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「愛華って、そんなにお姉さん好きやった?」

唐突に、ソラちゃんがそんな事を言った。



「え、どうして?」


「だって、さっきからお姉さんお姉さんって…」


そればっかやが、とタイミングを合わせたようにソラちゃんが地面を蹴ってブランコを漕ぎ出す。そしてまだ振りの緩やかな状態で立ち乗りに切り替えた。



「そりゃあ私5年もご無沙汰だったんだから、思い出に浸りたいって思うのは当然だよー。幼少期の思い出って言ったらまずこれかなって」



この公園は私達の恰好の遊び場で、毎日のように通っていたのだから当然だ。


私が東京に住んでいる間、ふとした瞬間に幼少期の思い出に浸ってしまう原因が、赤いリボンのストラップだったのだから尚の事。




「でも確かに、大好きだったなー。ソラちゃんの方がもっとお姉さんにベッタリだったと思うけどね?」


「え、俺?」


「覚えてないの?お姉ちゃんお姉ちゃんって、後ろついて甘えてたでしょ。私にはお姉ちゃんなんて呼んでくれなかったのに…ねぇ、リクちゃん?」


私がからかうみたいにそう言うと、あぁ、と答えたリクちゃんが、「弟みたい、って散々言われてたな」なんて追い討ちをかけるみたいに続ける。



「え、えぇー…」


覚えていないのと、ちょっとした恥じらいとで、腑に落ちないような声を出したソラちゃん。ぐんぐんと勢いをつけ、ブランコを大きく漕いでいる。



「俺って弟なんけ…」

「弟だよー。それも、皆の弟!って感じ」



ソラちゃんは根っからの甘え上手だ。

ひょっとすると本人にそのつもりはないのかもしれないが、

感情が素直に表れる豊かな表情や、初対面の警戒心をも自然と解いてしまうフレンドリーな性格が、ソラちゃんの周りに自然と人を集める。


ソラちゃんの追っかけをしているファンの子達も皆口を揃えて、彼を「かわいい」と賞賛する。なんだか母性本能をくすぐるんだという。


それには私も大いに賛成できる。




とはいえソラちゃんは、ガタイはしっかり運動部所属の男子高校生だし、なんなら若干群を抜いているし、運動だってほぼ全般得意だ。


ファンの子達曰く、そういった面ではソラちゃんは「かっこいい」男子。そしてまた、そのギャップがいいんだそう。




正直、昔からはちょっと想像しにくい今のソラちゃんは、私にとってはまだ違和感がある。



「うーんでもまあ、ソラちゃん結構変わったよね?」

「そうかぁ?相変わらず精神年齢ガキだろ」


う、うん。それは全く否定出来ない。


私は体格やらのことを言ったのだが、普段から見慣れているリクちゃんにとっては、ソラちゃんのそういった変化は然程感じていないみたいだ。



ちらと隣を見て目が合うと、ガキじゃないっ!とソラちゃんがムキになって叫んだ。


そういうところが子供みたいなのだと自覚のないソラちゃんが、分かりやすいほど不機嫌を顔に出しているものだから、堪らずふふふと笑いを漏らしてしまう私。




「俺、弟?」さっきも聞いてきた質問を、再びソラちゃんが口にする。


「うん、かわいい弟」

「じゃあ、陸斗は?」

「リクちゃん?お兄ちゃんかなぁ」

「本当?」

「え、うん」



ソラちゃんは末っ子が一番しっくりくる。

それで、真面目なリクちゃんが一番上のお兄ちゃん、私はその真ん中っ子。



単にままごとみたく言ってるわけじゃない。


一人っ子の私にとって、幼少期時代いつも傍に居てくれた彼らは本当に兄弟のような存在なのだ。




それは高校生になった今でも変わらない。



5年離れていたとはいえ、なんら変わりない彼らのことなら、私はなんでもよくわかってる。


再会を果たした今、私やリクちゃんを追い抜いて身体が大きくなったソラちゃんを見たとしても、私には彼がまだ幼い弟に見える。


私に向けられる警戒心0の無邪気な笑顔や、拗ねたり怒ったりすら隠し切れない素直な表情が、私のよく知るソラちゃん。



だから、



「ん?どうした、空斗?」

「…何が」

「いや、なんかお前…」



知らない。その表情。


今だけ、ソラちゃんが分かりにくい





普段見慣れないソラちゃんの表情はほとんど一瞬の事で、彼にあんな顔をさせたきっかけが何だったのか、結局は分からずじまいだった。



間もなく突拍子もなくボール遊びを提案したソラちゃんは、普段の屈託ない笑顔に戻り、私が賛成の意を示してからは終始子供みたいにはしゃいでいた。



乗り気でないリクちゃんを私が誘い出す間や、渋々了承した彼と私でチームを組むことになった時なんかは、相変わらず分かりやすいほど不機嫌そうに唇を尖らしていた。




2対1の状況に、それならばと全力を出すソラちゃんが敵対心を向けるのは、私ではなく、なんとなく気だるげな表情のリクちゃん。



チーム戦のドッジボールが、いつの間にやら、朝倉兄弟がただボールを奪い合うだけのゲームと化していた。



これのどこにドッジボールの要素が。



最も、たった3人で行うドッジボールに通常ルールを設けられるわけもなく、はなっからドッジボールですらなかったのかもしれないのだけれど。

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