エピローグ「希望と靴屋」


(1)


「それで、あの…二人はただの心筋梗塞だったんでしょうか。」


…あの事件から数日が経った。

荒田希美は約束通り鳴鐘の事務所にやってきて、話を聞いている。

鳴鐘はで彼女のことをじっと見つめた。


…鳴鐘は知っていた。

二人が心筋梗塞で死んだのではなく、『ぶうじゃむ』に…

二人が以前認識していた『すなあく』ではなく

『ぶうじゃむ』に殺されたのだというその事実に。


…鳴鐘はわかっていた。

二人は以前から『すなあく』について知っており、

例え半ば呆けようとも、過去の因縁を覚えていて、

彼らが勇敢に彼らの考える『すなあく』と戦ったという事に。


そして、彼女に答えを告げようと口を開き…。


「…ええ、間違いありません。彼らの身元も調べましたが、

 特に変わったところはみられませんでした。おそらく、

 ただの心筋梗塞で間違いないでしょう。」


…彼女に対し、そう言った。


「そう…ですか。」


そう言うと、荒田は落胆と安堵の入り交じった

表情で鳴鐘を見る。


「…どうやら、私の思い過ごしだったみたいですね。

 ありがとうございます。これですっきりしました。」


そうして、思い出したように財布を取り出そうとする

彼女を鳴鐘は手で制した。


「え…?」


続けて鳴鐘は首をふる。


「いえ、お代は結構です。何しろ、何も調べていないも

 同然なので…調査としての経費もあまりかからず、

 ここでお代をいただくのは申し訳ないと思ったところ

 でしたので…。」


「…で、でも、せめて気持ちだけでも…。」


その言葉に、鳴鐘は優しく首をふる。


「その気持ちだけで結構です。

 何でしたら、また依頼があったときにお話しください。

 もちろん、そのことを私が覚えていたらの話ですが…。」


…そうして5分後、彼女は帰り、

鳴鐘は誰もいない部屋で声をあげた。


「おい、えみり。いいかげん出てこい。」


すると後ろのキッチンに通じるドアが開き、

どこかふてくされたような表情で塞杖は姿をあらわした。


「…やっくん、ひどい。依頼人の子に嘘教えたー。」


それに対し、鳴鐘は肩をすくめてみせる。


「なにも嘘じゃないだろ?ありのままの真実を教えたら

 彼女が危ない事ぐらい、お前でもわかるだろう。

 お代だって、もらわなかったわけだし…。」


それでも納得いかないのか塞杖は声をあげる。


「でもさ、もっといいかんじの言い方は無かったワケ?

