ディバイド・バイ・ストロング0


 乗り合い馬車に飛び乗って数時間、ようやく目的の神殿が見えてきた。あの神殿が神に至る道を封印しているのか。


 今、俺は一人でここにやってきている。女の子たちにはちょっと二日酔いになってもらった。これから先はおそらく厄介なこと

しかないだろう。そりゃ大神官とか魔王とか強いだろうけど、相手がもっと強かったら俺の目の前で死なれるんだぞ?そんなの俺はイヤだ。そして俺のストロング0なら、大概の状況はどうにかできるだろう。伝令の兵士に言伝を残しておくことにした。みんな達者でな。


 景気付けにストロング0スーパーを呷る。もう売ってないんだよな地球には。12%はさすがに人類には早過ぎたんだ。神殿の前にいる衛兵たちが、目の前で槍を交差させる。


「何者だ」

「通りすがりの、ただの酔っ払いだ。スト……」

「そのような者を通すと思うか?」


 衛兵がこちらに槍を構えて向ける。しばらくその状態が続くも、二人とも昏倒した。


「やっぱり強過ぎるだろこの能力いのう!」


 自らの異能に震えながら先に進むことにした。衛兵が現れるたび、ストロング0ダブルコンクを体内に送り込む。安心しろ。ちょっと酔っ払いになるだけだ。


 しばらく行くと、封印されている扉があった。はて。ふと思う。ストロング0で吹き飛ばすとして、どうやって吹き飛ばすか。


「ストロング0サーバーを最大出力で、ぶっ放してみるか」


 高圧のストロング0サーバーを封印に向けて放出する。水圧も、数百気圧かければ壁にすら穴を開けられるはずだ。サーバーの圧力を、想像できる限り高圧にするイメージを描く。放たれたストロング0の水流は、極太のビームのように封印に吸い込まれていく。封印に大穴が穿たれる。やっぱり強過ぎるなこれ。


「行くか」


 大穴から何も考えず入って行く。封印の先はほのかに明るかった。暗闇かと思ったんだが……暗闇ではストロング0の能力では、吹き飛ばすくらいしかできないから助かる。


 一本道をひたすら進む。空虚な空間だ。周囲は十分明るいのに、言いようのない不安感が俺を襲う。ストロング0の缶を開け、口をつける。完全にアル中の行動だが落ち着きはする。


「敵を察知とかできないからな」


 最大出力のストロング0サーバーをもう一度ぶっ放す。ここの守護者がいたようだが、俺のところにたどり着く前に力尽きたな。


「そういえば……そろそろいるな」


 雑魚守護者と違って、遠隔ストロング0サーバーの一撃を食らってもなんともない巨大な存在が目の前にいた。こいつか神龍。


 神龍はもうすでに怒りを覚えているようだ。当然だろうな。高圧のストロング0による砲撃を何度も繰り返し食らっているのだ。ダメージがないわけはない。


「何をしにきた下等な存在よ」

「ちょっと神を殺しにきた」

「痴れ者が」


 神龍の口が光る。その瞬間に俺は技をくわらす。口の目前からストロング0が放出され、神龍の口から放たれる光を相殺した。


「なん……だとっ……!?」

「遠隔ストロング0サーバーの発動点を変えた。さすがにやるな」

「下等存在がっ!!」


 神龍の野郎、口以外からも光柱を放出しようとしている。させるか!こちらも複数の遠隔ストロング0サーバーを展開する。光柱とストロング0サーバーが全て相殺される。アルコールと香料の匂いが周囲に漂う。


