運営に忖度(そんたく)することにした小説家の末路。

ちびまるフォイ

もちろん、あなたは忘れてませんよね?

カクヨムで小説を書かない。


それの楽しみを知らない人があまりに多すぎる。

応援コメントするとポイントが入る。

レビューをしてもポイントが入る。


そうして我が子のように後押しした作品が評価されるのを見ると本当に嬉しい。


読専ならではの楽しみと出会いがある。



私は今日もカクヨムに生み出される新着小説を無差別に読んでいく。


「……なにこれ?」


ひとつの小説に目がとまった。

キャッチコピーも内容も真っ白の小説。空白を入れているのだろうか。


タイトルには「なにもない小説」


私はふざけて応援コメントを書いた。



>応援コメントはありますよ



送信後、ちゃんと掲載しているか小説を見てみるとコメントは掲載されていた。

それだけじゃない。


私の応援コメントが小説の中にも反映されていた。

さっきまで空白だった小説に私のコメントが反映されている。

明らかに早すぎる。人間技じゃない。


「これコメントを小説に反映するのかな」


何度かコメントを書いていくと、それを小説の方に反映していく。

面白がって書いていくうちに小説が「話題の小説」へとリストアップされた。


私で溢れている応援コメントと、小説内容との一致に気付いたほかの読み専も

同じように応援コメントに物語の続きを書いていく。


―――――――――――――

応援コメントはありますよ。

これはコメントを小説に反映しているのですか?

面白い試みだと思います。

新しいツールやアプリを使っているんですか?


「質問はそれまでだ」


魔王は私の質問を遮るようにして杖を振りかざした。


「たかし! あんたいつまでゲームしてるの!」


「母ちゃん!! 勝手に宇宙ステーション入るなって言ってるだろ!」

―――――――――――――


応援コメントに長文を投稿する人もいないので、

読み専ユーザーたちによる縦横無尽な展開が小説に書きたされていく。


まるでリレー小説。

でも、ずっと軽い感じで書いていける。


「これ、レビューしたらどうなるんだろう」


この小説にはなんらかの仕掛けが施されている。

レビューを書いたらまた何か変化が起きるかもしれない。


私は新しいおもちゃの遊び方を探すようにレビューを書いた。


単にほめたり紹介するものではなく、

物語に反映されやすいように、物語を紡ぐようなレビューにした。


「ふふふ、変わってるかな?」


わくわくしながら小説を見に行く。どんな化学反応があるのだろう。




「……変わってない?」


小説には何も変化はなかった。

あくまでも応援コメントだけで更新されている。


「なーんだ。期待しすぎちゃった」


すっかりなえてしまったので別の小説を発掘しようとカクヨムTOPに戻る。

そこには、見覚えのある小説が新着として投稿されていた。


「うそ!? これ、私がレビューした内容!」


中身には私が書いたレビューの内容が反映されている。

さっきの小説と同様に応援コメントを書けば中身に自動反映される。


「レビューすると、小説が増殖するのね!」


すっかり空白小説の魔力に取りつかれてしまった。


小説は応援コメントがある限りリアルタイムに進んでいく。

カクヨムは筆に覚えのある人が書くから、物語の破たんも少ないし、超展開で飽きない。


私のレビューで増殖した小説もどんどんコメントがきて、物語が増えていく。

こんなに嬉しいことはない。


日課だったほかの小説発掘もしなくなり、空白小説ばかり見るようになった。



やがて、空白小説がメジャーになるころ、私の心にはじわじわと黒い感情がにじみはじめた。


「これ最初に発見したのは私なのに」


空白小説はいまや光回線よりも早い速度で更新される。

増殖した小説もどんどん更新される。


でも、増殖させたのは私。私が生みの親。


「なんでこいつら好き勝手に私が生み出した小説書いてるのよ」


古参だけでなく新参も入って来たのはいいけれど、

荒らすようにエロコメントやわざと破たんさせるようなコメントも入れてくるし。


自分の家の壁に落書きされるように気分が悪い。


「こんな連中、追放されればいいのよ! みんな消えちゃえ!

