3
リクちゃんは、毎朝私とソラちゃんが2人で登校する頃には既に家を出た後で、お互いの教室が遠いせいなのか学校でも遭遇する機会がない。放課後に至っても彼の帰宅は遅い。
だからかもしれないが、私がこっちに戻ってきて1ヶ月も経つというのにまだほとんどリクちゃんとまともに会話をしていなかった。
リクちゃんは私と同じく帰宅部であるが、その代わり、去年からずっと生徒会役員として活動しているらしい。
学期が変わる度に生徒会役員は全て選挙のし直しをされるはずだが、それでも毎度当選していたらしいリクちゃんはよっぽど人望が厚いのだろう。
昨年度の前期、後期は生徒会書記。
加えて今は、水羽高校の生徒会副会長様だ。
ただ放課後真っ直ぐ家に帰るだけの私とはわけが違う。
私となかなか顔を合わせられなかったのはきっとその忙しさ故なのだろう。
「リクちゃん全然会いに来てくれないから、てっきりもう私のこと忘れてるのかと思っちゃった」
若干冗談じみたことを口をすぼめてぽそぽそと呟くと、その行動を真に受けたらしいリクちゃんが、間髪入れずに「まさか」と言った。
昔から感情をあまり表に出さないタイプだった彼だが、無意識に髪を触る癖を見るに、恐らく彼は今困っている。
賢いくせにこういう冗談を悟る能力だけは何故か乏しい彼は、多分根が真面目過ぎるのだ。
「そういえば、ソラちゃんの部活って昼には終わるんだよね?」
「あぁ」
昨日は強歩大会だったにも関わらず、うちの学校の運動部のほとんどがさも当然のように朝から部活動に励んでいるらしい。
バスケ部のソラちゃんと嘉宮くん、それから陸上部のなっちゃんがそうだ。
今日からゴールデンウィークだと言うのに、相変わらず忙しそうだ。
それに引き換え帰宅部である私は今、今日からゴールデンウィークであるのをいいことに、他人事のように私服でのんびり休息をとっている。
もっと言えば、朝からリクちゃんの部屋に居候させてもらっている。
本当は幼馴染3人で遊ぶつもりで来たのだが、残念ながらソラちゃんは不在。昼にならないと帰ってこないらしいことを知り、ならばそれまでリクちゃんと世間話でも、という考えで今に至るわけだ。
「そろそろソラちゃん帰ってくるかな?」
壁に掛けられた時計はもうすぐ13時を示す。
「多分な。心配なら、空斗に連絡入れておいたらどうだ」
「遊びに来てるよ、って?」
「全速力で帰ってくるだろうな」
「ふふ、なんか想像つくかも」
私の脳裏をよぎったビジョンは、犬の耳と尻尾をピンと生やしたソラちゃんだった。実際生えるわけなどないのだが、ソラちゃんを見ている時、思い出した時、どういうわけかいつもその無邪気な笑顔に愛らしい犬を連想させてしまう。
「ん?連絡しなくていいのか」
私が一向にスマートフォンに手を伸ばさないのを、リクちゃんは意外そうに指摘する。
「いーの。今話してるのはリクちゃんとなんだから」
今までソラちゃんに気を取られるばかりでリクちゃんとはまだ全然話せていなかったのだから、こうして時間の取れる時にでも沢山話しておかないと。それから、懐かしいこの部屋の思い出にも浸りたい。
カーテンや回転椅子のクッション部分はグリーンを基調とし、勉強机やベッド以外特に何も置かれていない、私の部屋に比べると随分小綺麗で殺風景なリクちゃんの部屋。
昔よく私とソラちゃん、リクちゃんの3人で遊んでいた部屋だ。
当時この1室はソラちゃんとリクちゃんの共用で、2人分の勉強机や2段ベッド、それから大量のおもちゃが散乱していたことで今より大分部屋が狭い印象だったのを覚えている。
「今はきちんと整頓されてるんだね」
「部屋を散らかすのは空斗だったからな。アイツの私物さえなきゃ散らからない」
「ならソラちゃんの部屋は」
「足の踏み場もねぇ」呆れ顔でリクちゃんが呟く。
やっぱり…と苦笑しつつ、むしろ見てみたいなどと思ってしまう。
あわよくばソラちゃんが帰宅する前に掃除を…なんて考えてしまった私にはやはりソラちゃんがかわいい弟にしか見えないようだ。
美音が私を保護者だと言ったのはこういうところかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます