……」

 態度を見ていれば分かると思うが、俺はローレンの言うとおり子供は好きではない。何の魔術かは知らないがそんな事までよく知ってるなと思う。しかし自分は嫌いだから死んでいい、なんてそこまで薄情じゃないつもりだ。

「……お前には‘助けて’ってお願いされたからな。言われたことを守り通そうとしてるだけさ」

 ローレンの顔からは静かな驚きが垣間見えた。その顔から判断出来たのだが、ローレンは俺を義理堅い男だと見直したのかも知れない。そう考えて貰えるのは

ありがたいのだが、その考えを正してやることにした。

「まぁ、そんな事言ってもお前だけなら逃げ切れるかも知れないから俺が足止めするだけだ。2人死ぬのが1人だけになるならそれは善いことだからな」

 ローレンを心配してのことではなく、状況を判断しての最善の策だったということを理解したのか、ローレンの顔が不機嫌なものに変わった。

 多分、見直して損したとか思っているのだろう。

「…………ん……」

 ふてくされているようで、ぞんざいに返事をしてきた。これでお別れだってのに冷てぇなと思ったが、それは言わないでおく。

「じゃあここでお別れだ。……うまく逃げろよ。」

「……知らない。そんな態度のケンスケ、知らないもん……」

 怒ってそっぽを向いてしまったローレンから目を離し、前に向き直る。俺は‘鬼’として前にいるモノと対峙しなければならない。生存率なんて限りなく0に近い空間に飛び込まなければならないのだ。

 それでも、ただでは死ぬつもりはない。静かに正面を見据えた。

「……話はもういいのか?最後の別れになるんだからもっとゆっくり話しててもいいんだぜ?」

 余裕な態度は実力がある証拠だ。自分が最初だと言う使い魔は相当の実力者であり、使い魔自身もそれに強い自信を持っているのだ。でなければ、話し終わるまで待つ、なんて面倒くさい事をする理由がない。

「……俺と話すのはこの子が嫌なんだとさ。それに、おまえに睨まれながらじゃゆ

っくり話もできねぇからな」

 使い魔は、はは、と短く笑った。

「別に睨んじゃいねぇよ。例え見てなくても逃げたら分かるんだからな」

 使い魔のその言葉に抵抗するように皮肉を言う。

「その割にはじっくり見られてた気がするけどな。実際、ローレンが逃げたら困るんじゃねぇか?こいつ、早いぜ?」 

 使い魔はやけに楽しそうな様子で笑っている。

「おお、強気だねぇ。お前みたいな奴は好きだぞ」

 そう言う使い魔はその手に持つ刀を刃を下向きにして正面に構える。そして、絶望的な一言を口にした。

「そんな奴を手にかけないといけないとは……残念だよ」

 ただ刀を正面に構えただけだが、それを見て激しく緊張した俺の手や額は汗でじっとりと濡れていた。視界にいる奴の一つ一つの動きが自分の死に直結している気がして背中が冷たくなった。

