その身を挺して仲間を守る、盾役というのがあります。
大抵は自己犠牲の美談になったり、はたまたゲーム世界では敵の攻撃を一身に引き受ける頼もしい前衛だったり。
本作は、両方です。
自分の体を敵前に投げ出すわけですから、一回死にます。しかも自分の意志ではなく、一方的に盾代わりにされています。何てこった。ひどい話です。
……しかしそれがきっかけで、本当に『盾』役として超常的なパワーを与えられて生き返り、ヒロインを守る役目をおおせつかりました。はっきり言って非凡です。そんな出会いアリかよ。窮地を救ってボーイミーツガールなら数あれど、死してなお復活させられて盾を強制させられるとかアリかよ。
半ば無理やり盾役にされている気がしますけど、もちろん役得もあります。
なし崩し的にヒロインと同居したり、盾の対価として日常生活ではヒロインが何でも言うことを聞くとかいうウッソだろオイそれっておま(検閲)だったりと、損得ひっくるめてトントンという境遇です。
攻めに特化したヒロイン、受けに特化したヒーロー。
この世ならざる『魂鬼』退治する攻守一体のバディアクションが開幕します!
大剣を用いて鬼退治する美少女と、その盾になった主人公の物語。バトルシーンはカッコよく、学校生活は楽しく、時にシリアスでもある、いろいろな魅力が凝縮されたような作品。
題名にもなっている遥は、人間の魂魄が異形となって人を襲う「鬼」と日夜戦っていた。そこ居合わせた主人公は、遥の文字通り「盾」になり、共に敵を倒すこととなる。二人の関係は主従であり、同居人であり、クラスメイトでもある。そして主従関係はどちらが上か……。主人公を「盾」と呼んでいた遥が、主人公との関係を通して変わっていくところも見どころだ。
そして敵も一枚岩ではない。「鬼」は元は人間であり、たとえ異形となってもその人間を想う人間がいる。この人間の「殺さないで! この姿になってもあの子なの!」という叫びは切なかった。そしてそんな人間の前で、大剣を振るわざるを得ない遥の在り方も、切ない。憎まれようとも他人に仇名す存在となった「鬼」を斬る遥の責任は重く、決意の大きさが忍ばれる。しかし、遥の仲間たち(同業者たち)を殺した相手は、「鬼」ではなく、「人間」だった。果たして、誰が本当の敵なのか――?
また主人公と同じ学校の生徒として、また同居人として、周りの人々とかかわり、遥や主人公の関係性に変化がもたらされるのも魅力の一つだ。様々な人々とその出会い。そして主人公の体の謎。果たして主人公は何故、遥と出会い、盾になることができたのか?
まだまだ物語は続いていきます。これからも目が離せない謎多き作品。
是非ご一読ください。
主人公木藤拓斗と、ヒロイン剣崎遥の出会いを軸として、導入部としての1章が終了した本作『剣崎遥は盾を所望する』。気のいい友人たちと危ない先生、イッてる母親(笑)に囲まれたお人好しの主人公とデレる彼女といった人物相関図は、ある意味ライトノベル的とでも言いましょうか。表面的には、わいわいがやがやと賑やかな作品になっています。
タイトルだけ見れば所望するほうの遥が上位で、盾になる拓斗が、それに付き従う立場のような印象を受けますが、“一方的な主従関係は良くない”ということで、両者の権利は至極平等だとか。戦闘中は剣たる遥が主人、プライベートでは拓斗が上位と、男女“所望”機会均等法にのっとった公平ぶりは、ジェンダーフリーが叫ばれる今の時代になんとも則したもの。
スリーサイズが上から84・56・80というスタイル抜群の美少女を“下僕”にできる! なんとも羨ましい展開は男の夢と欲望を加速させてくれます。作者の狼狽騒氏いわく“拓斗はヘタレ”とのことですが、いやいや、ンなこたぁねえだろう。きっとこれから、あんなラブラブ展開やこんなエロエロ展開が待ち構えているに違いない、と今後に期待させていただきますよ狼狽さん!
本作に登場する怪物は“魂鬼”。これは怨念や後悔を抱えたまま死んだ人間の魂が具現化したもの。それと戦う遥ら“スピリ”の宿命を描いた『人間の定義』の章は必見の出来になっています。光に対する闇(職業的な達成感と、それに付随する可能性がある闇の部分)、記憶と忘却、母と子……シビアな展開の末に何処か光明もさすラストは本作品が単なる明朗明快愉快なだけでなく、心理描写に重きをおいた叙情的側面を持つことの証明と思われます。わいわいがやがやと賑やかなだけではなかった!
伏線らしきものがちらほら見られますが、狼狽氏の職人芸で徐々に回収要素もパワーアップしてゆくに違いない『剣盾』。今後の展開に乞うご期待!
作者様が掲げるタイトルと帯を見て比喩だと思って読み進めたら、実は喩えでもなんでもないそのままの意味だったというところに、まず意表を突かれてしまいました。
盾って、まさに盾になることだったんですね。
物語はいきなり引き込みの強いシーンから始まり、さらにプロローグの締めの「剣崎遥の、『盾』となった」という意味不明な気になる一文に心を掴まされました。
遥の盾となった拓斗ですが、物語が進むにつれて守る道具でしかなかった『盾』の力は、やがて遥を守ろうとする意志の強さへとその意味を変えていきます。
面白おかしい日常、バトルの緊迫感、ときに泣ける切なさ。
読者を楽しませる要素がたっぷり詰まった、ある種王道のライトノベルではないかと思います。