最終話 周回者たち

「まさか、前回のレイナなのか?」


 突如現れた光り輝くレイナに、タケルが期待を込めて問いかけた。

 しかし、そのレイナは首を振る。


「じゃあ、一体・・・・・・」


 タケルの言葉が続く前に、魔王達が動いた。

 彼らは謎の敵を放置しておくほど平和ボケしていなかったのだ。


 迫り来る、魔王達の猛攻。最新の魔王に至っては弱い魔王から武器を借り受け、同じ聖剣の二刀流で攻撃してくる。

 だというのに、光り輝くレイナはそれを難なく受け流していった。


「ば、馬鹿な・・・・・・! 覚醒級の力だとでも言うのか・・・・・・!?」


 常に余裕をもっていたいつもの魔王でさえ慌てふためく。

 その驚きは、タケルも同じだった。


 たとえナンバーズのレイナであっても、魔王の攻撃を防ぎきれるほどの力はなかったはずだ。


 一体このレイナは、どのレイナなんだ・・・・・・?

 そんな意味不明な疑問がタケルの頭を占める。


「私は、今回のレイナです」


 今回のレイナ、という言葉にタケルがピクリと反応する。

 しかしすぐに冷静になり、この117周目のレイナということだろう、と納得した。確かに今回は、タケルがこの世界に来たときレイナを見かけなかった。


 だが、それでも彼女がここまで強い理由にはなっていない。周回を繰り返す度に人のステータスは底上げされるが、ここまで劇的な変化はあり得ないからだ。


「不思議そうな顔をしていますね、タケル」

「そりゃあ・・・・・・」


 いつものレイナとは口調さえ違う光り輝くレイナが振り返ったので、タケルは頷いた。


 その途端、光り輝くレイナの体から、無数の人影が飛び出て宙に浮かんだ。それらに実体はなく、幻影のようなものだと分かる。


「この幻影は・・・・・・これまでのレイナ!?」

「えぇ、そうです。私はこれまでのレイナの集合体なのです」


 光り輝くレイナから飛び出たレイナ達は、全て見覚えのあるレイナ達だった。

 そこでタケルは違和感を覚える。


「あれ? じゃあ、今転がってるレイナ達は・・・・・・?」

「魂の抜け殻です」


 予想外の言葉に度肝を抜かれてから、タケルは再びレイナ達に手を触れた。冷たい。


 し・・・・・・死んでる・・・・・・!!!


