6

「えー…もうお姉さんいないの?」



ソラちゃんの提案で、昔の遊び場だった公園に訪れた私達3人。


しかし、私が強く再会を望んだアイス屋のお姉さんは、どこにも見当たらない。


私は、がっくりと肩を落とした。



「あの人はただのアルバイトだったろ。さすがにもう社会人なんじゃねぇの」


大したことでもないといった表情のリクちゃん。

彼は、ブランコの前に設置された鉄柵に軽くもたれて、カップアイスにさくっとスプーンを刺す。



「残念…リクちゃん知ってたんだ?」

「まぁ」


「ソラちゃんも?」

「ううん、俺は知らんかった」


ブランコに腰掛けるソラちゃんの右手にはコーンアイス。もう片方の手で持った写真を見つめながら「お姉さんいくつやったんやろ」と呟いた。



私は、隣のブランコからずいと上体だけずらして、ソラちゃんの手元の写真を覗く。


「高校生…それか、大学生くらいじゃない?」


それを見る限り、恐らく私達と歳はほとんど変わらないだろう。

整った顔立ちで微笑む彼女は、うーん、やっぱり美音そっくりに見えてならない。


想像よりもずっと幼げだから尚の事。


想像よりも、というのも、記憶の中の彼女は随分と大人びた風貌の『お姉さん』だったはずだからだ。




「なんか、記憶違いな気がするなぁ…」

「俺らが幼すぎたんだろ。ガキん時は周りが皆大人に見えてた、ってだけだ」


「んー」

解せぬ気持ちで、おもむろにスプーンを口元に運ぶ。



口に広がるりんごの甘さに、思わず鼻腔を鳴らした。

…おいしい。



「うまい?」

ソラちゃんがじっと私のカップアイスに注目してくる。


さっきまで、むぐむぐと自分のコーンアイスを頬張りつつ、うまいうまいと連呼していたくせに。もう人のに目移りしてしまっている。


あっという間に残り半分まで食い尽くされたコーンから、鮮やかな水色のソーダアイスが控えめに見えている。相変わらず食べるのが早い。



「はいはい」なんて宥めるみたいに、アイスをすくったスプーンをソラちゃんに向けて差し出した。



彼は、なんの躊躇もなくそれを頬張る。

そして、うまい!となんとも嬉しそうな顔で笑う。


か、かわいい。


いつもの事ながら、見てるこっちが癒されてしまった。



ふと正面を見やると、リクちゃんが自身のアイスにスプーンを突っ突きながら、こちらをじっと見ていた。



食べる?なんて言って首を傾げてみるが、リクちゃんは「いやいい」と素っ気なく答えて目を逸らしてしまった。


何か言いたげにしていたのは分かったのだが、単にアイスが欲しかったのではという考えは的中せず。


「なになに」と、堪らず彼に詰め寄る私。


「何でもねぇって」瞬時に答えるリクちゃん。




益々気になってしまうリクちゃんの態度に、私は更に詰め寄るが、彼は「何でもない」の一点張りでなかなか口を割らない。



昔から言葉足らずのリクちゃんは、よく何か言いたげな表情を見せるくせに、いざこちらが聞くと返答を渋る。我慢しているのか言いづらいだけなのか、それは毎度私には分からない。



さすがにウザがられるかな、なんて思い始めたその時。




「愛華ー」

ソラちゃんが私を呼んだ。



まさか、私がリクちゃんばかり構うからって、拗ねたんじゃないでしょうね。なんて、昔の記憶に囚われるまま振り返ると、そのまさかが的中。不服そうに唇を尖らせたソラちゃんが目に入った。



本音を隠すリクちゃんに私が詰め寄る時は、必ずと言っていい確率でソラちゃんが拗ね出し、そのむくれ顔を宥めようとするあまりに本来の目的を忘れてしまう。


…なーんてことが昔はお決まりのパターンだった。




さすがに涙目で訴えかけてくるほどお子ちゃまではないようだが、未だにわかりやすいほど表に出るソラちゃんのヤキモチは相変わらずだ。



「もうっ!2人とも子供かっ!」

呆れた私は思わず叫んだ。



だが、その厄介な2人の変わり様のなさを、内心では嬉しく感じてしまう自分がいる。



お陰で、昔と何ら変わらず2人に接することが出来ているに違いないのだ。


5年経って、もし2人が別人のようになっていたとしたら、私はもう彼のお姉ちゃんを気取れなかったかもしれないのだ。



この公園も、このアイスも、変わっていなくてよかったと心から思う。



あとは、



お姉さんがいて、カップにリボンがついてさえいたなら…

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