 マナーの悪い人なんて消えればいい! 空白小説に触らせない!」


変なコメントを残して空白小説を汚すユーザーには

近況ノートにアクセスして批判する。


批判に反論してきたらしめたもの。

それを理由に運営に通報し、悪質ユーザーとして烙印を押させる。


被害者を演じるのは得意。女社会で培われた経験がある。


いくつものユーザーを自粛させ、はては退会まで追い込むと

空白小説はもとの私の求めた清廉な小説へと戻った。


「やった! 私が勝った! 悪い人間は消えた!!」


この嬉しさを誰かに伝えたい。

真っ先に浮かんだのが近況ノートだったのでマイページにアクセスする。


「あれ……?」


小説管理ページには見覚えのない小説が投稿されている。

タイトルは「けせない小説」


「私、こんなの書いてないのに」


小説を開いた瞬間、思わずスクロールする手が止まった。


―――――――――――――――

あなたの書いた『異世界TRPGで世界を救う』読みました。

ありきたりすぎて面白くないですね。

TRPGの要素よりも女と乳繰り合うばかりじゃないですか。

結局、作者の妄想や願望を主人公という形で吐き出した小説ですね。

自己満足だけならブログでやってください。



あなたの書いた『弱小高校生の恋愛事情』読みました。

どう頑張っても少女漫画のコピペです。オリジナリティゼロ。

イケメン男子に囲まれたいだけでその先がない。悩みもない。

顔のいいアンドロイドと結婚したら?はい論破



『諦めずにアイデアを出し続けるメソッド講座』読みました。

まずこれジャンル間違ってますよ。エッセイカテが正しいです。

ランクイン狙いでカテ変えるとか評価乞食ですか。

内容も結局は「いっぱい書く」「いっぱい読む」の根性論ばかり。

具体的な対策が書けないなら、自分の分析をひけらかしたいだけじゃないですか。

―――――――――――――――


批判という体裁でありながら、あくまでも相手の人格を傷つける文体。


自分を表現する小説だからこそ、否定された時は自分の内面の否定につながる。

それを知ったうえでの鋭い中傷の数々。


「全部……私が残した……批判……」


近況ノートに、レビューに、コメントに残してきた私の履歴。

なにもかもが自動回収されて、「けせない小説」へと反映される。


名前にたがわず「小説の削除」ボタンはない。


「ちがう! 私はただ小説の腐敗を防いだだけ!!」


けせない小説は内容の編集もできない。

小説の内容にかかわる方法はただひとつ。



――応援コメントの内容が小説に反映される。



空白小説と同じ。


応援コメントには私に傷つけられたユーザーによる小説が書き足される。

悪意と憎悪がひしひしと感じる恐ろしい小説。


―――――――――――――――

「お願いゆるして! 私が悪かったわ!」


主人公は鼻水を流し顔をぐしゃぐしゃにしながらも謝る。

怒り狂った男が次に取った行動は――


主人公の手の甲を焼いた棒で貫いた。


「あああああああ!!!」


甲高い悲鳴が心地よく響き渡る。因果応報。

主人公は自分の罪を何度も何度も反省したが……

―――――――――――――――


主人公という名の私がズタズタにされている。


増殖したどの空白小説よりも恐ろしく早い速度でコメントされ更新される。

煉獄のように延々とつづく私への復讐の数々。


「お願いゆるして! 私が悪かったわ!」


小説の主人公と同じ言葉を私は叫んだ。










そのとき!!




悲痛な叫びを聞いて助けにきたのは全身タイツのカクヨムマン!!


「ハッハッハ! 僕はカクヨムマン! 変態じゃないよ!!

 僕はどんなに絶望的な展開も変えてしまうのさ!!」


カクヨムマンは腰をくねらせて不思議な踊りを踊った!!

カクヨムマンは小説投稿の際に☑を1つやった。それだけ。


「僕ができるのはこれまでだ!!」


カクヨムマンは去っていった。

以前、批判も炎上も憎悪の小説更新も止まらなかった。


「なんだったの……このくだり……」


 ・

 ・

 ・


「圧倒的なPV数と、異常な数の応援コメント!

 それに伴う爆発的な量の★の評価数!!

 まちがいなくカクヨムコンテスト優勝はあなたです!!」


「ありがとう、カクヨムマン!」


カクヨムマンが最後に行った「第3回 カクヨムWeb小説コンテスト」へのチェック。

本当にあのとき応募しててよかった!!




第3回 カクヨムWeb小説コンテスト 開催中!!


応募をお忘れなく!!!!




おら宣伝エンディングだぞ。泣けよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

運営に忖度(そんたく)することにした小説家の末路。 ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