 もっとこうさ、相手も完全ナットクするような、

 結局お金払っちゃうような、そんなすごい言い訳。」


「…えみり、もしかして依頼人から金もらいたかったのか?」


ジト目をしながらいう鳴鐘の言葉に、

塞杖は慌てたように両手をふる。


「いやいやいやいや、そんなことはないよお、例えやっくんが

 お金をもらったとしてえ、そのまま夜に飲み屋へGOなんて

 まったくもって考えてないから。」


「いや、考えているじゃないか…。」


そうして鳴鐘は席を立ち、

台所へ向かうとやかんをコンロにかける。


「…で、雑誌の方はどうなった?」


それに対し、塞杖はいつものようにソファに転がると

その上で三角座りをしてタブレットを起動させる。


「…うん、まあホントのことは書けなかった。

 時期的なものとか、過去の死亡例の波と合わせて適当に

 くっつけた感じの記事しかかけなかったし…でもさ、

 あれから施設内外での死亡者数が激減したし、

 結果オーライともいえるかなって最近は思ってる。」


その言葉を聞きながら、鳴鐘はティーパックを取り出し

ポットの中に入れ、熱い湯を注ぐ。


「…そうだな。むしろ書いたらいろいろとまずいからな。

 こういう場合、大人しくしていることが一番だ。」


そうして、鳴鐘は「ゆずしょうがの香り」と書かれた

二つのスティックを取り出すとカップの中に一本ずつ

さらさらといれていく。


「…うー、目がごろごろする。花粉かなあ…。」


その言葉を聞きつつも鳴鐘はカップの中に紅茶を淹れると

軽くスプーンでかき回し、その二つを持って行く。


「気をつけろよ。えみりはまだコンタクトになれてないんだから。

 …目は一生ものだぞ。」


「うー、もういい、外すぅ。」


そうして、塞杖は目に指を入れると瞳から

ぺらりと黒のカラーコンタクトレンズを取り、

下からきれいな青色の瞳をのぞかせる。


「…お前なあ、そんな状態でなじみの雑誌社と打ち合わせ

 出来ているのか?不審がられたら困った事になるぞ。」


同じ黒のコンタクトレンズをつけている鳴鐘の言葉に

塞杖はカップを取りながらあっけらかんと答える。


「『趣味です、構わないでください。』…と言う事にした。」


そうしてズズッと紅茶を飲むと、ふはっと息を吐いてから

感心したようにカップの中身を見た。


「やっぱ味がわかるってサイコーだね、

 あの事件のあとすぐに味覚が戻って本当にほっとしたよ。

 これってジンジャーティー?酸味もあって美味しいね。」


その様子を見つつ鳴鐘もひとくち紅茶を飲む。


…確かに、味覚は完全に戻っていた。

紅茶に混じるしょうがの香りから隠しで入れられたゆずの香まで、

舌の先でしっかりととらえることができる。


…これも、『ぶうじゃむ』…いや、『すなあく』を原初に戻した影響かな。

鳴鐘はそう考えるとほうっと息をつく。


鳴鐘は数日前に『指ぬき』にされた状況をいまや思い出すのも嫌だった。


男に騙され肉を喰った瞬間、

『ぶうじゃむ』に飲まれた記憶、

悪夢の中をさまよった時間…でも、今はそれが遠い過去のように思えた。


そんなことを考えていると、塞杖がため息をつく。


「あーあ、でもさ。結局最後に出てきたあのおっさん、

 マジ何者だったの?色々事情通な感じだったけど。」


それに対し、鳴鐘はあっさりと答える。


「名前は火喪咲修一ひもざき しゅういち、職業は靴屋。

 大手靴流通会社の営業を担当していた男だ。」


それを聞き、塞杖は飲んでいた紅茶を吹き出しそうになる。


「…やっくん、仕事早いね。もうそこまで調べ上げたの?」


半ばあきれる塞杖とは対象的に、鳴鐘は後ろの棚から

書類を取り出すとたんたんと語る。


「二ヶ月前の金曜日、この近くの繁華街に行った後に行方知れずと

 なっている。それから度々目撃されることもあったが足どりが

 つかめず一応目撃情報がある事からただの放浪と見なし、

 特定失踪者のリストからは外されていたようだ…。」


そして鳴鐘は書類の中から一枚の写真を取り出し、塞杖に見せる。


「…その失踪が起こる前、居酒屋の店主が一人の不審人物を

 カメラにおさめていた…これがその人間だ。」


その写真を見た塞杖は息を飲む。


「…これって…。」


