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「わ!なんか踏んだっ」
足元のそれを拾い上げると、脱ぎ捨てられてくしゃくしゃと皺が寄ったソラちゃんのパーカーだった。
もー、と頬を膨らませつつパーカーの皺を伸ばして畳む。
前方を見ると、その他に脱ぎ捨てられた服やら教材やらが床に散らばり我が物顔で辺りを陣取っている。
カーテンや回転椅子のクッション部分はブルーを基調とし、色は違えどリクちゃんの部屋と似たり寄ったりに配置された家具。
ただ、壁に貼られたポスターだったり、漫画だらけで本が1冊も見当たらない本棚だったり、殺風景なリクちゃんの部屋とはまるで雰囲気が違う。
「ったくひでぇな…」
後方から続いてソラちゃんの部屋に入ってきたリクちゃんが、床に散らばる物を爪先歩きで避けながら勢いに任せて中央まで躍り出た。
「リクちゃんのと違って…なんて言うか、賑やかな部屋だねぇ」
「要は目にうるさいんだろ」
「んん、そうね」
私もリクちゃんも2人揃ってふっと息を吐くと、開放されたドアの向こうからリリンと軽快な鈴の音がした。
足元をするりと抜けてにゃーんと控えめな声を出したのは、くりくりした目が愛らしい1匹のキジトラ猫。
「あらららっ雪ちゃーんっ」
反射的な私の猫撫で声に振り向きもせず、
くるりと方向を変えた勢いで、長い尻尾がサイドテーブル上の写真立てを叩く。
カタンと音を立ててそれは前方に倒れた。
何か下敷きになっているのだろうか、倒された写真立てと台に隙間が生じている。
「…ぉ」
リクちゃんが小さく声を漏らす。
てっきり
階段からドタバタと元気のいい足音が聞こえる。それをリクちゃんは黙って聞いている。
「ソラちゃん帰ってきた?」
「ん?とっくに帰ってきてたぞ」
「うそぉ!」
私がドアからひょいと顔を出すと、2階へ上がってきていたらしいソラちゃんの姿を見つけた。
「うわぁおっと、イイ肉体美デスネ…」
…上半身裸の。
びしょ濡れな頭をタオルでわしゃわしゃと拭いていたソラちゃんは、突然部屋から飛び出してきた私に驚いて、咄嗟にぴたと動きを止めた。
「えぇあれっ、愛華!?」
ソラちゃんが素っ頓狂のような声を上げる。
ソラちゃんは慌てた様子で階段を駆け上がり、私とリクちゃんを部屋の外に押し出すなり勢いよく扉を閉めた。
「なんっ…勝手にっ…」
ドアノブを握りしめ固定した拳を背に、あわあわと明らかに動揺するソラちゃん。
自分の部屋を隠すのに必死で一向に自分の半裸を隠そうとしないソラちゃんに、思わず私は心の中で、隠す場所違うでしょっ!と鋭く突っ込んだ。
私の右隣には「服を着ろ」と呆れ顔のリクちゃん。
全く同感だ。
「え?むしろ暑いし大丈夫なんやけど」
「風邪の心配してんじゃねんだわ」
リクちゃんの鋭いツッコミを受け、一瞬ムッとして唇を尖らすソラちゃん。
私に救済を求めようとしたのか、ちらと視線を向けてきてくりくりした目でこちらに訴えかけてくる。
そんな可愛い子犬顔をされても、私にはソラちゃんの上半身しか目に入らない。ここぞとばかりに主張してくる筋肉のせいで全くもって説得力がない。
私はふいと目線を逸らした。
徐々に熱を帯びてくる頬を両掌で抑えながら。
「ぇ、っと……え?」
私の両頬の熱が伝染でもしたのか、ソラちゃんの余裕な表情が崩れぽぽっと頬に赤みがさしてきた。やっと理解してくれたらしい。
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