 そんな緊張している俺の背中の方から、声が聞こえた。

「……ケンスケ……」

 声の主はローレンしかいない。今にも消えてしまいそうな声で俺を呼んだ。

「ん?どうした?何か言い残したことでもあったのか?」

 そう言いながら首だけ後ろに振り向いた。そこにいたローレンは怒っていると思っていたのだが、軽くうつむいているだけで怒っている様子は無かった。

「…………でよ……」

 周りの音がほとんど無いにも関わらず、ローレンの声が聞き取れない。よっぽど小さな声で喋っているのだろう。

「……何だ?聞こえねぇ。もっとはっきり言えよ」

 その何も考えていない言葉を聞いたローレンはキッと目つきを鋭くして俺を睨んできた。目には涙が溜まっているのが分かった。

 その、怒っているのか泣いているのかどちらとも取れないローレンは俺に叫ぶように言った。

「……初めから死ぬなんて決めつけないでよ!そんな諦めてるような人に助けられたって嬉しくない!!」

「……はぁ?」

 まだ頭が落ち着いていないようだ。ローレンの言葉がイマイチ理解できなかった。

「嬉しくあるないの問題じゃないだろ……死活問題なんだ。嫌でも何でもとりあえず逃げろ」

「だって……!」

「だっても何も無いだろが。とにかくお前だけでも逃げれるようにしとけ」

 もう怒っている感じはない。そこにはただ泣きながら駄々をこねる少女がいるだけだった。

 そんな歳相応の態度で泣いている少女は、見た目と不相応な、こっちが予想してもいない言葉を口にした。

「だって……私がママを探してってお願いしたから……だから……」

 ……こんなことになってしまった。

 ローレンが最後まで言った訳ではないが、言いたいことははっきり分かった。

 この少女は要するに、自分のせいで俺がこんなことに巻き込まれていると。自分のせいで俺が死にそうになっていると。そう思っているのだ。

 つまり、俺に責任を感じているということだ。

 なのに俺は最初からずっと死ぬ気だった。ローレンの気持ちも知らないでだ。怒りたくなる気も分からなくない。

「……」

 ぐずぐずと泣いている少女を見る。ちょっと反省した。そして思った。

「……子供がそんな事気にしてんなよ」

「……だって……」

 泣きながら応える少女はまだ自分に責任を押しつけていた。そんな少女から目を離し、まだ待ってくれている使い魔を視界の中心に持っていった。

「とにかく俺はあいつの足止めをする。隙ができたらすぐに逃げろ」

「……ケン……スケ……」

 涙を拭いながら、呆れたような、諦めたような、そんな声で俺の名前を呼んだ。

「……お前だけじゃママを探せないんだろ?仕方ねぇ。なら、俺が意地でも生きなきゃいけねぇじゃねぇか」

「え……」

 驚きの声が聞こえたがローレンの方は見ない。一歩前に踏み出し、その手の中にある飛び出し式のナイフを握り直す。

 先ほどよりも握る力が強い気がした。

「……そういう訳だ。何とかして俺は生き抜かなくちゃいけなくなっちまった。待ってもらって悪いけど見逃してくれよ」

 正面で刀を構えている使い魔は睨みながら言ってきた。

「……恩を仇で返す気か……。せっかく最後の別れをちゃんとさせてやろうと思っ待ってたのに逃げる気かよ……」

 使い魔はぶつぶつと文句を垂れている。やっぱり子供みたいだと思った。

「いや、どうせ逃げても捕まる。それなら生き抜くためにはお前を倒すしかないじゃないか」

 ぶつぶつと文句を言っていた口が電池が切れた玩具のようにピタリと止まった。

「……どういう意味だ?」

 意地の悪い笑みを浮かべて聞いてきた使い魔の質問に、俺も口元を笑みの形にして自信満々に応えてやった。

「要するに、逃げたりしないでお前と戦うって事さ」

 その言葉を聞いた瞬間、使い魔の高笑いが響いた。

「あっははははははははははははははははははははははははははははははは!!

いいぜ!そういうことなら大歓迎だ!!さっきの諦めた感じの時よりも楽しめそうだしなぁ!!」

 心底楽しそうに大声を張り上げる使い魔は、その手に携えていた刀をものすごい勢いで上に放り投げた。ごう、という風切り音が一瞬で聞こえなくなる。そして、自身の体を屈め、叫んだ。

「‘鬼’の実力……!説くと見せてもらおうか!!!」

 つんざくような刺々しい声が耳に届いた直後。それとも同時か、バン!と何かが弾ける音が聞こえた。

 その瞬間に目の前の使い魔が自分を殺すための一撃を放ってきたかと思い、一瞬身が竦んだ。だが‘鼻’は俺の脳とは別の意見を示してきた。後ろに回られた、早く振り向いて対処しろ、じゃないと死ぬ、と。

 鼻からの命令を素直に受け入れ、後ろに振り替える。そこには人一人いない殺風景な道と、驚いた様子のローレン、そして、跳躍した後のように足を曲げ、小さくなって宙に浮いている使い魔が見えた。

 視覚情報は外部からの情報の70%を占める。だから現状の理解をするならば視覚に頼るのが一番なのだ。しかし今のこの状況はどう解釈したらいいのか。分かったことと言えばあの使い魔が半端無い速度で移動するということだけである。