そこに写るのは火喪咲…

そしてもう一人、澄んだ青色の目も持つ男がいた。


「…火喪咲を『指ぬき』にした男の話が気になってな、

 少しだが調べてみた。」


そう言うと、鳴鐘は紅茶を飲む。


「でも、住所はおろか、身元もまるでわからない。

 唯一わかったのは、この男が頻繁に店に来てはこうして

 飲んでいる客を連れて行く常習犯だったということだ。

 …しかも、飲み屋のはずなのに、自前の料理をいれた

 タッパーを持ち込むという、営業妨害も含めてな…。」


塞杖はその説明を聞きながら写真をまじまじと見つめる。

男は、ぼさぼさの薄汚れた髪と服装をしていたが、

身なりさえ整えればそれなりの整った顔だちをしていた。


「…この人が、件の集落の生き残りなのかな…。」


「…おそらくな。そして、店でターゲットを見つけては

 集落に連れて行って『すなあく』の餌にしていたんだろう。」


そうして鳴鐘は手元の書類をめくる。


「だが、最後に火喪咲と行動したことで歯車が狂った。

 そして、何らかの原因で彼は死んでしまったのだろう…

 まあ、不幸にして死んだのは火喪咲も同じだが…

 …ともかくそういう経緯を辿ったがために火喪咲は

 白金あぎとの存在に気づけなかったわけだ…。」


そうして、書類をまとめる鳴鐘に塞杖は聞く。


「え…?火喪咲さんって白金あぎとのこと

 知らなかったの?」


それに対し、鳴鐘はうなずく。


「ああ、その証拠に俺たちが白金の別荘に行った時、

 ホコリがずいぶんと積もっていただろう?

 あれは入った人間は俺たちが最初だったという

 証拠にほかならない…それに、火喪咲の場合は先に

 男に連れ出され、後天的に『指ぬき』にされた身だ。

 集落の人間関係なんて、まるでわからなかったはずだ。」


そうして、鳴鐘は書類を棚に戻した。

そして紅茶を一口飲んで考える。


…実は、もうひとつ証拠がある。

白金の別荘、あそこにあった写真と家系図。

あれはおそらく白金あぎとが集落の存在を

外部に漏らさない為に隠したものだろう。


ゆえに、あの場所を知らなかった火喪咲は重要な証拠を見落とし、

ただあの集落にあるものだけでがむしゃらに動くハメになった…。

…だが、こんな話をいまさら塞杖に話しても、もはや何の意味も

もたないことを鳴鐘は知っていた…。


そして、鳴鐘は紅茶の最後の一杯を飲み干すとこう言った。


「…それに、恐らく…恐らくだが、俺の推理がただしければ

あの集落の人口減少に白金あぎとが関わっている可能性もある。

なにしろ、白金あぎとが集落を出て行った時期と日記に書かれた

廃村の老朽化ぐあいがどうも時期的に一致している。

…それに、政府の設置した立ち入り禁止の札。

あれはどう見てもあぎとが出て行った後に立てられた物だ。

だから俺の推測では、あぎとが直接政府の誰かに頼んで…」


…そこまで言った時だ。

玄関からチャイムの音がした。


「はーい、」


そうして蒼い目のままでタパタパと歩いていこうとする

塞杖を引き止めると、鳴鐘はつい先日に設置したドアの

インターホンに話しかける。


「はい、鳴鐘ですが。」


しばしの映像の乱れの後、ドアの向うには宅配業者の男性がいた。

手には宅配便の包みのようなものが抱えられており、

それが重いのかいくどか角度を変えて持ち直すようにして顔を上げる。


「どうも、宅急便ですが、鳴鐘さんですよね?

 ハンコかサインください。」


「ああ、はいはい…。」


そうして鳴鐘はハンコを持ち、ドアを開け…周囲を見渡す。


「あ…れ…?」


そこには誰もいなかった。

宅配業者の人間も、ましてや人の姿すらない。


…気のせいか?帰ったにしてもおかしいし。

そして鳴鐘は奇妙に思いながら

ドアを閉めようとして…動きが止まる。


ドアのかたわらに、立てかけられたひとつの封筒があった。

A4サイズの大きさ、表には住所も、名前も何も書かれていない。


…なんだ?こっちに向けた封筒か?

だが、それにしてもこんなものは怪しすぎる。

…置いておいた方が良いかな?


そしてドアを閉めようとした鳴鐘に、すでに目を戻したのか

黒目に戻った塞杖はのんきな声をあげながら首をのぞかせた。


「なんだー、宅配便の人置いてっちゃったの?