「今回のレイナを依り代に、これまで全てのレイナが合体した存在・・・・・・。それこそが私・・・・・・言うなれば、レイナ・コンバインドなのです」

「レイナ・コンバインド・・・・・・!」


 まぁたレイナが得体の知れない物になったぁ! タケルはまた、頭痛を覚える。慢性的な頭痛だ。


「あれ。ということは、この中には前回のレイナもいるってことか!?」


 今更気づいてタケルが幻影を見渡すと、その中にタケルは前回のレイナを見つけた。他のレイナの外見が大抵奇抜なので、探したらすぐに分かった。


「ええ、私は今回のレイナであり、最初のレイナであり、前回のレイナでもある包括的存在。周回特典に関わらず、私は全てのレイナなのです」

「よ、良かった・・・・・・!」


 前回のレイナが完全消滅してしまったんじゃないかという不安が消え、再び熱い思いがタケルを満たした。

 これで、また戦える。


 諦めから立ち直ったタケルは再び覚醒状態になった。

 レイナ・コンバインドを攻撃し続けても倒しきれなかった魔王達が、新たな脅威におののく・・・・・・が。


「ていっ」


 レイナ・コンバインドの軽い一声と同時に、タケルの覚醒状態はかき消えた。


 より正確に言うならば、軽い一声と共に放たれた、レイナ・コンバインドのタケルに対する痛烈な一撃と同時に。


「ぐはぁっ・・・・・・!」


 突然の攻撃に対応することも出来ず、タケルは口から血を吐きながら吹き飛んだ。

 タケルも魔王も、唖然とするしかない。


「え!? え!? なんで今俺が殴られたの!? 俺が奮起して魔王を倒す流れだったよね!?」

「馬鹿じゃないんですか」


 もっともだと思われるタケルの叫びを、レイナ・コンバインドが丁寧語のまま非難した。


「私はレイナの集合体。あなたに反感をもっているレイナの比率は、90%を優に超えています。こうなればもう、あなたを攻撃しない理由がありません」

「なんてこった!」


 仲間が助けに来たと思ったら、敵が増えただけだったようだ。タケルはまた諦めそうになる。

 が、レイナ・コンバインドもタケルを攻撃したかっただけというわけではないらしい。未だに背中に魔王の攻撃を受け続け、タケルを守っている。


「今、私が伝えたいこと、なんだか分かりませんか」

「いや、全然・・・・・・。・・・・・・痛み・・・・・・?」


 血がドパドパと吹き出る口を押さえながら、タケルが首を傾げた。

 痛み以外、何も感じられない。


「違いますよ。私はあくまでも、どこまでも、レイナの集合体だと言うことが言いたいのです・・・・・・!」


 相変わらず分からない、と思考放棄しそうになったが、そこで前回のレイナの言葉がいくつも思い出された。


 ここでレイナを理解できないことはいつものことだと、些事であると投げ出したら、いつもと同じじゃないか・・・・・・!

 タケルは久しぶりに自分からレイナの言葉に耳を傾け、意味を考えた。


「レイナの集合体・・・・・・。要するに、レイナは一人じゃない・・・・・・」

「もう一押し・・・・・・!」


 結論まで誘導してくるレイナ・コンバインドであった。


「レイナは一人じゃない・・・・・・。レイナは全て、平等に扱えと・・・・・・? 不当な差別を許すな、と・・・・・・?」

「大体正解です!」


 レイナ・コンバインドの後ろに浮かぶレイナ達が動き、円を描いた。大丸だぁ!


「どのレイナも、レイナなのです。良いレイナも、悪いレイナもいたでしょう。便利なレイナも迷惑なレイナも、超合金のレイナもいたでしょう。ついでに言えば、迷惑成分が九割だったでしょう」

「自覚はしてたんだな」

「だけどどのレイナも、同じ、レイナなのです! どれか特別な一人を大事にすれば良いんじゃない」

「そりゃ迷惑成分が九割なら、どれも同じようなもんだわな」


 でも、言いたいことは分かった。

 何か大きな冒険を求めるのも良いことだし、特定のレイナを愛するのも良いことだ。

 だけど、それは日常を、他のレイナを軽視する理由にはならないのだ。


 たとえ悪いレイナとも、真摯に向き合わなければ何も始まらない。

 レイナは合体してまで、それを示してくれようとしたのだ。もう少し方法があるだろうとタケルは思ったが。


「何をペチャペチャ喋っておるのだぁ!」


 魔王達がもっともなことを言って、レイナ・コンバインドに決死の一撃を仕掛けてきた。タケルも反撃しようとする。

 しかし、どちらの攻撃もレイナ・コンバインドに阻まれる。同時に、タケルもレイナ・コンバインドの攻撃を受けた。


「ぐはぁっ!」

「ぐはぁっ!」


 同じような声を上げながら、タケルと魔王達が吹き飛ばされる。


 何故殴られたのか分からないながらも、これも理由があるのだろうと分かっていたのでタケルは一切反論しなかった。

 どころか、正座の姿勢で受け身を取って、レイナ・コンバインドに教えを請う体勢だ。


「今のは何がいけなかったんでしょうか!」

「このまま争ってもまた世界をやり直してしまうだけでしょうが・・・・・・!」


 今度は教え云々ではなく、普通に合理的な話だった。

 確かにと思いながら、タケルは頷く。今や完全にレイナの傀儡と化していた。力量の差が違いすぎるのだ。


 おそらく、タケルが気にしていなかったレイナ達にも、積み重なればそれだけの重みがあったということなのだろう。


「タケル、薄々感づいているとは思いますが、女神はあなたの願いに反応して世界のやり直しをさせていただけなのです。彼女の言う仕事というのが、そのままあなたの願いを指していたのです」

