原価ストロング0で交渉余裕でした


 ダブルコンクを使って割ったストロング0で体力回復した俺は、次の朝出発することにした。


「異能者様はこれからどうされます?」

「どうと言われてもこんな能力、異能だっけ?じゃ大したことできないだろ。近くの街でストロング0屋でもやるわ」

「ストロング0屋」

「仕方ないだろ、ストロング0しか出せないんだから」


 アニスと彼女の祖父は、変な味のガムでも噛みしめたような表情でこっちを見ている。そんな顔されても仕方ないだろ、他に何にも出せないんだから。


「しかし気になってるんだが、この異能で出る酒、何の代償もないのはなんでだ?」

「普通の異能者様は己の魔力を代償にされるようですが、ないんですか?」

「そもそも魔力とか0だし」


 どうやらこの世界には奇跡も魔法もあるようなのだが、魔力もない俺には無縁である。


「何か怖いけど、他に頼れるものもないんだから仕方ないな」

「なんの代償もない……そんなムシのいい話があるのかな?」


 アニスの気にしていることは俺も気にはなる。他の異能者は魔力を代償にするということだが、魔力もない俺には代償とする何かもない。まさか魂を代価に……とかはないよな。イヤだぞ、ストロング0の代価が魂とか。


 この世界に来る前のことを思い出す。真っ白な場所でお前は虚無だと言われたが、実際にはストロング0だけとはいえ取り出せる。俺が虚無だとしたら、このストロング0はどこから出てきたのか?


「変なこと考えても仕方ないな。それよりやはり街に行くことにしようと思うんだが、二人はどうする?」

「そうですな……我々も一緒に行くことにしましょう」

「そうね。でも途中で魔物が出たらどうする?」


 あんなブタみたいなのがまた出てくるのか?この前はうまくアル中にできたがそう上手く行くかどうか。しかし、それでもこの荒らされた村にいるよりは街に向かう方が現実的な解決策だと思う。


 二人が準備をしている間、俺はストロング0を飲みながら考えている。とにかく今後の俺の人生を左右するのはこの能力である。上手く使いこなせば食っていくくらいはできるだろう。能力の限界についても調べなければ。すこし気になることがある。


「ストロング0」


 テーブルの上にストロング0が乗るようにイメージして、異能を発動させる。自分から1m0した。


「待てよ」


 俺は外に出て、掌を中空に向けて再度ストロング0を取り出すことにする。


「ストロング0」


 果たして、0したではないか。落ちてくるストロング0。あっちゃー……落ちてきた缶が歪んでしまったな。歪んだところからストロング0が漏れ出し気泡を発生させている。俺は凹んだ缶を開け、ストロング0を飲みながら再び考えた。


 中空に出現させることができるということはだ、この缶を空から降らせられる、そういうことだ。昔空からミートボールが降る映画を見たことがあるが、これはそれに近いことができるだろう。ミートボールなら高度によるが当たったところで高が知れている。だがこいつは……


「異能者様?」

「ん?ああ」


 アニスと祖父が支度を終えて出てきたのに気がつかなかったな。そうだ。


「ちょっと頼みがあるんだが」

「なんでしょうか」


 俺はじいさんにあるものがないか聞いてみた。幸いなことにまだあったようだ。これがあればひとまず……。


 三人で街を目指すことにする。街までは結構あるという。街道が整備されてはいるのであまり深く考えなくても進めそうだが。


 朝のパンにオリーブ油(こっちの油が取れる果実の油らしいけど、なんていうかはわからない)塩入りをかじりつつ街道をゆく。ストロング0しか飲むものがないから俺は飲みながら進んでいる。


「あの、異能者様?」

「なんだ?」

「そんなに飲まれては身体が……」

「おじいちゃん、異能者様はいくら飲んでも平気なんだって」

「……異能者すごいのぅ」


 小声で変な生物扱いして呟いたの聞き逃してねぇぞジジィてめぇ。今回は見逃す。次はストロング0の刑に処す。慈悲はない。


 太陽が高くなり正午ごろだろうか、あとすこしというところで厄介な連中に出会った。


「なんということだ」

「どうした?」

「異能者様。山賊でございます」


 異世界ファンタジーの定番だな。しかしアニスをR18な目に遭わせたりジジィをR18な目に遭わせたりするわけにはいかない。後者はグロだと思うんだが、グロでない展開もやっぱり困る。