「ケンスケ……?どうしたの……?」

 ローレンの驚いた声が聞こえていたが目はその使い魔から離れてくれない。その当の使い魔は右手を後ろで大きく掲げ、にやりと笑った。

 それから何を感じたのだろう。俺の鼻は一つの結論を示した。

 避けろ。

「避ける!!」

 前にいるローレンを体当たりを食らわせるような勢いで抱き抱えるように倒れこもうとした。

 直後、轟音と共に足元が爆発した。

 爆発の勢いとコンクリートの細かい破片がローレンを抱えたまま倒れた体に当たる。パラパラと土煙のようなコンクリートの粉が辺りに漂う。

 目だけを動かして今まで立っていた足場を確認した。

 そこには宙を跳んでいたはずの使い魔が右手を爆心地のど真ん中にあてるようにして屈んでいた。空を跳んでいたさっきの位置からここに右手を叩きつけるようにして攻撃してきたのだろう。それの威力は先ほどの通り。こんな無茶苦茶な攻撃、掠めただけでも致命的だ。

「……な……何……?」

 腕の中におさまっているローレンは見開いた目をぱちくりして驚いていた。そして、驚いている異端者がもう1人。

「へぇ……。今のを避けたか。普通なら今のでぐちゃぐちゃなんだけどな」

 ゆっくり立ち上がった使い魔は嬉しそうに俺を見ていた。

「今の高速移動は結構疲れるんだぜ?……無駄になっちまったけどな!」

 体を反転させ、力を込めた右手を勢いをつけて叩きつけてくる。それをあらかじめ鼻で読み取っていた俺は転がるようにして攻撃を避けた。

「ふっ!」

 コンクリートに叩きつけられた右手の音とほぼ同時に立ち上がった健介は、同じく立ち上げたローレンに向かって言った。

「このままじゃ危ねぇ!お前は向こうに逃げろ!巻き込まれないようにな!」

「え!?ちょっ……」

 それだけ言って、ローレンに示した方とは逆の方向に走りだした。使い魔の狙いが俺ならローレンと離れればその分ローレンは安全になる。だからとにかく走った。とにかくこの場からはなれようとした。

 健介の足音はすぐに小さくなっていった。それを追う使い魔の足音もまた聞こえなかった。

「……あいつ、逃げたぞ。嬢ちゃん」

 足音がするはずが無かった。使い魔はそこから健介を追う素振りも見せていないからだ。

「ケンスケを……追わなくて……いいの……?」

 ローレンは恐る恐る聞く。

「ハァ……。追うよ?嬢ちゃんをどーにかしたらね」

 つまんないの、とでも言いたげな深々としたため息を吐き出しながらローレンをちらりと見る。

「何か言い残したいことある?何でも言っていいぞ。あ、魔術発動体を作るための詠唱とかはしちゃだめだけどな」

 そんなことを笑顔で言う使い魔からは殺意みたいなものはこれっぽっちも感じない。この使い魔にとって、これは楽しむためのこと。だから‘殺意’なんて気の張ったものを用意する必要自体がないのだ。

「……魔術発動体を作れる詠唱は知ってるけど作れない。私魔力が無いんだもん」

「……無い?完全に0なのか?お前どんな異端者なんだよ」

 目の前の使い魔に怯えながら、強めな口調で言った。

「……私だって詳しく知らない。とりあえず、‘根源’なんだって」

「……何?」

 使い魔の眉が釣り上がり、目が細く鋭くなった。そして、性格が反転してしまったかのように声色が低くなった。

「そうか…なら余計どうにかしないといけなくなっちまった」

 スッと右腕を上げ、力を込めた。

「や……」

 使い魔に恐怖を感じ後ずさる。それを見た使い魔は低い声のまま口を開いた。

「安心しろ。痛みとか感じる間もなく殺してやるよ」

 言った直後、体を右足を支点に半回転させ、上から落下する勢いのままナイフ

を突き立てようとしている健介をその目に捉えた。

「こいつを殺してからな!!」

「なっ!」

 使い魔は振り向いた勢いで振った右腕を健介に叩きつけた。バットで打った野球ボールさながらに健介の体は飛んだ。もろにあの張り手を食らってしまった。

 ところがコンクリートの地面に叩きつけられた体は、あの張り手を食らったにしては以外とまともな状態だった。骨が折れているわけでもなさそうだし、どこからも出血していない。

