概念の存在はストロング0


 拍子抜けとはこのことを言うのだろう。


 褐色巨乳角美少女レティシアが白旗を振っている。大神官とアニスもおずおずと立ち上がる。


「な、何を今更言っているのですか!これまで人類にあなた方が何をしてきたか!

「それはこっちのセリフだよ!でもそれどころじゃないのはわかる!?概念レベルの怪物だよ!そいつ!世界を救うことも滅ぼすこともできるよ!?」


 大神官とレティシアが罵り合う。それを見ながら俺はまたストロング0の缶を開ける。


「とりあえず飲むか?」

「え?」

「酒を酌み交わしたら仲良くなるなんて馬鹿なことは言わん。しかし俺はそれぞれがどうしてこうなったかを知らん。なんで、まずは話を聞きたい。まして白旗掲げるってんならな」


 勢いに乗せられて、レティシアがストロング0を飲む。思わず咳き込んでるのを見てアニスがニヤける。そら魔王とか言われてる相手が、しょうもないことで弱味見せてたりしたらな。


「ゲホっ!……立ち話もちょっとなんだね」

「それもそうだな。雨も強くなってきたし」

「その前に」


 急にアニスが大神官の背後から顔を出す。


「下着の店行くんでしょ?」

「あっ」

「下着?」

「魔王の人もくる?中々いいのあるよ」

「へっ?いいといえばいいけど……」


 こうして女の子たちは下着の店に向かうことになってしまった。俺?俺は店先で手持ち無沙汰だ。ロング缶にダブルコンクぶち込んで飲んでやろうか?むしろダブルコンク直飲みするぞ。ダブルコンク直飲みに俺が挑戦していると、魔王たちがやってきた。


「け、結構いいのあるね?」

「そ、そうですね……」

「ちょっとあんたなに飲んでるの!?」

「ダブルコンクだが何か?」

「そういう酔っ払いの病気みたいなことやめなよ」


 実際問題似たようなもんだろ。下着の件は片付いたようなので、俺たちは手近な料理屋に入る。店にはそれなりに人がいたが、個室が空いていたのでひとまず入ることにした。大神官がチップを握らせているが、なるべくなら一般人パンピーには聞かれたくないこともあるのでありがたい。


「それでだ。食い物も頼んだことだし大神官と魔王に聞きたい。概念ってどういうことだ?」


 揚げ物とか色々頼んだあと、俺は早速2人にそう聞いてみた。何かの脚をかじりながらレティシアが切り出す。


「異能者の能力ってのは、一般的には無から有を生み出すことなんてできないはず。しかしそこのあんたは、できるんだろ?そのストなんとかって酒をほぼ無尽蔵に」

「完全に無から有ってわけじゃないがな」

「でも何もないところから意志の力で何かを出すってことはできるってことだよね?やっぱりおかしいんだよ。それが概念レベルって話」

「つまり考えてたことがそのまま実現しているようなものだと?」

「そういうことだね」


 魔王と大神官の話を聞きつつ、鶏肉?だと思われるものを食べる。くそなんかイマイチだなこいつ。……待てよ?


「ちょっと待ってろ。ケンカとかすんなよ」

「どこ行くのよ?」

「料理を思いついた。やってみたいことがあるんで厨房借りるぞ」

「え?え?」


 大神官と魔王、そして何か食ってるアニスをあとに、俺は料理屋の厨房に向かった。大神官に貰った金貨をコックに握らせ、ついでにストロング0も握らせる。あとで飲んでくれ。


