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「懐かしいでしょう?」
ソラちゃんと雰囲気のよく似た愛嬌ある笑顔で、彼女は__ソラちゃんとリクちゃんのお母さんは、私に優しく微笑んだ。それにつられて私の口角も自然と上がる。
「すごく」
リビングのテーブル上に広げられた分厚いアルバム。ページをゆっくりと1枚めくると、懐かしい写真達が目に入った。
半袖Tシャツに短パン姿の小さな3人組が、服や手足のあちこちに砂やら泥やらをくっつけたまま、こちらに向かって満面の笑みを浮かべている。
私の背がぐんと伸びて2人の身長と差がつき始めた、小学4年生の時の写真だ。
この頃既に成長期が来ていた私の背丈は当時の女子の平均身長よりも高く、そのせいあって、写真の中で私の両隣に並ぶ朝倉兄弟が少し小さく見える。また、この頃少しぽっちゃりしていた私に比べ、彼らの身体付きはとても華奢だった。
それが今では、華奢な体格は変わっていないリクちゃんにさえ、離された身長の差は大きい。まして筋肉質高身長なソラちゃんになら尚更だ。
そりゃそうか。
育ち盛りの高2男子が、小6から成長していないわけがなかった。
小柄で泣き虫な弟分……
それが強く印象付いていたせいで、いつの間にやら背も私を追い抜いてたくましくなったソラちゃんに、今の今まで気が付いていなかったように思う。ついさっき半裸姿の彼を見てようやく、ソラちゃんも男の子なんだ、と思った。
どうにも落ち着かない。
ソラちゃんが…もちろんリクちゃんもだが、私の知らぬ間に、私よりも大人びていたのだ。2人の姉貴分を気取っていたこの写真の頃の私は、きっとこんなことは微塵も予想していなかったに違いない。
懐かしのアルバムを食い入るように見つめていると、「りんごジュースは好き?」と言いながら、ソラちゃんママがガラスのコップを3つまとめてテーブル上に置いた。
「大好きです」と私が答えると、ソラちゃんママは心做しか嬉しそうに、うち2つのコップにジュースを注いでいく。
続けて彼女は「陸ちゃんも…飲む?」と妙に緊張した声でリクちゃんに問いかけた。
視線の先、ソファで静かに本を読む彼の後ろ姿を見つめる瞳は優しいままで。
リクちゃんはこちらを振り向かない。「別に、いい」と彼は歯切れ悪く答える。ペラと先のページをめくり、恐らく無意識に左手で髪をくしゃっと崩す。
「……そう」
ソラちゃんママは、ほんの少し眉を下げると静かに一つだけ空のコップを食器棚にしまった。
その直後、ドタバタと階段の方から聞こえてくる足音。一切遠慮を感じさせない。一人分にも関わらずやけに賑やかに聞こえてしまう。
案の定、音源はソラちゃんだった。
リビングに入るなり、「なんやここにいたんか」とソラちゃん。ちょっと不機嫌そう。
ソラちゃんが部屋で着替えている間に私達がリビングへ移動していたものだから、自分が仲間外れにでもされたのかと思って拗ねているのだろう。
「空ちゃん、ジュース飲む?」とソラちゃんママ。
素直にうんと頷いて既に用意されていたジュースを一口飲んだソラちゃんが、「おいしい」と言ってすぐに機嫌を直した。
なんて単純…。
「何見てんの?」アルバムを覗き込むソラちゃん。
私は軽く目を通しながら、1枚、2枚、とアルバムのページを捲った。
「小学校の時の写真。見てこの辺、泥だらけで遊んでる写真ばっかりじゃない?」
「ホントや」
途中、ひたすらページを捲る私の手をソラちゃんが制し、「公園の写真ばっかやなぁ」と呟いた。
遊具やボールで遊ぶ幼い私達が、カメラ目線ではなく、横やら斜め、あるいは背後から写されている。だがそれらに写る私たちはどれも自然な表情だ。
「それは頂いた写真なのよ」
「えっそうなんですか?」
「ええ。どこかに、あなた達と一緒に写ってる写真があると思うわ」
「カメラを持って…」とソラちゃんママが、自身で確認するかのように特徴を述べながら続けてページを捲る。
「そんな写真あったっけ?」とソラちゃん。
「あったわよー。空ちゃんにはちゃんと見せたもの。愛華ちゃんが引っ越した後に貰ったものだから、愛華ちゃんが知らないのは当然だけれど…」
「えー…?」眉間に皺を寄せて、ソラちゃんが手にしたコップに口をつける。
「あった、これよこれ」
ふとソラちゃんママが、ページを捲る手を止めた。
見ると、それはたった1枚だけ、私達3人と共に綺麗なお姉さんが写った写真。
「あ!」思わず私は声を張ってしまった。
それに驚いたのか、ジュースを飲もうとしていたソラちゃんが、「ぅわっ」と声を上げて慌てて手を止めた。
「び、っくりしたー…」
「あはは、ごめんごめん」
私が少し音量を下げてそう言うと、ソラちゃんがあははと笑いながら、「だれだれ?」とアルバムを覗き込んできた。
少しの間の後、ソラちゃんは「ふぅん」と気の抜けたような声を漏らす。そのままコップの中身を一気に飲み干すと、「ね、外行こう外!」と相変わらず突拍子もないことを言い出した。
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