 しょうがないにゃー。」


そうして、ひょいと手でつまむと

塞杖は封筒を中に入れてしまう。


「おい、ちょっとまて、えみり…。」


慌てて鳴鐘は止めようとするが、塞杖は聞く耳を持たないのか

そのまま玄関先でバリバリと封を開けてしまう。


「お、書類じゃん。ちょいと中身をはいけーん。」


そうして、中身を手に取った塞杖はパラパラとめくり…

…急にその動きを止めた。


「おい、だからやめろって…。」


そして塞杖の顔を見た鳴鐘は気づく。

彼女が、蒼い顔をしながら書類を見ている事に。


「…これって…。」


そうして、書類の端をさして塞杖は鳴鐘の顔を見る。

その書類は、そっけない短文が書かれており、

下にはテレビでよく目にする大物政治家の名前が入っていた。


そして書類中央には

『××村、管理者任命についてのお知らせ』

…と書かれている。


それを見て、鳴鐘は思い出した。

八飛の言葉。彼が死の間際に言った言葉。

…あの村は政府の極秘事項で隠匿された村だ…。


政府の村、隠匿された村。

そう、自分たちの行動は把握されていた。

思えば、夢の中で見たあの防空壕は軍の重要施設だった。

食糧難を解決するために設置された場所。

『すなあく』を飼いならし、大量に増やす場所。


それが、今も機能し、

現在の政府はそれを容認しているのか…?