「金とか持ってないが……そうだ。ちょっと交渉してくる」

「お気をつけて」

「大丈夫?」

「心配すんな。奴らにちょっと美味しい思いをさせるだけだ。いうことを聞いてくれるならな」


 俺はそういうと山賊達の前にのこのこ現れることにした。6人か。


「へへへ、ここから先に行きたければ金目のものとかよこしな」

「ないならそっちの娘でもいいぜ」

「交渉の前にちょっとしたプレゼントがあるんだが」

「プレゼントぉ?」

「ストロング0、24本ケース……うぉ、重たっ」


 急に両手にストロング0ケースが出現したので俺はつんのめりそうになった。


「これな。異国の酒だ。エールみたいなもんだがむっちゃきつい。一本でダウンしかねない」

「一本で?そんなバカな酒があるか?」

「いや、火酒スピリッツならありえるだろ」

「でもエールでそれはないだろ」


 山賊たちが口々に言い合う。リーダーっぽいやつがこちらに聞いてくる。


「この紙箱に酒が詰まってるのか?」

「いや、この中に缶が……おっと酒が入った容器がある。開けていいか」


 山賊のリーダーはうなづく。24本ケースを開けることにした。中から缶が出てくるのを山賊たちは不思議そうに見ている。


「おう、これな。開け方を説明する。みんな持ってくれ」


 俺は山賊全員に缶を配る。


「うお、冷たいぞこれ!?」

「なんだこの筒」

「凸凹がある部分に指をかけるところがある。ここを……みてみろ」


 小さな音とともに僅かに水しぶきが飛ぶ。山賊たちは興味津々でこちらをみている。


「次はおまえらな。やってみろ」


 山賊たちは悪戦苦闘しているな。やがてリーダーが成功したようだ。他のメンバーも成功した。


「あとはこのまま飲める。俺が先に飲む」

「おいちょっと待て、そのぶん俺たちの取り分が減るだろ」


 山賊のリーダーが文句をつけてくる。


「みみちいこというな。ストロング0」


 山賊のリーダーの目の前でストロング0を取り出す。目を白黒させる一同。さっきもケース取り出したのにな。


「ほれ。まぁみんなでまずは飲もう」

「飲んでみるぞおれは……うわっキツいぞこれ!」


 山賊の一人が口をつけてびっくりしたようだ。


「おれも飲んでみるか……なんだと!こんなエールみたいなの飲んだことないぞ!」

「俺は結構好きかも」

「キツすぎる……」


 一同口々に酒を飲み出した。ほらほらもっと飲め。酒ならいくらでもくれてやる。


「まだまだ酒ならあるぞ」

「いや、ちょっと待て。此処で酔い潰れたら俺たちが金目のものとか奪えないじゃないか」

「金目のものの代わりに酒はどうだ」

「どれだけ出せるんだ?」

「ストロング0ケース、ストロング0ケース、ストロング0ケース……」


 山賊のリーダーの目の前にストロング0ケースを3つ積み上げる。


「ストロング0、ストロング0、ストロング0」


 その上に缶を3つ積み上げた。


「さっきのぶんとあわせてストロング0が100本。どうだ」

「まだ少し足りないな」

「そうか?なら飲んでくれ」


 俺は積み上げた缶を開け、山賊のリーダーに渡す。リーダーも無言で飲む。


「よしならこうだ。あと100本をプレゼントだ。しかもロング缶だ!」

「ロング缶?」

「ストロング0ロング、ストロング0ロング、ストロング0ロング、ストロング0ロング」


 ロング缶をケースの上に4本出す。そして、別の地面に向かって異能を発動させることにした。


「ストロング0ロングケース、ストロング0ロングケース、ストロング0ロングケース、ストロング0ロングケース」


 積み上がるストロング0ロングケース。山賊の一人がクラクラしだした。


「おい、この酒何か入ってるんじゃないか?」

「なんも入ってねぇよ。キツいだけだ」

「くそ、もうダメだ」


 座り込む山賊。他の山賊もクラクラしているようだ。おいしっかりしてくれよ。


「ロング缶100本、キツい酒だからのんべのおまえらでもしばらく持つだろ」

「まぁ美味いは美味いが……」

「ところでこの酒だが、おまえらなら一本いくらで買う?」

「山賊の俺らに聞くなよ」

「んー、大銅貨5枚くらい?わからん……」

「銀貨は出せないぞ」


 山賊たちは揉めているようだな。


「これ全部だといくらくらいかわかるか」

「わからんが金貨5枚にはならないな」

「そうか……」

「むしろこの容器がすごい」

「もうダメだ……」


 とうとう山賊の中に座り込むヤツが出てきた。おいおいこれくらいでへばるなよ。俺はストロング0を飲みながら一瞥する。


「お、お前どれだけ酒強いんだよ」

「んー?大したことないぞ。お前らが弱いんじゃないの?」

「なんだとてめぇ……うぇっ、吐きそう」

「んじゃそろそろ通してもらおうか」

「待てよ」


 山賊のリーダー、短剣を俺の首に突きつける。ちっ、潰れないかこいつは。


「まだ金目のものとか貰ってないぞ」

「……んじゃ金目のモノをくれてやる。ストロング0サーバー」


 地面に突然現れるストロング0のサーバー。空き缶にストロング0を注ぎ込む。そしてまた飲む。


「もう飲むの見るのも気持ち悪くなってきた」

「というわけで酒を冷やしたりできる機械だ。エールとかにも使えると思う」

「確かにすごいが……うーむ……」

「どうする?お前らはヘロヘロ、俺はなんともないぞ。これを素直に受け取って俺を通せばお前らは幸せになれる」

「ちっ……」


 山賊のリーダーだけがなんとか立っていて、部下の連中は完全に潰れている。初めて飲んだストロング0はちょっと刺激が強すぎたか?


「……その娘だけはもらって行くぞ!」

「そんなこったろうと思った」


 目の前に新たなメッセージが現れる。


『異能:ストロング0:派生:強零酔拳』


 なんだこれ?俺にも酔いが回ってきたのか?


「どうするんだ?」

「交渉決裂だ!」


 山賊のリーダーが俺に短剣を突き刺そうとするが、千鳥脚で回避する。


「なっ!?酔っ払いに?」

「酔っ払いの動きを真似重心の移動をコントロールする拳法!」

「舐めやがって!くそ!当たれ!」

「スローリィスローリィ」


 などと短剣の刺突を千鳥脚でかわしつつ、ふざけたことを言いながら俺はストロング0に口をつける。


「バケモノめ」

「ただの人間だよ、お前よりはちょっと強いかもしれないが」

「言ってろバケモノ」

「端盃酒!」


 全体重をかけた突きで、持っていたストロング0缶ごと山賊のリーダーを殴りつけ吹き飛ばす。結構飛んだな。酔った上の運動は素人にはオススメできない。


 時間を食っちまったが仕方ない。ひっくり返っている山賊を横目に先に進むことにした。ストロング0は置いてってやるからいい夢見ろよお前ら。

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