「くっそ!」

 それでも痛みがまぶされていない所が無いと言っても過言ではない全身に鞭をって素早く体を起こした。

「やれやれ、姑息な手段使いやがって。屋根の上に登ってたことぐらいお見通しだっつーの。そんなんじゃお前簡単に死ぬぜ?」

 にやりと意地の悪い笑みを浮かべた顔を俺に向けてくる使い魔。その顔には喜びが見えた気がした。

「……攻撃がそんな弱い奴には簡単に殺されない気がするんだけどな…」

「そうか?」

 使い魔は不満そうに言葉を繋げた。

「そのままでもお前十分死ぬけどな」

 その後の何?という俺の言葉は全く聞こえなかった。ローレンの叫び声にかき消されてしまったからだ。

「ケンスケ!!うえ!!」

「……上?」

 反射的にちょっと顔を上げて空を眺める。綺麗な青さが広がっているその空に、ぽつねんと何か普通には無いものが見えた気がした。

 それが何であるかを目で理解したのは、それを俺の鼻が理解し、教えてくれたのと同時だった。

「…………!」

 ズダン!と普通にはあり得ない音を立ててコンクリートに深々と突き刺さったのは漆黒の刀。紛れもなく使い魔が投げたあの刀だった。

 頬を掠めただけで間一髪避けることができた健介だが、背中に今までに感じたことがないほどの寒気がして動けなかった。脊髄が凍ってしまったかと思ったほどだった。

「な?十分死ねただろ?」

 そんな声が耳元でした。

「っ……!!」

 その声に我に返った健介はいつのまにか目の前に現れていた声の主に対してナイフを即座に構えようとした。

 しかしそれは、使い魔自身の良い笑顔が全く変わらないでいられたことから判断しても障害としての役目を全く果たせていなかったのだろう。

「遅ぇ!」

 使い魔はコンクリートから生えている漆黒の刀の柄を掴んで叫んだ。

 金属の削れる鋭い音と共に引き抜かれた刀。その柄は、吸い込まれるようにして健介の顎を打ち抜いた。

「がっ!」

 体が背中から倒れそうになる。頭もまともに働いていないし、ちょっと気を抜けばすぐに意識をそこらへんに吐き出せる自信があった。

 しかしそうやって気絶して楽になることは‘鼻’が許してくれない。ただの感覚器官であるくせに、偉そうに人に次の行動を命令してきている。

「まだまだぁ!!」

 顎を打ち抜いた漆黒の刀を巧みに順手に握り直し、左側から健介の体を斜めに切り裂く。

 それを命令された行動に反論することなく後ろに一歩跳ねて回避する。体勢は崩さずに目の前を通過した刀の軌道を見据えた。

「ははっ!避けられると思ってたぜ!!」

 健介が跳ねた分を帳消しにするように使い魔は跳ねる。軌道をさらに描きながら刀を今度は右側から振ってきた。

 しかしそんなことをすることは分かっていた。

 バックステップの最に握ったナイフは既に取り出した。しかし振るわれた日本刀を受けるだけの力は存在しない。受けることなんて出来ない。

「もう一撃だ!!」

 振るわれた刀に合わせて勢いが完全につく前にナイフを当てた。

 カチン、と金属同士がぶつかり合う乾いた音が響く。

 当然、隠し持てるちいさなナイフ程度で刃渡り2尺の日本刀を受けることなんて出来る訳がない。だから、自分に向かって流れてくる細い金属を素直に受けとめることは諦めていた。

