異世界ストロング0
とくがわ
俺に残された最後のストロング0
会社をクビになった。
もはや笑うしかない。
そうだ、こういう時には現実逃避をするしかない、そう思いなけなしの貯金を全部下ろした。近くの酒量販店で、俺は店にある大量のストロング0を買い込む。
安アパートで一人、ストロング0の缶を開ける。乾いた音とともに水滴が跳ねる。勢いよく喉に流し込む。敢えていわせてもらうと、特段美味いものではない。しかし、脳の中にある不快な感覚が、流れ出すような気がする。
少しの肴としてチーズを齧り、再びストロング0を流し込む。俺は何を悩んでいたのか。何もないじゃないか悩みなど。あ。ロング缶が空いたな。もう一本開けるか。
先ほどより少しゆっくり飲もう。そうだ。俺にはもはや何もないんだから、飲もう。飲んで全てをゼロに変えよう。
ゆっくり飲んでいたはずのストロング0が、いつの間にか缶からなくなっていた。おかしい。こんなに飲んだはずがないのに……もう一本開ければいいだけのことだ。ストロング0の魅力はその価格にもある。俺のなけなしの現金で複数のケースが買えるのだから、素晴らしいではないか。
あれ、今開けたはずだよな?もうなくなっている?何かがおかしい気がする。そんなことも、もうどうでもいい。とにかく飲もう。
次の瞬間、俺は真っ白い空間に立っていた。
虚無だ。
どこから光がさすのかもわからない。
「あなたは、死にました」
機械的な音声が流れる。
「あなたは何者でもありませんでした。そして何者でもないので、虚無に帰ります」
そうか、そんなもんだろうな。早くラクになってくれ。手元にあるストロング0を飲み込む。
急に世界が赤くなる。赤と黒の点滅が発生する。
「異常事態発生!異常事態発生!消去モードを中断!直ちにリブートを開始!」
何だろう?サーバでも故障したのか?まぁおれの知ったことではない。ストロング0のロング缶を開ける。
「ストロング0を検知!緊急事態発生!直ちに対象を領域から切り離せ!」
ん?何でストロング0を検知するとまずいのか?別に機械にかけたわけでもないのに。
突然、再び世界が真っ黒になった。手元にあるストロング0を流し込む。次の瞬間。
「ここは……どこだ?」
青空の下の草むらに唐突な俺は放り出された。目の前に文字が表示される。
「異能:ストロング0を入手」
はあ?何だよそれ。ストロング0?さっきまで飲んでただろうが。
「ストロング0?異能?」
手元にストロング0の缶が出現する。
「んなっ!?ナンジャコリャぁ!!」
どうやら俺はストロング0をいくらでも作れる能力を持ったらしい。便利かこれ?まぁイヤなことがあったら飲めるから酒代が浮くな。
遠くで女の子の悲鳴が聞こえる。しかしここはどこなんだ?草むらの真ん中に立っていても仕方ないので、そっちの方に走っていく。
「イヤぁ!誰かぁ!!」
女の子が豚みたいなやつに襲われそうになっている。俺は手元にあったストロング0を投げつけた。
「ブヒっ!?」
豚野郎がこっちを睨みつける。こちらも豚の目を睨みつけつつ俺は叫ぶ。
「ストロング0!」
手元に再びストロング0が出現する。いくらでも出るとはいえ、武器としてはイマイチか?……まてよ。
俺はおもむろにストロング0缶を振り出した。そして指で押さえつつ奴の目にストロング0を勢い噴射する。
「プギャっ!?」
レモン風味のストロング0だ!そりゃ目に入ったら激痛だろうがよ!その次にはこれでも食らわせるまでだ!
「ストロング0!ストロング0!」
缶を連続して開け、転がりまわっている豚にストロング0を飲ませる!飲ませる!飲ませ続ける!ヤツめ、とうとう吐きやがった。
「吐いてんじゃねぇぞ!俺のストロング0が飲めないのか!?」
豚は悶絶している。知ったことか豚野郎が!さらに飲め!
「ストロング0!ストロング0!ストロング0おおお!!!」
叫びながら次々とストロング0を流し込むうち、豚野郎の顔色が青くなってきた。そして……死んだ。また目の前に文字が出現する。
「レベルアップ。異能:ストロング0、生成能力が増加します。異能:ストロング0サーバーが解放」
何だよストロング0サーバーって。やつてみるか。
「ストロング0サーバー」
目の前にドリンクサーバーが出現し、ストロング0が流れ出した。何なんだよこれ。
着衣を直しながら女の子がこちらに声をかけてきた。
「あ。あの」
「何だろ」
「助けてくれてありがとうございます」
「あ、あぁ」
ひとまず無事で何よりだ。しかしだ。
「ところで、ここはどこなんだ?」
「ここはアウスグラス大平原です」
「どこだろ?聞いたこともないな……」
「そうなんですか?」
どうやら俺は異世界転生してしまったらしい。ストロング0とともに。
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