 厨房で作った料理を持ってきた俺は、三人に早速そいつを振る舞うことにした。


「これは?」

「ストロング0で下味をつけて、さっとアルコール飛ばしたあと唐揚げにしてみた」

「唐揚げ?」

「いいから食べてみろ」


 三人の娘っこたちにストロング0唐揚げを振る舞う。おっかなびっくり食べる三人だが、次第に表情が柔らかくなってくる。


「美味しい!」

「唐揚げっていうのこれ?揚げただけなのに?」

「油は新鮮なやつ使ったがな」


 女の子たちとはいえ若い子達だから結構食べる。よかった、さすがにたくさん作りすぎたと思ったぞ。


「こんなの美味しいけど太りそうな…」

「太る?そんなの動けばいいじゃん」

「あなたみたいに体力仕事だけしてるんじゃないんです!」

「そっちこそもっと食べて肉つけなよ!」

「おまえらモメるなら飲ますぞ」


 大神官と魔王がすっと止まる。そらな。ストロング0は中々キツかろう。アニス食い過ぎだ!唐揚げに串を刺して自分のぶんをかくほする。


「それにしても」

「なんだ魔王」

「想定してたことだけど精神効果を無効化する、それどころかこちらも取り込みにかかる……ここまでくると勝てる気がしない。ならばサカイ」


 急に改まってどうしたんだ?


「あんたとはやり合う気はない。こっちとしちゃ目的は人間じゃないんだ。神を殺せれば、それでいい。あんたのその力、あんたをこっちに連れてきた、あのくそったれな神を殺せるんじゃない?」

「神を?」


 ちょっと待て。神を殺すだと?もしかして俺が死んだ時のあのよくわからないところの声、あれが神だったというのか?


「俺はでも、あそこで何者でもないから消滅させる、と言われていたんだぞ?」

「何者でもないならどうして魔物を全滅させたりできる?あんたもっと自信持ちなよ?」

「概念レベルの能力ならあるいは……しかし人間が神を殺すなど……」

「大神官は反対なんだろ?」


 そりゃそうだろ、神官なんだから神を殺したいなんて思っちゃいかんわな。しかし大神官の目が冷たい。


「神はこれまで、異能者を異界渡りで送ってきました。そして魔物と戦わせ、死なせていきました」

「こちらからしたら異能者がどんどん攻めてくるから、反撃せざるを得ないよ」

「ええ。しかし人間の側も神に逆らえない仕掛けが作られていたのです」

「え?」

「神に逆らう者には非業の死が訪れる。実際これまで多くの異能者が死んでいきました」

「マジかよ」


 魔王と俺は声も出なかった。神というより邪神じゃねぇかそいつ。


「しかし……ここに来て神と戦える可能性が現れました。それがあなたです」

「なんだと?」

「じゃあ!」

「私たちは表立ってとは言いません。しかし……」

「……あんたも苦労したんだな」


 魔王が大神官の肩をそっと抱いて慰めている。なんかいいなこういうの。どっちもアルコールで顔赤いけど。赤いけど。


「にしても、神をぶっ殺すなんて言ったって、神はどこにいんだよ」

「神殿に神へと繋がる道があります。しかしそこには神を護る存在がいます」

「神龍」

「はい」


 なんとなくその単語聞くとトラウマあるんだよ。スピード早すぎるんだよあいつら。なにとは言わないけど。


「神への道に向かいますか?」

「しかないだろ。魔王も行くのか?」

「当たり前だろ?あんただけにいいカッコさせてたまるか」

「これで……私も……」

「大神官も来い。あんたも多分狙われるだろ神に」

「え?」

「こいつ飲んでみろ」


 そうだ。神酒ストロング0なら神にケンカ売れるんじゃないか?神による非業の死も防げるか?


「エラー:人間には適合しません。異能:ストロング0(概念)を解放……エラー:レベルが足りません」


 ここにきてレベル不足かよ。しかしストロング0の概念ってなんだよ。単なる酒じゃねぇ?


「レベル上げするか」

「ちょっと!私たち狩るのやめてよ!」

「まさか人間は……」

「とりあえず今日は寝るぞ。明日」


 俺は魔王と大神官、そしてまだ唐揚げ食ってるアニスに向かって力強く宣言した。


「神龍を、そして神をぶっ殺す」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る