ストロング0には原液がある


 女の子が落ち着いてきたし、そろそろ移動しようと思う。何しろ俺にはストロング0という意味不明?な能力(異能だっけ?)しかない。上手く使えば先ほどの怪物すら倒せるのはわかったが、それにしたって汎用性無さすぎるだろこの能力。


 しかし喉乾いたな。ストロング0しかないが、こんなものでも飲むしかない。先ほど振った気の抜けたストロング0を一気に飲む。キツいなアルコールが!炭酸なかったら飲みにくいだろこれ!振った俺が悪いから製造者には一切責任はないが、にしてももうちょっと飲みやすくしてほしい。


「あ。あの……」

「どうしたの?」

「これから、どうしますか」

「と言われても、これでも正直面食らっているんだ」

「え?」

「俺のいた国には、さっきのブタみたいな怪物なんていなかった」


 女の子はキョトンとしている。それはそうだろう。そんな怪物がいない国から来たにもかかわらず、いきなり襲いかかってきた怪物を突然謎の液体で目潰し、急性アル中で昏倒死させたのだから。


「だったらなんで……」

「わからない。異能ってわかるか?」


 女の子の表情が明るくなる。


「異能者様ですか!?それなら魔物を相手にしてもやりあえたのは納得です!」

「そうなのか?……ストロング0」


 掌にストロング0が出現する。


「飲むかい?……冷えてるなこいつ。冷えてなかったら美味しくないからいいけど」

「なんですかこの筒」

「え?……あ、そうか。缶がわからないか。これは缶と言って、飲み物を長い間保存できる入れ物だ」

「へー」


 女の子はしげしげとストロング0の缶を見つめる。俺は彼女の分のストロング0を開ける。


「カシスとぶどう、どちらがいい?」

「うーんっと、ぶどうで」

「ほいどうぞ」

「うわっ!冷たいっ!すごい!」


 冷たいのがすごいのか。……この世界の文明には期待できそうにないな。自分の分のストロング0を少し飲む。おかしいな、酔いは感じるが、かなりの量を飲んでいるはずなのに身体の方はなんともない。


「うっ……ってエールみたいにシュワシュワしてるのに甘いですね。でも……ちょっとキツくないですか?」

「ストロング0だからな」


 アルコール度9%、ビールの2倍近い。効率よくアルコールを摂取するために特化した酒、それがストロング0である。


「こんなに強いの飲んでなんともないんですか?」

「前は4本飲んだらダウンしてたな。でも今はなんともないな」

「大丈夫なんですか身体」


 確かにこんなに強い酒を飲んでいたら、身体に問題が起きても不思議はないが。しかし、次の瞬間、俺は目前の文字で理解した。


「異能:ストロング0分解特化……アルコールを効率よくエネルギー源に変換できる」

「異能:ストロング0耐性……急性アルコール中毒に極めてなりにくい」


 ストロング0だけで生きていけるレベルの異能だ。とはいえ、アルコール、正確にいえばエチルアルコールはエネルギー源にこそなれ、タンパク質の生合成はさすがに無理だと思われる。タンパク質の摂取は必要か。


「なんにせよ、ひとまず君を家まで送って行こう」

「……家はもう……ダメだと思います」

「さっきの奴の仲間か」


 女の子は小さく頷いた。


「他の近くの町はないかな?」

「朝から歩いて1日近くかかります」


 それもダメか。今は昼過ぎだと思うから、そちらにも行けないな。


「……ダメ元で、君のうちに行こう。上手くすれば何か道具は手に入るし一晩くらいなら過ごせる。最悪ヤツらがいても俺が急性アル中にしてやる」

「急性アル中」


 真顔で繰り返されると対応に困る。


 そんなわけで、恐る恐る女の子の家に戻って来た。慎重に近づくと、不幸中の幸い、奴らは去ったあとだった。大したモノもないからか意外と荒らされていない。


 家の前から呻き声が聞こえる。誰だ?


「お、おじいちゃん!」

「アニスか!無事だったか!」

「こちらの異能者様が助けてくれたの」

「おお、ありがとうございます……ワシはもう……」


 女の子(アニスっていうのか)の祖父は腹に傷を負っているようである。医師ではないので傷の具合はわからない。


「何かきれいな水とかないか?」

「井戸は奴らに荒らされております……」

「くそっ」


 何とかならないのか。傷が化膿するのも問題だが、そもそも傷の深さがわからない。待てよ。


「ストロング0……違う!これじゃない!あるはずだ。ストロング0!」

「異能者様?」

「おじいちゃん、異能者様は魔法のお酒を出す力があるの」

「お酒?」


 そうだ、あれは缶じゃない!思い出せ!目の前にメッセージが現れる。


「異能:ストロング0ダブルコンクが解放されます」

「よし!ストロング0ダブルコンク!!」


 俺の両手の中に、紙パックに入ったストロング0ダブルコンクが出現した。高濃度のアルコールが含まれた原液である。


「ちょっと染みるが我慢しろ」

「は、はい……いつっ!いたい!!」


 ストロング0ダブルコンクで洗浄してみたが、意外に傷は浅かったようだ。アルコール濃度的にはダブルコンクでも物足りないがやむを得ない。


「後は傷口をガーゼか何かで抑えるしかないが、そのガーゼになるようなものないか」

「お母さんのハンカチがある」

「おい、それはあいつの」

「今はおじいちゃんの身体の方が大事でしょ」


 何やら大事なものを使ってしまったが、仕方ない。まずは少しはマシなのではないか。


「しかし腹が減ったな……ちょっとでも何かあるといいんだが……」


 奴らが見落としていたのか、吊るされていた腸詰が少しあった。


「爺さん、これ食べていいか」

「いいですとも。みんなで食べましょう」


 こうして残っていた腸詰を軽く茹でた。茹だった腸詰を少し食べつつ、俺は目の前のダブルコンクをどうするか考える。そして。


「よし。割ろう」

「割るとは……?」

「ストロング0」


 普通の缶のストロング0を出し、半分ほど飲む。そこに紙パックのダブルコンクを注ぎ込む。


「うぉ、これは効くわ。ストロング0が弱く感じてきたからな」

「えぇー」


 アニスとアニスの祖父がドン引きしているが、気にせず一気に飲み干す。イケるなこれ。


「異能:ストロング0スーパーが解放されます」


 何やら新しい異能に目覚めたようだ。早速使ってみる。


「ストロング0スーパー」


 黒い缶が出現した。こいつは……アルコール度12%だと!?これがストロング0スーパーか!俺のストロング0ライフは更に進んだということか。


「ちょっと飲んでみるか?」

「やめとく」


 二人にはストロング0スーパーはお気に召さなかったようである。残念だ。

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