「信じられぬ。これが……下等な存在だと……?」

「下等な存在とか舐めたことぬかしてんじゃねぇぞ!ぶち殺すクソトカゲ!」


 こうなったら出し惜しみなしだ!高圧のストロング0サーバーの射点を全方位に展開してくれる!メッセージ画面に文字列が現れる。


「異能:ストロング0:オールレンジが解放されました」


「ど、どこからだとぉ!?」

「くたばれ」


 全方位から放たれた高圧ストロング0の前に、神龍もついに力尽きたようである。


「この……力……神の……とでもいうの……か……?」

「さぁな」


 知ったことか。神龍は俺のことを怨みと恐怖の目で見ながら、絶命したようだ。目の前に文字が出現する。


「レベルアップ。異能:ストロング0:概念が解放」


 これか。ついに俺は神とやらと戦う資格を手に入れたってことか。ふざけた神を殺しに行く。俺のことはともかく、この世界の人々や存在を弄んだ腐った存在を始末しないとな。


 道はひたすらまっすぐである。何もない。


 まるで自分の存在が曖昧になるかのようだ。ストロング0のロング缶を立て続けに二本飲み干す。歩き続けるうち、突然目の前から道が消えた。いや、真っ白な空間に俺は放り出されたのだ。


 落ちる?いや落ちることも浮かぶこともない。。なんでこの空間はそれなのに、人間の視覚で確認できるんだ?なのか?


「脆弱な人間の身でここに自力でたどり着くとは……」

「知るかよ」


 目の前に白い光の玉が存在している。


「排除したはずのお前がなぜここに?」

「それこそ知るかよ。こいつのせいかもな。こい!ストロング0!」


 手元にストロング0が出現する。そうだ。これこそが俺の力の源泉。


「なんだと!人間の身で概念的な存在にまでなり得ただと?」

「どちらかというと逆だろうな。俺のほうがおまけだ。概念になったのはストロング0だ!」

「そんな……人間が物体に新たな抽象化した概念を与えたとでも?貴様らは神にでもなったつもりか!」

「てめぇの方こそ抽象化された概念の塊みたいなもんだろうがクソ神が!」


 手元のストロング0を飲む。神がこちらを消滅させる攻撃を放ってくるようだ。


「あり得ない!あり得ないことだ!貴様はぁ!」

「そろそろふざけたこの話も終わりだ。死んだ神がどこに行くかは知らんが!てめぇはくたばれクソ神!」


 無数の光弾をかいくぐり、神の本体を殴りつける。殴り続けながらのっぺらぼうの神の本体を変形させた。こうなったら目と口でもつけてやる。そこからストロング0を大量に流し込む。


「トドメだ!ディバイド・バイ・ストロング0!」


 膨大なストロング0の奔流とともに、光の球体から、光が喪われる。


 急に真っ暗な空間に俺は放り出された。神殺しの結末はこれか。悪くはないな。しかし俺はいつまでこうしてればいいんだよ?地獄よりタチ悪くないか?


 アタマの中で声がする。


『ありがとうございます』

「?」

『わたしはこの世界を維持していた存在です』

「さっき倒しただろうが」

『先程のあの神を名乗る異形の概念に封じられていました』


 なんだと。どおりで神っぽくないと思ってたわあれ。こっちが本来の神か。


『あの存在もまた人間が生み出した概念の集合体といえます』

「つまりラノベとかに出てくる神の概念みたいなもんだろうか」

『だいたい合ってます。あなた方の世界よりこの世界の方が抽象化された世界といえ、そのせいであなた方の世界より、様々な概念がもたらされたのです』

「厄介な世界だな」

『ですね。それでは、よろしければあなたをこの世界から元の世界にお戻ししようと思いますが』

「できるのか。頼む」


 美少女たちとキャッキャウフフも悪くはないが、やはり元いる世界に帰るのが1番だ。あんなところでもな。


『それでは、また、いつの日にか』

「あぁ」


 俺の意識は、真っ白な光の中に消え去った。



 ---


 気がつくと、俺は元の安アパートにいた。変な夢だった。一体なんだったんだ?いくら現実がつまらないからって、あんな変な夢見たのはなんなの?何も持ってない手をじっと見た。


「全く、ストロング0、と言って手にストロング0が出るとかどんなんだよ」


 突然、0


 -了-


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異世界ストロング0 とくがわ @psymaris

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