鳴鐘の頬を、冷たい汗が流れていく。

そして鳴鐘はその一番上にある一枚の紙を取り出し、目を通す。


『拝啓、このたびは私どもの管理計画に参加いただき

 ありがとうございます。厳正なる審査の結果、

 鳴鐘さま、塞杖さま、ともに両方々を政府認可の

 特別指定区域の管理者となることをここに容認します。

 また、当指定区域での物の持ち出し、情報の漏洩は

 固く禁じられております。』


「…ええ。どうしよう。」


塞杖はそう言うとぺたんと床にすわりこみ、

困ったように鳴鐘を見上げる。


「あたしたち、もう、政府に監視される立場になっちゃったのかな、

 施設で実験とかさせられちゃうのかな…?」


そうして、今にも泣きそうになる塞杖に

鳴鐘はパラパラと書類をめくると、

ある部分に注目し、首をふる。


「…いや、たぶんこれは政府からの忠告と受け入れだ。

 これ以上、あの村によけいなものを入れるなという警告と

 俺たちはその中の環境を維持する人間として、

 政府から公認された人間になったらしい…でもこれは…。」


そう言うと鳴鐘は一枚の書類を彼女に見せる。


そこには以前から悪夢のように見る

あのドーム状の中の防空壕の写真がうつっていた。


しかし、周囲にあった水や死体は消え失せ、代わりに

中央部にはひと抱えほどの石が静かにたたずんでいる。

そして、その周囲には青い目をした人物たちが

機械や道具で測定をしている様子が写っており…。


「…えみり、たぶん俺たちは思った以上の出来事に遭遇したらしい。

 あの集落…村は文字通りふりだしに戻った。

 防空壕の、あの隕石と『すなあく』と呼ばれた生物は眠っている。

 そして、俺たちはあの事件を再び起こさないようにしていくように

 監視と管理を政府から任されたんだよ…。」


「…え…そうなの?」


まだ理解が追いつかないのか、目を白黒させる塞杖は

やがて疑い深そうに言った。


「…でもさ、何であたしたち?それに、政府がどうして

 こんなにあの村に気をかけるのかわかんないよ。」


その言葉に応えるかのように、鳴鐘は書類をめくり

目当ての書類を見つけるとその一枚を塞杖に差し出した。


「おそらく、その答えは…ここだ。」


それを見て、塞杖は目を丸くする。

「え?え?何で?この人、死んだはずでしょ?」


それに対し、鳴鐘はうなずく。

そう、鳴鐘もうすうす感づいていた。


…そう、の父親…白金あぎと…

彼は故郷である村を出て行った後、政府と提携することで

村の存在を秘匿にし、同時に保護し、外部からの人の侵入を

拒むようにすることで秘密裡に集落の管理をしていた人物だった。


…おそらく彼は憂いていたのだろう。

『すなあく』の野蛮な管理法とそれにすがる住人たちの将来に。


ゆえに、彼は政府と組むと一部の『すなあく』たちを管理をする

人間を残して村の住人を少しずつ移住させ、表向きは廃村として

地図に残さないようにし、これ以上犠牲者が出ないように、人が

寄り付かないように工夫した。


…そして、監視したのだろう。

村が『すなあく』なしでも生きられるか、

『すなあく』から脱却出来るか。


直系の、最初の『指ぬき』の子孫だからこそ考えた行動。

家系図を持ち出した事からその決意の固さが伺える。


…しかし、その結末を彼は見る事無く人生を終えた。

病魔が、いつしか彼を蝕んでいたのだ。


だが、あぎとが政府の中で長い間そのような働きかけをしていたのならば、

病に倒れた際に村を存続出来る次の管理者を望んでいたと考えるのも自然。


そして、もしが村を維持し、管理する立場になれるならば

は喜んでそれに邁進する人間だという事を鳴鐘は知っていた…。


それを塞杖に説明しながら、鳴鐘は書類を見せた。


…そこにはある名前が書かれていた。


『プロジェクト最高責任者・白金あづね』


鳴鐘は言葉を続ける。


「…おそらく彼女は死んでいない。

 日記にも、彼女が消えたとしか書かれていなかった。

 …それに、考えてもみろ。もし彼女が監視する立場だとしたら

 いぜん、集落にいた最後の『指ぬき』や火喪咲の行動を良くは

 思っていなかったはずだ…そして、正しく管理できる人間を

 探すはず…それに、俺たちが選ばれてしまったというわけだ。」


塞杖は言葉をくり返す。


「あたしたちが、選ばれたの…?『指ぬき』として…?」


そして塞杖は、そこまで言ったところで、

ふいに何かに気づいたように封筒をふる。


「あれ?まだ何か入ってる…。」


そして、カサリと出て来たものを見て、塞杖は目を丸くする。


それは、一枚の名刺。

『白金あづね』と書かれた名刺。


「名…刺…?それにこれ、端っこの方に…。」


そうして塞杖が指さす先、

左上にひとつの電話番号が書かれていた。


「…これ、かけろって事かな。」


そう言うと塞杖は不安そうに鳴鐘のほうを見る。

鳴鐘は黙り、その名刺を見つめる。


「…そうだな、おそらくそういうことだ。」


そうして、鳴鐘はスマホを取り出すと、

スピーカーに切り替え、番号をプッシュする。


「そ、そんなすぐにかけちゃっていいの?」

 

慌てる塞杖に、鳴鐘は静かにするようにとジェスチャーをする。


「…おそらくな、確実に俺たちだけに荷物が届くように

 インターフォンに細工をして書類を送るような人物だ。

 きっと、電話をすれば出てくれるに違いない。」


…しばらくして、コール音が鳴り始める、

鳴鐘は静かに電話の相手が出るのを待つ。


何しろ、もう20年の時が経っている。

当時35なら、今は50代半ばというところか…。


…鳴鐘は聞きたかった。

彼女がどのような経緯で父親の意思を継いだのかと。


…鳴鐘は聞きたかった。

彼女はどのような気持ちで今までの事件を見つめていたのかと。


…鳴鐘は聞きたかった。

彼女は今の立場になって、どう感じているのかと。


そうして、数度のコール音がなり止むと、

一人の女性の声が聞こえて来た。


「はい、白金ですが…。」


それは、思ったよりも若い声であった。

50代とは思えない、20代とも通用するような澄んだ声。


それに返事をしようとし、鳴鐘は考え、

…まずはじめに、口をついて出た言葉はこうだった。


「あなたにとって、『すなあく』とは何ですか…?」


そのとき、電話の向こうで女性がかすかに笑った気がした…。

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すなあく 化野生姜 @kano-syouga

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