 刀に合わせたナイフを少し傾け、自分自身も少し屈んだ。

 刀は、初めの流れのままナイフを滑っていった。

「……お?」

 使い魔は目を丸くしていた。俺をただの人間と変わらないだろうと決め付けていたからだろう。

 そう、実際ただの人間と変わらない。圧倒的な筋力がある訳でも、疾風のごとく動ける体がある訳でもない。ただ、ちょっと真面目で、言われたことだけはしっかり出来て、何となく先が読める生意気な鼻があるだけの、ただの‘鬼’だ。

 ナイフを傾けた理由はもう一つ。このまま右手を突き出せば、そのままナイフは目の前の‘もの’に刺さるからだ。

 使い魔に言い放った。

「……お前の敗因は、その、油断だ!!」

 右手を全力で突き出した。

 ナイフが使い魔の体の中に潜り込んでいく。右手は肉の抵抗を受けながらそれでも真っ直ぐに使い魔を貫いた。

 それが理想的だった。

 ところが突き出した右手は何の抵抗も受けずに真っ直ぐ進んだ。

 あまりにも何も感じないその突き出している右手に久しぶりに感じた感覚は、右手首を誰かの手で掴まれる、という予想もしていなかった感覚だった。

 使い魔の右手は左側で刀を振り抜いた後の余韻を感じていた。だから邪魔されることなんかなく、真っ直ぐに使い魔を貫くはずだった。まさか、ローブに隠れているだけで‘左手’なんて当たり前なことを忘れてしまうなんて、腑抜けにもほどがある。

 空を切ったナイフを持つ右腕の接続部を掴みながら、使い魔は言った。

「……お前の敗因は、過信だな」

 使い魔は余韻の無くなった刀を右側に降った。

 近すぎて刃は当てられないと判断したのか、健介の顔に当たったのは冷たい金属ではなく、先ほども当てられた漆黒の柄だった。

 ガッ、と鈍い音の前に顔に強打された柄は、人間1人を殴り倒すには十分すぎる硬度と威力だった。

「うぐっ……」

 倒された。普段は聞こえない超音波みたいな音が耳の中でうなっている。殴られた事は思いのほか体というか脳にダメージがあるみたいだった。なんとか上半身を起こしても下半身には全くと言っていいほど力が入らない。

 その糸の切れた人形のような俺に、刀を突き付けながら使い魔は感情の無い目を向ける。

「……惜しかったな。もう少し頑張れば俺を倒せたかもしれねぇ」

 さっきまでの子供のようなはしゃぎようはどこに行ってしまったのだろう。冷たい声が耳に届いた。

「はっ……本当にそう思ってるならそれっぽく言え」

 ぼう、とした頭でとりあえず悪態をついた。

「ふん。お前みたいなまっすぐなやつは嫌いじゃないぜ」

 笑っていない目を向けながら口だけを笑みの形にする。その使い魔は刀を振り下ろすために上に掲げた。

 と、そろそろ抵抗することを諦めかけていた健介の耳に高い声が届いた。

「ケンスケ!!」

 声がした方を目を動かして見る。使い魔も同じようにして目を動かしていた。

 二人の目線の先には、隙を見つけて逃げろと言っておいたはずの少女、ローレンの姿が写った。両手を胸の前で重ね、不安を隠しきれていない顔でこっちを見ていた。

「……あいつ、まだ逃げて無かったのか……」

「ああ、お前と遊んでる時もずっと見張ってたからな。逃げたら嬢ちゃんから先に手に掛けてたな」

 感情の無い声で健介の独り言に返事をした使い魔。さりげなく俺との戦闘を遊びなんて言ってやがるがそんなことは気にしない。今することはローレンが逃げられるだけの隙を作ること。

 しかし体は満足に動かない。頭を殴られるとこんなにも脳が働かなくなるものなのかと驚いてしまうほどだ。

「……さて、そろそろ終わりにしようか」

 使い魔はポツリと、独り言のような死刑宣告を口にした。

「……言い残した事は?」

 決まり文句のようなもう何度目なのか分からない言葉が聞こえた。

「……そのまま振り下ろしたって俺は殺せないぜ」

 最後の強がりだった。

「そうか、じゃあ試してやるよ」

 使い魔の刀の動きを邪魔するものは存在しなかった。

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