「そうだったのか・・・・・・」


 全然気づいてなかった。


「となれば、この状況を打破する方法は・・・・・・」


 レイナ・コンバインドが答えを言い切る前に、今度はタケルから動いた。

 自分が何をすべきなのか・・・・・・この答えに辿り着くまで何周分も遠回りしたけれど、逆に言えば、それだけの積み重ねがタケルに確信を与えていたのだ。


 タケルは魔王の目の前まで歩いて行き、右手を差し出した。


「なんだ? 俺達と和解でもするつもりか? 俺は認めないぞ、これまで勇者を倒すためだけに生きてきたのだからな・・・・・・!」


 しかし、いつもの魔王は激高するばかりで手を差し出すことはない。レイナの乱入で、心が乱れまくっていた。


「和解したくないというならば、それでもいい。ただ、俺を殺さないでくれ」

「・・・・・・? ここに来て命乞いか・・・・・・?」


 流石に驚いたのか、魔王達は攻撃しようとしていた手を一瞬止めた。

 レイナ・コンバインドと覚醒の力を持ってすれば、魔王達も倒せるはずだろうに。このタイミングで命乞いか、と。


 しかし、タケルは首を振る。


「違う。共同戦線を張らないかと言っているんだ」

「共同戦線・・・・・・? 何に対してだ?」


 いつもの魔王が、思わずレイナ・コンバインドを見た。

 おっかないから撃退しようという話だろうか。


「運命に対してだ」


 魔王の推測に反して、タケルの解答はまたもや魔王の想像の埒外だった。なんというか、曖昧。


「俺はずっと、いつまでも特別なものであろうとしていた。その結果がこの周回なんだろう。強くてニューゲームなんだろう。・・・・・・だけど違う、ただの日常だって、運命に流されさえしなければ全部が特別になるんだ」

「それが俺達に何の関係があると言うんだ! 俺達はただ、勇者を倒すことだけを望んで・・・・・・!」

「自分の肩書きに縛られて、勇者で有り続けようと望んだ結果がこれだと言っているんだ」

「・・・・・・!」


 いつもの魔王が目を見開いた。

 こうはなりたくない、という思いがありありと見える。失礼なやつだった。


「自分はこういうものだと規定して、それに従って生きていくとか。そういうことをしてたら、何も進まないんだよ」


 また、前回のレイナの言葉が思い出される。

 牢屋に過ごすことに慣れたレイナ達に叫んだ言葉だ。こんなところにいても、何も変わらない―――。


「だから魔王は勇者を倒すべきだなんて運命に囚われるな。俺達は俺達で、日常の中にだって、自分のやるべきこと、やりたいことを探さなければいけないんだ」

「・・・・・・」


 タケルの言葉に、いつもの魔王が頷いた。


「確かに今思えば、俺達にはお前を倒す理由がないな。分かった、魔王軍を解散する」


 魔王軍が解散された。


「これで・・・・・・良かったんだよな・・・・・・」

「いや、それは流石に良くないんじゃないかな?」


 予想以上に潔くて、タケルはびっくりしてしまった。

 潔いとか以前に、完全に職務放棄してやいないか。


 でも、運命に負けない力というのはこういうことなのかもしれない。

 自分は平民だからとか勇者だからとか、そんな流れに縛られているから、日常が味気なく感じてしまうのだ。


「俺も魔王に負けないように、この周回から抜け出さなければな・・・・・・。俺自身が定めた、呪縛から・・・・・・」


 結局、日常を同じことの繰り返しにしているものは、運命なんてものは・・・・・・社会でも世界でもなく、自分なのだろう。


「その手伝いなら、してあげても良いわよ」


 タケルの後ろから、声が聞こえてきた。

 聞き慣れたレイナ達の口調だ。タケルに伝えたいことを伝えられたため、合体を解いたのだろう。


 これからはどのレイナも大事にしよう、と決心しながら後ろを振り返り・・・・・・凄まじい衝撃を受けた。


「うわあああああああああああ!」


 分離に失敗したのか、それともさっきまで光りのベールで隠していただけなのか。

 全てのレイナの特徴を混在させた、人外の何かがタケルを見つめていた。


「私のことは地球外フランダースの寄生型メタルスーパーハイパー融解・・・・・・いいえ、長いからレイナと呼んでちょうだい」

「うわああああああああああああ! うわあああああああああああ!」


 一時期は言語能力を失うくらいにショックを受けたタケルだったが・・・・・・。


 日常の中にいれば慣れもするものである。こういうところも日常って凄いよなと思いながら、タケルはレイナと一緒に自分のやるべきことを探しに行くのだった……。

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この世界も百周以上したので、いつも勝手についてくるメインヒロインが百人を越えてる @syakariki

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